2015年06月30日

最高裁判決平成21年(行ヒ)324〜326号が掛けた謎


 特許権の存続期間の延長制度の問題に関して出された先の最高裁判決 平成21年(行ヒ)324〜326号(平成23年4月28日判決)。 しかしその判決内容は不可解であり、まるで謎かけのようだ。
 平成23年12月に特許庁が改訂した審査基準、そして昨年5月に知財高裁が出した大合議判決。 これらはいわば、先の最高裁判決が出した謎かけに対して、それぞれが出した答えだ。
 4月10日の投稿の最後で既に私の考えは書いてしまったけれど、本稿では、改訂審査基準と大合議判決との間の延長に対する考え方の違いとその背景を考察するとともに、あるべき延長制度においては、そのどちらでもなく、「有効成分と効能・効果」 に着目した旧審査基準に似た考え方が再び採用されるべきであることについて説明する。 それが最高裁が出した謎かけに対する答えだ! 

Sotoku, 通号5号, 1-35, 2015  (published online on 30-06-2015)

タイトル: 最高裁判決平成21年(行ヒ)324〜326号が掛けた謎

─ 特許権の存続期間延長制度における特許庁と知財高裁の対立とその解消 ─

著者:  想特 一三 (Sotoku Ichizo)


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2015年06月24日

平成25年(行ケ)10195〜10198大合議判決傍論の必然性


 大合議判決 (平成25年(行ケ)10195〜10198) において知財高裁は、延長された特許権の効力範囲について触れ、その効力範囲は、承認された医薬品とほとんど変わらない範囲 (承認された医薬品と客観的同一性がある医薬品、およびその医薬品と分量が違う医薬品を含む範囲) に過ぎないと説示した。 これに対して特許庁は、審査基準で直接規定してはいないものの、審査基準の改訂の際に公表したコメントにおいて、「延長された特許権の効力範囲」 は 「先行医薬品の承認により実施できるようになる特許発明の範囲」 (67条の3第1項第1号) と同じく、一定の広がりを持った範囲であるという見解を示しており、特許庁と知財高裁の立場は著しく異なっている。
 そして今年の1月5日および4月15日には日本製薬工業協会が (製薬協のHPの2015年1月5日および4月15日の意見表明を参照)、3月30日には特許庁が (4月10日の投稿を参照)、5月29日には日本ジェネリック製薬協会が (6月17日の投稿を参照)、あいついで大合議判決の傍論に対して批判的な意見を掲載した文書を公開した。

 私も大合議判決を支持しているわけではないし、大合議判決が出た当初は、大合議判決が確定してしまったら大変だと思う気持ちの方が強かったが、ここまで大合議判決批判一色になってしまうと、バランス上、大合議判決の正当な部分を評価しなくてはという気持ちになってしまう。

 1987年 (昭和62年) に延長制度ができてから先の最高裁判決 (平成21年(行ヒ)324-326) が出されるまで、ある医薬品の承認を受けて延長された特許権の効力は、その医薬品と有効成分と効能・効果が同一の全ての医薬品 (もちろん特許範囲内のものに限るが) に及び、かつ、その医薬品と有効成分と効能・効果が同一の別の医薬品の承認をさらに受けても、再び延長することはできないという運用がされていた。 このような審査運用は、一度延長された範囲 (有効成分と効能・効果が同一の範囲) については、何があろうと二度と延長されることがないため、同じ発明が何回も重複して延長されることがない制度だったと言える。
 しかし最高裁判決 (平成21年(行ヒ)324-326) は、

 最高裁判決 平成21年(行ヒ)326 より引用 
 先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。 なぜならば,・・・,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。

 と説示し、たとえ有効成分と効能・効果が同一の先行医薬品が存在していても、先行医薬品が特許範囲に含まれない特許を持っている限り、その特許の延長を認めなければならないと判示した。
 この最高裁判決を受けて改訂されたのが現在の審査基準であり、現在の審査基準は最高裁判決と矛盾しないものとなっている。 しかしながら、最高裁判決は何通りにも解釈できるものだから、現在の審査基準は最高裁判決と矛盾しないとは言えても、最高裁判決に支持されているものとは言えない。

