2020年12月23日

PCSK9中和抗体事件 −「競合する抗体」の特許は容認できるか(平成29(ワ)16468, 平成29(行ケ)10225, 平成29(行ケ)10226, 平成31(ネ)10014)


(完全に時機に遅れてしまったが、PCSK9中和抗体事件に関する投稿)

本件は、ある既知タンパク質に対する新たな抗体を単離した場合に、その抗体に対する特許が取れるだけでなく、「その抗体と結合が競合する抗体」まで特許が取れるのか、そして権利行使ができるのかについて正面から争われた事件だ。 知財高裁は、本件特許は有効であり、権利行使もできる旨を判示し、それに対して上告受理申立がなされていたが、今年の4月に不受理となり知財高裁の判断は確定した。 今回の投稿では、その判断がはたして妥当であったのか考えてみようと思う。

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1.本件発明の背景

血中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)は、LDL受容体(LDLR)により肝細胞に取り込まれることで血中レベルが調整されている。 そして本件特許の出願の数年前から、PCSK9というタンパク質が血中コレステロールを調節する分子標的となりうることが期待されてきた。 PCSK9にある種のアミノ酸変異を持つ高コレステロール血症の患者ではLDLRのレベルが低下し血中コレステロールレベルが上昇すること、PCSK9に別の変異を持つ一部の人たちは、逆に血中コレステロールレベルが低いこと、PCSK9を高発現させたマウスでは肝臓におけるLDLRが減少すること、逆にPCSK9を欠損させたマウスではLDLRが増加し血中コレステロールが低下することなどが2003〜2005年ごろに相次いで報告された。 こうした知見から、PCSK9はLDLRに相互作用(すなわち結合)することによって、LDLRレベルを低下させ、結果としてLDLRが血中からコレステロールを取り込むことを阻害しているのではないかと疑われていたわけだ。

そのような中で出された論文が Lagace et al. (J Clin Invest. 2006, 116: 2995-3005) (審取訴訟の判決文の「甲1」)で、肝細胞にPCSK9を添加することによって肝細胞上のLDLRが減少すること、高コレステロール血症の患者が持つPCSK9変異体(D374Y変異体)は、通常のPCSK9の10倍もLDLRを減少させる活性が高いこと、PCSK9はLDLRに直接結合して作用すること、PCSK9を過剰発現させたマウスではコレステロールが高値となること、そして、PCSK9の作用は、血中に分泌されたPCSK9によって引き起こされていることなどを実験的に示した。

こうした論文を見た当業者であれば、PCSK9とLDLRとの結合を阻害すれば、LDLRレベルを高く保つことが可能で、それにより血中コレステロールを下げることができるかも知れないと思うだろうし、そうした阻害剤の有力な候補として、PCSK9に結合してその働きを阻害する抗体や低分子化合物を開発しようということは、上記の知見から直ちに思いつくことだと言ってもいいだろう。 実際、この論文の最後には以下のように記載されている。

[Lagace et al.(3003ページ右欄)]
If PCSK9 functions as a secreted factor as suggested by the current data, then additional approaches to neutralize its activity, including the development of antibodies to block its interaction with the LDLR or inhibitors to block its action in plasma, can be explored for the treatment of hypercholesterolemia.

(私訳)
今回のデータが示唆するように、もしPCSK9が分泌因子として働くのであれば、血漿中におけるLDLRとの相互作用を遮断する抗体や、作用を遮断する阻害剤を開発するなど、活性を中和するさらなるアプローチを高コレステロール血症の治療に向けて探究することができよう。

そうすると、PCSK9がLDLRに結合することを阻害するPCSK9中和抗体を作製して、これによりPCSK9の作用を中和して高コレステロール血症を治療しようという発想はLagace et al. が既に論文に記載しているのであって、Lagace et al. が公開された以上、そうした発想を現実のものにしようという一般的な行為、例えばPCSK9抗体を作製して、その中からPCSK9とLDLRとの結合を強く阻害する中和抗体をスクリーニングし、そうしたスクリーニングにより優れた中和抗体が得られれば、それを高コレステロール血症に対する治療薬として使おうとする一般的な行為については、既に特許性はなくなったのであって、そうした行為が、この論文公開の後で出願された特許出願によって、事実上広く独占されるなどということはあってはならないということになるだろう。

実際、これに関しては本件の審決や判決でも次のように説示されている。(文中に出てくる「甲1」や「乙1」とは上記のLagace et al. を指す。)