 現在の審査基準における延長された特許権の効力範囲は、物質特許や、物質の単純な用途特許の場合は、旧審査基準と同じ 「有効成分および効能・効果が同一の範囲」 となり、それ以外の特許の場合は、その特許発明の発明特定事項に応じて決まる一定の範囲となる。 そしてこの審査基準の改訂の際に特許庁は以下のようにコメントした (もう何回も引用しているけど…)。

 『「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対するご意見の概要およびその回答』より引用 (下線追加)
 ・・・、第67条の3第1項第1号における 「特許発明の実施・・・の範囲」 と、第68条の2における 「・・・延長された場合の特許権の効力の範囲」 は、原則として一致していると解釈することが合理的であると考えます。 改訂審査基準は、この解釈を前提としています。

 上記のように解釈しないと、ご指摘のとおり、一の特許権に対応する複数の処分がある場合に、例えば以下のような不都合が生じると考えます。

 仮に、前者の範囲が後者の範囲よりも狭いと解釈すると、先行処分によって実施できるようになっていたといえない範囲において後行処分による延長登録が認められた結果、複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複し、この重複範囲について複数の異なる存続期間の延長がなされるケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することになります。
 他方、仮に、前者の範囲が後者の範囲よりも広いと解釈すると、先行処分によって実施できるようになっていたといえる範囲においては後行処分による延長登録が認められないにもかかわらず、先行処分により延長された特許権の効力は後行処分に対応する範囲には及ばないケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨に合致せず権利者に不利益を及ぼすことになります。

 ところが上記の特許庁のコメントが当てはまるのは 「1つの特許内」 に関してだけで、例えば剤型ごとに分割出願を行って複数の特許を取得しておくことで、簡単に多重延長ができてしまうことは前回の投稿で述べた。 つまり、現在の審査基準において、「延長登録を拒絶する範囲」(第67条の3第1項第1号の範囲) と 「延長された特許権の効力範囲」(第68条の2の範囲) は事実上、一致していないのであって、特許庁が言うところの 『複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複し、この重複範囲について複数の異なる存続期間の延長がなされるケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することになります』 という事態が起きる審査基準になっているのだ。

 具体的には、例えばある有効成分に関する物質特許を保有していて、初めに注射剤型の抗癌剤の承認を受けてその特許権を延長した場合、現在の審査基準によれば、延長された特許権の効力範囲は 「有効成分と効能・効果が同一の範囲」 となるから、承認を受けた注射剤に限定されず、あらゆる剤型を含む範囲となる。 しかし、もし他の剤型 (例えば経口剤) について分割出願をして特許を取得しておき、経口剤の医薬品について後行承認を受ければ、その承認に基づいてその剤型特許を延長することができる (下図)。

多重延長01.png

 そして改訂審査基準に従えば、延長された特許権の効力が及ぶ範囲は、剤型特許の特許発明の発明特定事項に応じて一定の広がりを持った範囲となる。
 また、剤型をさらに限定してカプセル型の剤型について分割出願を行い、その特許を取得しておけば、同じ有効成分を含むカプセル剤について追加承認を受けることで、その特許を延長することもできる(下図)。 そして延長された特許権の効力が及ぶ範囲は、やはり一定の広がりを持った範囲となる。

多重延長02.png

 また、他の抗癌剤との併用用途について分割出願を行って特許を取得しておけば、実際にそのような医薬品について承認を受けることで、その特許を延長することもできる(下図)。 物質が新規なのだから、たとえ相乗効果がなくても併用用途に進歩性はある。 したがって、併用に関してなんら実験していなくても併用用途の分割出願が特許になる可能性はかなりある。