[無効2016-800004および無効2016-800066の審決より](強調はこちらで追加;以下同様)
  (2)当審の判断
 上記(1)ア〜ウによれば、甲第1号証は、高コレステロール血症の治療用医薬を開発する目的で、PCSK9とLDLRの相互作用を阻害する物質を探索する動機付けを与えるものである。また、上記(1)エにも記載されているとおり、生体分子間の相互作用を阻害する物質として抗体は周知であるから、当業者であれば、PCSK9とLDLRの相互作用を阻害する抗体の作成を容易に想到し得るとまでは認めることができる。

[平成29(行ケ)10225および平成29(行ケ)10226の判決文より]
イ 甲1には,「高コレステロール血症の治療として,細胞内におけるPCSK9のプロテアーゼ活性の阻害剤がLDLRのレベルを減少させる能力を阻害するのに十分であろうが,本研究のデータが示唆するとおり,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断する抗体又は血漿におけるその活性を遮断する阻害剤の開発などのPCSK9の活性を中和する追加の手法も,高コレステロール血症の治療として探求し得ること」(前記(2)イB)の開示があり,この開示事項は,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断し,PCSK9の活性を中和する抗体は,高コレステロール血症の治療に有用であり得ることを示唆するものといえるから,甲1に接した当業者に対し,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を得ることの動機づけとなるものと認められる。
 加えて,甲1には,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできるモノクローナル抗体の記載はないものの,本件優先日当時,動物免疫法又はファージディスプレイ法により,モノクローナル抗体を作製する一般的な方法は周知であったこと(前記(3)イ@)からすると,当業者は,甲1及び上記周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできる,何らかのモノクローナル抗体(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成)を得ることは可能であったものと認められる。

[平成31年(ネ)10014判決文より]
 前記のとおり,乙1文献には,「高コレステロール血症の治療として,細胞内におけるPCSK9のプロテアーゼ活性の阻害剤がLDLRのレベルを減少させる能力を阻害するのに十分であろうが,本研究のデータが示唆するとおり,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断する抗体又は血漿におけるその活性を遮断する阻害剤の開発などのPCSK9の活性を中和する追加の手法も,高コレステロール血症の治療として探求し得ること」の開示があり,この開示事項は,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断し,PCSK9の活性を中和する抗体は,高コレステロール血症の治療に有用であり得ることを示唆するものといえるから,乙1文献に接した当業者に対し,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を得ることの動機付けとなるものと認められる。
 また,前記(4)のとおり,本件優先日当時,ハイブリドーマ法又はファージディスプレイ法により,モノクローナル抗体を作製する一般的な方法は,周知であったことが認められる。
 そうすると,乙1発明に周知技術を適用することにより,PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和することができる,何らかの単離されたモノクローナル抗体を得ること自体は,可能であるといえる。

このような状況を踏まえた上で、どのような範囲のクレームであれば今回の発明に特許を与えることが妥当だと言えるだろうか?

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2.本件発明の進歩性について

本件特許(特許5705288および特許5906333)は、特許権者(アムジェン)がPCSK9とLDLRとの結合を高度に阻害できるPCSK9中和抗体である「21B12抗体」および「31H4抗体」などの複数の抗体を単離したことに基づき、「21B12抗体」および「31H4抗体」そのものではなく、PCSK9への結合が、「21B12抗体」または「31H4抗体」と「競合」するPCSK9中和抗体をクレームするものだ。 確かに「21B12抗体」や「31H4抗体」など、単離した抗体そのものについては特許が付与されてよいことには同意できるであろうし、それより広い範囲であっても、「21B12抗体」や「31H4抗体」などの単離抗体が提供されたからこそ実現可能となったとみなせるような範囲、例えば、「21B12抗体」や「31H4抗体」などの単離抗体を少し改変して作製できる抗体についても特許は付与されてよいように思う。 また、「21B12抗体」や「31H4抗体」を指標にして、これらの抗体と競合する抗体を探索する「スクリーニング方法」なども特許にしてよいかも知れない。 しかし一方で、PCSK9中和抗体を単離しようとする動機付けは、上記で見たとおり、本件特許が出願(優先日 2007.08.23)される前からあったわけだから、本件発明などなくても、PCSK9とLDLRとの結合を高度に阻害できるPCSK9中和抗体をスクリーニングすることはできたし、そうする人たちは近いうちにきっと現れるだろう。 したがって、そうした人たちが(本件発明などなくても)取得するであろうPCSK9中和抗体を包含するようなクレームについては、特許性は否定されなければならないだろう。