多重延長03.png

 また、適当な用量や用法について分割出願を行って特許を取得しておけば、実際にその特許範囲に含まれる医薬品について承認を受けることで、その特許を延長することもできる(下図)。 

多重延長04.png

 このように、現在の審査基準のもとでは、同じ有効成分を含み、同じ効能・効果に用いられる医薬品であっても、想定される剤型や用法について別々の特許権を取得しておくことで、それらの医薬品の承認を受ける度にそれぞれの特許権を延長することができる。 現在の審査基準においては、そのようにして延長される特許権の効力範囲には上述の通り一定の広がりがあり、かつ、初回承認で延長されている「有効成分および効能・効果」の範囲内にあるのだから、それらを合わせてみれば、下図に示した通り、最初の承認ですでに延長されている部分が、何度も延長し直されることになるのだ。

多重延長05.png

 これはまさしく特許庁の言うところの 「複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複し、この重複範囲について複数の異なる存続期間の延長がなされるケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することになります。」 という事態ではないか? 特許庁は、こういう事態を 「延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護すること」 だと言っておきながら、そういう事態が起こる審査基準を自ら作っているのだから自己矛盾を起こしている。

 では、そうならないようにするにはどうすればいいか? 当然、複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複しないようにするべきだということになる。

 ところで最高裁は上記の通り、先行医薬品が特許範囲に含まれない特許を持っている限り、その特許の延長を認めなければならないと判示した。 そして上記の通り、「分割出願」 という手段を使えば、先行医薬品とほとんど同じだが、先行医薬品は特許範囲に含まない特許は簡単に取得できてしまう。 そういう特許が延長されても 「延長された特許権の効力範囲」 が互いに重なり合わないようにするためにはどうすればよいか? 答えは1つしかない。 「延長された特許権の効力範囲」 を非常に狭く設定するしかない。 理屈の上では、医薬品の用量ごとに分割出願することだって不可能ではない。 そうすると、特許権者がどれだけ分割出願して延長しようが、延長された特許権の効力範囲が重なり合わないような制度にするためには、用量だけが違う医薬品すら 「延長された特許権の効力範囲」 に含まれないようにすること、すなわち、個々の延長された特許権の効力範囲は極限まで狭くするしかないということになる。 これが大合議判決の傍論だ。 つまり、大合議判決が 「延長された特許権の効力範囲は狭い」 と説示したのは必然だったんだよ。
 最高裁判決のもとで 『延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護すること』 を避けるためには、「延長された特許権の効力範囲」 を極限まで狭くするしか解決策がないのだ (他にもあるけど、それはSotoku 5号で。)。

 このように、大合議判決の傍論の説示は、最高裁判決のもとで 『延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護すること』 を避けるためには避けられない結論なのだから、それを単純に批判するのは間違っている。 大合議判決を批判するのなら、まず最高裁判決が批判されなければならないだろうし、分割出願を利用した多重延長を 「特段問題はない」、「メリット」 だと発言し (前回の投稿を参照)、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することを容認している現在の審査基準だって批判は免れないだろう。

 このように、悪いのは大合議判決だけじゃない。 全てつながっている。 それに大合議判決は、現在の特許庁の審査基準が容認している不適切な多重延長を明確に否定したという点では画期的な判決だ。 特許庁や先発企業がこの判決を批判ばかりしているのも不適切だとは思うが、ジェネリック業界までが一緒になって大合議判決ばかり批判して (6月17日の投稿を参照)、大合議判決の画期的な部分を正当に評価しないとは一体どうなっているのか!?