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上に示した集合は、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるPCSK9中和抗体という概念の範囲を表している。 「良好に」とは、ここではあまり突き詰めないでおくが、とりあえず、PCSK9とLDLRとの結合を阻害する医薬として使える程度、とでも理解しておくことにする。 この範囲には、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるあらゆるPCSK9中和抗体が含まれている。 本件特許でアムジェンが単離した「21B12抗体」や「31H4抗体」もこの範囲に含まれているであろうし、「21B12抗体」や「31H4抗体」と「競合」する抗体であって、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるPCSK9中和抗体もこの範囲に含まれているだろう。

さて、ここで最も重要な論点の一つが生じる。 それは、本件発明などなくても取得することができたPCSK9中和抗体が、上の集合の中に含まれているか否かという問題だ。 つまり、本件発明の前から、PCSK9とLDLRとの結合を阻害するPCSK9中和抗体を探索する動機付けはあったわけだ。 そして、そのような中和抗体を取得する一般的な手法は周知だった。 例えば、抗体を取得したいタンパク質(今回の場合はヒトPCSK9タンパク質)やその修飾物等を免疫原として、哺乳動物に様々な投与経路(腹腔内投与や筋注、静注など)で接種して抗体を誘導し、血中の抗体価が高まったところで脾臓細胞からハイブリドーマを調製してモノクローナル抗体を作製する様々な手法は既に知られていた。 その際に様々なアジュバント(免疫増強剤)を併用する手法も知られていた。 そのようにして得られたハイブリドーマが産出する抗体について、LDLRとの結合を強く遮断できる抗体をスクリーニングする一般的な手段も知られていた。 あるいは動物を使わずに人工的に作製した抗体ライブラリーから目的の結合活性を持つ抗体を直接スクリーニングすることもできた。 そうしたスクリーニングは確かに手間がかかるだろう。 しかし手間がかかろうとも、ルーチンな実験として現実的に実施しうるものであれば「容易想到」の範疇であって、手間がかかること自体は進歩性を肯定する根拠とはならないことも一般に受け入れられた考え方だろう。 そのような既知の手法により、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるPCSK9中和抗体を取得することはできたのだろうか。 それができたというのなら、上の集合の中には本件発明前に容易に取得できた抗体が包含されているということになるし、できなかったというのなら、上の集合の中には容易に取得できた抗体は包含されていないということになる。

それは例えば、ヒトPCSK9タンパク質やその修飾物等を免疫原としてマウスに接種した場合に、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるPCSK9抗体が、接種されたマウスにおいて惹起されるのか否か、によって影響を受けるのかも知れない。 しかし人工抗体ライブラリーであれば、理論上はあらゆるレパートリーの抗体が含まれうるわけだから、そうした抗体があり得るのであれば、取得できないと考える理由はないようにも思う。 もちろん、PCSK9とLDLRとの結合阻害を効率的にスクリーニングできるようなアッセイ系を作らなければならないが、そこは当業者の通常の努力の範囲内だろう。

そこでここでは、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できる少なくともいくつかの抗体は、従来の方法によっても取得しえたと考えることにしよう。 もちろん、被疑侵害者であるサノフィは私と同じように考えているだろうし、特許権者であるアムジェン側は、そうは思っていないのかも知れない。 この問題は、究極的には実験的に検証されるべきものかも知れない。

さて、上記のような周知な方法でも、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるPCSK9抗体の少なくともいくつかは取得できたとした場合、そのような抗体は、上に示した集合の中に含まれていることになる。 つまり、上に示した集合の範囲内に、周知な方法で得られるPCSK9中和抗体が分布している(すなわち、本件発明がなくてもルーチンな実験により取得できる抗体が分布している)。 勘違いしてはいけないのは、この集合の範囲に含まれるすべての抗体を容易に取得できるということではない。 あくまで、ルーチンな方法で取得できる抗体が、この集合の中に含まれているということだ。

例えば、ルーチンな方法で取得できる抗体がこんな感じに分布しているわけだ。

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もし本件特許のクレームの範囲が、こうした「ルーチンな方法で取得できる抗体」を包含するとみなされる場合は、そのクレームの進歩性は否定されなければならないだろう。 そうすると、本件特許のクレーム、すなわち「21B12抗体と競合するPCSK9中和抗体」(特許5705288)というクレーム、そして「31H4抗体と競合するPCSK9中和抗体」(特許5906333)というクレームに特許性を認めてよいかどうかは、本件の状況が、以下に示す「図A」と「図B」のどちらであったのかで決まることになる。