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2015年06月19日

審査基準を利用して特許の多重延長を目指す先発メーカーたち


 昨年7月23日の投稿 「本件処分が必要であったか否かは、特許の広さに左右されるか?」 で、『現在の審査基準のままだと、複数の裁判官たちが不適切だと指摘していた事態、すなわち 「狭い特許を作っておいたやつだけが得をする」 という不適切な事態は現実のものとなるだろう。』 と書いた。

 現在の審査基準は、物質特許については1回目の医薬品承認を受けるだけでその医薬品と有効成分と効能・効果が同一のすべての範囲について延長した特許権の効力が及び、その範囲内にある別の医薬品について承認を受けても、もやはその特許を延長することはできない。 しかし、たとえ先行医薬品の承認に基づいて物質特許を延長済みであっても、先行医薬品を含まない発明について分割出願を行って特許にしておけば、その特許を延長することができる。 したがって、物質特許の出願から剤型ごとに分割出願して剤型ごとに特許をとっておけば、たとえ有効成分と効能・効果が同じ医薬品についてすでに承認を受けて物質特許を延長済みであっても、新しい剤型について追加承認を受けるたびに剤型特許を延長することができてしまうのだ。
 これは、初回承認の際に物質特許の延長で既に延長されている 「有効成分と効能・効果が同一の範囲」 について、剤型ごとに再び延長することが可能であるということだから、現在の審査基準は 「多重延長」 を容認していると言える。

 特許庁はこの審査基準ができたとき (平成23年12月28日)、この審査基準においては特許の延長を拒絶する範囲 (特許法67条の3第1項第1号の範囲) と延長された特許権の効力範囲 (特許法68条の2の範囲) が原則として一致しているという解釈を前提としているとして次のように説明している。

「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対するご意見の概要およびその回答 (http://www.jpo.go.jp/iken/pdf/tokkyoken_encyo_kekka/kaitou.pdf
 No.11-12 (下線追加)
 第67条の3第1項第1号における 「特許発明の実施・・・の範囲」 と、第68条の2における 「本件処分により存続期間が延長された場合の特許権の効力の範囲」 は、原則として一致していると解釈することが合理的であると考えます。改訂審査基準は、この解釈を前提としています。

 上記のように解釈しないと、・・・、一の特許権に対応する複数の処分がある場合に、例えば以下のような不都合が生じると考えます。

 仮に、前者の範囲が後者の範囲よりも狭いと解釈すると、先行処分によって実施できるようになっていたといえない範囲において後行処分による延長登録が認められた結果、複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複し、この重複範囲について複数の異なる存続期間の延長がなされるケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することになります
 他方、仮に、前者の範囲が後者の範囲よりも広いと解釈すると、先行処分によって実施できるようになっていたといえる範囲においては後行処分による延長登録が認められないにもかかわらず、先行処分により延長された特許権の効力は後行処分に対応する範囲には及ばないケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨に合致せず権利者に不利益を及ぼすことになります。

 つまり特許庁は、この審査基準は多重延長は起きないし、「延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護する」 という事態も起きないと言っているのだ。 しかし 「一の特許権」 と断っているところがミソだ。 確かに 「1つの特許」 だけを見れば起きない。 しかし複数の特許を合わせて見れば上記の通り多重延長は起きるのだから、現在の審査基準は、いわば多重延長のための抜け道がある 「ザル審査基準」 だと言える。

 しかも、審査基準改訂時に、これについてパブリックコメントで問われると、特許庁は以下のように回答した。

「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対するご意見の概要およびその回答 (http://www.jpo.go.jp/iken/pdf/tokkyoken_encyo_kekka/kaitou.pdf
 No.22 
・・・、例えば、分割出願により製剤に係る発明を別の特許権とすることで、別の特許権について存続期間の延長登録が認められるとすることに、特段問題はないと考えます。
 また、・・・、改訂前の審査基準に基づいた判断では、・・・延長登録は認められていませんでしたが、改訂後の審査基準に基づいた判断では、別の特許権であれば存続期間の延長登録が認められることになることから、この点において、審査基準の改訂により、延長の可能性が増えるというメリットが生じます

 すなわち特許庁自身が、分割出願という手法を使って多重延長を行うことを 「特段問題はない」、そして 「メリット」 だとまで言ってお墨付きを与えているのだから、先発医薬品メーカーとしては 「やって何が悪い?」 ということになるだろう。

 そして実際、この事態は現実のものとなろうとしている。

 4月10日の投稿で話題にした特許庁の 「医薬品等の特許権の存続期間の延長登録制度及びその運用の在り方に関する調査研究報告書」 には、特許延長に関する製薬メーカーへのヒアリングの結果が記載されており、それによると以下の通り、製薬メーカーは剤型ごとの分割出願を行うことにより多重延長を目指そうとしていることが分かる。

 「医薬品等の特許権の存続期間の延長登録制度及びその運用の在り方に関する調査研究」報告書
 (http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/zaisanken.htm#anchor8009
 300〜301ページ
 ・ これまでは、各種剤型を従属クレームに含んだ製剤特許を1件で維持しておけば良かったが、将来の剤型変更承認に備えて、各剤型ごとに分割出願しておく必要が生じている。

 ・ 1つの特許出願の中の下位概念(従属クレーム)について将来的に延長登録出願の可能性があれば、面倒でも別途分割出願を行う必要性が生じた。

 ・ 発明特定事項(最上位)により登録要件が判断されるため、将来の一部変更承認における延長機会を確保する目的で分割出願の必要性を検討することとした。

 ・ 延長登録出願の機会を設けるためにクレームの内容、分割出願要否を検討。

 こんなことでいいのだろうか? 前回の投稿 (『日本ジェネリック製薬協会は「1特許1延長」で満足なのか?』) の関連で言えば、今回の投稿で書いた多重延長問題は 「1特許1延長」 にしたところで防ぐことはできない。 分割出願により、物質特許とは別の特許にした上で延長するのだから。

 これでもジェネリック製薬協会は、大合議判決だけを批判して、現在の審査基準を批判しないのか?

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2015年06月17日

日本ジェネリック製薬協会は「1特許1延長」で満足なのか?


 「特許権存続期間延長に関する知財高裁大合議判決について」 と題する文書が、2015年5月29日付で日本ジェネリック製薬協会 (JGA) のホームページ上で公開された。 文書の著者は 「日本ジェネリック製薬協会 知的財産研究委員会」 となっており、知財高裁大合議判決 (平成25年(行ケ)第10195〜10198号、アバスチン事件) が現在最高裁で審理中だと指摘した上で、「同事件の帰趨はジェネリック医薬品業界に看過できない影響を及ぼす恐れがあることから、以下に当委員会の意見を申し述べたい。」 と記載され、それに続いて意見が記載されている。

 そしてその内容は、これまた、大合議判決批判なのだ。 特許庁 (2015年04月10日の投稿参照) は現在の審査基準を作成した本人だから、その審査基準を否定した大合議判決を批判するのだろうし、先発企業 (2015年05月22日の投稿参照) は延長された特許権の効力範囲が狭すぎる大合議判決を否定したいのだろうが、どうしてジェネリック業界までが、大合議判決だけを批判して現在の審査基準をなんら批判しないのか? 本当に不可解であり残念。 「最高裁が大合議判決を支持したら大変なことになる」 みたいな危機感でも煽られているのかな? 特許庁も先発企業もジェネリック企業も、関係者全員がそろって大合議判決批判を展開し、現在の審査基準はそんなに悪くないと思っているのなら、現在の審査基準でいいじゃないかということになってしまいそうだ。

 今回の文書においてジェネリック製薬協会の知財委員会は次のように主張している。

 (ジェネリック製薬協会の知財委員会の文書より)(下線追加)
 アバスチン事件の知財高裁判決は、このうち、延長された特許権の効力範囲について、承認を受けた医薬品の「成分(有効成分に限らない。)、用法、用量、効能、効果」によって画されるとしつつも、その均等物や実質的に同一と評価される物にも及び、存続期間延長の対象となる特許発明の範囲と延長された特許権の効力範囲とは常に一致するわけではないとして、効力範囲の外縁を曖昧・不明確なものとした。 当委員会としては、かかる法解釈について懸念を表明せざるを得ない
 もしも、延長された特許権の効力範囲が明確にされなければ、ジェネリック医薬品の承認の可否や承認の時期が定まらず、ジェネリック医薬品企業の経営判断を妨げ、ジェネリック医薬品の開発・製造・販売に対する事実上の参入障壁が生じるに等しい。 これは、結果的に国民のジェネリック医薬品へのアクセスを確実に遠ざけることになる。

 ジェネリック製薬協会の知財委員会が強調しているのは、「延長された特許権の効力範囲が明確であること」 だ。 文書の最後にも以下のように記載されている。

 (ジェネリック製薬協会の知財委員会の文書より)(下線追加)
 当研究委員会としては、延長された特許権の効力範囲は明確でなければならず
 薬事承認によって禁止が解除された特許発明の範囲と、延長された特許権の効力範囲とを明確に一致させること
が、最も適切であると考える。

 効力範囲を明確にすることばかり強調することの真意が、「あわよくば物質特許の延長期間中に参入できるかも。 だったらそれを明確にして。」 なんて考えているのではなく、従来の制度よりもジェネリック医薬品の参入時期が先延ばしされることや、従来と同じ時期に参入できるのかが不明確になることを懸念しているのなら共感はできるけれども、ジェネリック業界にとって意見表明すべきことはそれだけなのか?
 また今回の文書には、

 (ジェネリック製薬協会の知財委員会の文書より)(下線追加)
  当委員会では、従来から、一の特許につき最初の薬事承認についてのみ1回限りの特許期間延長を認める制度に改めるべきであるとの主張を行っている。
 
とも記載されている。 確かに、審査基準改訂前のワーキンググループ (WG) の会議でも、ジェネリック製薬協は 「1特許1延長」を主張していた (WG第6回会議の「資料6」を参照)。

 もっぱら大合議判決を批判して、現在の審査基準に対しては批判しない。 そして 「1特許1延長」 を主張し続けるジェネリック製薬協。 そういうジェネリック製薬協に問いたいのは、「現在の審査基準は、延長要件の範囲と効力範囲が一致していると思っているのか?」、そして、「 “1特許1延長” なら本当に満足なのか?」 ということだ。 

 例えば、現在の審査基準は、物質特許の延長された特許権の効力範囲に関しては、従来の審査基準と同様に、「有効成分と効能・効果」 が同一の範囲という、比較的広い効力範囲を規定している。 その代わり、同じ範囲で後行医薬品の処分を受けても、その特許は二度と延長することはできない。 物質特許以外については特許発明によって延長された特許権の効力範囲は様々となるが、いずれにしろ、一度延長された範囲については、その後で新たな医薬品の承認を受けても、その特許を二度と延長することはできない。 その意味で、現在の審査基準は、「延長要件の範囲と効力範囲が明確に一致している」 と見なすこともできるだろう。 なにしろ現在の審査基準を作った時に、特許庁自身が、

 (審査基準改訂時の特許庁のコメントより)
第67条の3第1項第1号における「特許発明の実施の範囲」と、第68条の2における「本件処分により存続期間が延長された場合の特許権の効力の範囲」は、原則として一致していると解釈することが合理的であると考えます。 改訂審査基準は、この解釈を前提としています

とコメントしているくらいだから(特許庁のHPの 『「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対する意見募集の結果について』 の 「「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対する御意見の概要及び回答(PDF:133KB)」 の No.11-12 を参照)。

 そうすると、現在の審査基準に基づいて 「1特許1延長」 が行われる延長制度が実現すれば、ジェネリック製薬協会の知財委員会が要望している事項はすべて満たされるということになるが、現在の審査基準に基づいた 「1特許1延長」 は、ジェネリック業界から見て本当に好ましい延長の姿なのか? (つづく)


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