[図A]
2020pcsk9_02.png

一番大きな円は、上述のとおり「PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるPCSK9中和抗体」という概念の集合を表している。 2つの小さな円は、2つの本件特許(すなわち特許5705288および特許5906333)のクレームの範囲を表している。 具体的には、特許5705288のクレームの範囲は、「21B12抗体と競合する中和抗体」という概念の範囲であり、特許5906333のクレームの範囲は、「31B4抗体と競合する中和抗体」という概念の範囲である。 赤い点は、それぞれ21B12抗体および31B4抗体そのものを表している。 21B12抗体が含まれる小さな円の中にある青い点は、本件特許の明細書の実施例に記載されている、21B12抗体と競合する中和抗体を表している。 31B4抗体が含まれる小さな円の中にある青い点は、本件特許の明細書の実施例に記載されている、31B4抗体と競合する中和抗体を表している。

図Aの場合、「21B12抗体と競合する中和抗体」および「31B4抗体と競合する中和抗体」の範囲(すなわち本件特許のクレームの範囲)は、一番大きな円(PCSK中和抗体)の中にある小さな領域を占めるに過ぎない。 すなわち、仮にPCSK9とLDLRとの結合を遮断できる何らかのPCSK9中和抗体(すなわち一番大きな円の中に入る抗体の一つ)を、本件発明とは無関係に誰かが取得したとしても、その抗体が、本件特許のクレームの範囲内の抗体であるなどということは、よほどの偶然でもない限り起きないということになる。 つまり、たとえ何らかのPCSK9中和抗体を作製することが容易だとしても、本件特許のクレームの範囲内になるような抗体を作製することは困難だろうということだ。

また言葉を換えれば、もし図Aのような状況であるのなら、本件特許の範囲は、良好なPCSK9中和抗体のごく一部を占めるに過ぎないから、本件特許の範囲の外にも、医薬となり得るようなPCSK9中和抗体は、まだたくさん存在しているということになる。 そのような状況であるのに、もし第三者が本件特許の範囲に含まれる抗体を実施している場合、その第三者は本件特許をパクったという蓋然性が高いということにもなるだろう。

一方、本件の状況が上の「図A」のような状況ではなく、下の「図B」のような状況である可能もありうる。

[図B]
2020pcsk9_03-2.png

図Aと同様に、一番大きな円は「PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できるPCSK9中和抗体」という概念の集合を表している。 この範囲は、本件発明がなくても近いうちに実現できる抗体が分布する範囲だ。 そして赤い2つの点は、本件特許で取得された21B12抗体と31B4抗体を表しており、青い点は、本件特許の明細書の実施例に記載されている、21B12抗体と競合する中和抗体や、31B4抗体と競合する中和抗体を表している。

しかし図Aとの違いは、本件特許(すなわち特許5705288および特許5906333)のクレームの範囲、すなわち「21B12抗体と競合する中和抗体」という概念の範囲や、「31B4抗体と競合する中和抗体」という概念の範囲が、一番大きな円の中を大きく占めるほどに広いことだ。

この場合、仮にPCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できる何らかのPCSK9中和抗体を本件発明とは無関係に誰かが取得したとすると、その抗体はかなりの確率で、本件特許のクレームの範囲内になってしまうということになる。 2つの特許のクレームが、PCSK9中和抗体の概念のかなりの部分を占めているのだから当然といえば当然だろう。

図Bのような状況は、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できる抗体が、PCSK9タンパク質の特定の部位に結合する抗体に限られる場合に生じる。 そのような場合、PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できる中和抗体は、必然的にその限られた部位に結合することになるので、そうした抗体同士を同時にPCSK9に結合させようとすると、抗体同士が互いにぶつかり合う(すなわち競合する)ことが多くなるからだ。 すなわち、本件特許の参照抗体(21B12抗体や31B4抗体)と競合するという特性は、良好な結合中和活性を持つ抗体の多くが必然的に持っている潜在的な特性ということになる。 その場合、「本件特許の参照抗体(21B12抗体や31B4抗体)と競合する中和抗体」という特徴は、「PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できる中和抗体」とかなりの部分が重なることになるから、「本件特許の参照抗体(21B12抗体や31B4抗体)と競合する」という特徴には、「PCSK9とLDLRとの結合を良好に遮断できる中和抗体」ということを超えた意味は大きくないということになる。

では本件の場合、状況は「図A」に近いのだろうか、それとも「図B」に近いのだろうか。 生物学系の研究者であれば、これから説明する内容を見るまでもなく、一般論として同じ答えを出すことはできるようにも思うが、本件特許の明細書にはせっかくデータが記載されているので、そのデータを見ていくことにする。

[本件明細書図17より]
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上の図は、PCSK9とLDLRとが結合するときの構造解析を示したもので、本件特許の明細書に掲載されている図17に、見やすいように私が少し手を加えたものだ。 赤い丸で囲まれているのがPCSK9タンパク質の一部で、右端の方に青い線で囲まれているのがLDLRだが、図ではLDLRの一部(EGFaドメイン)が示されている。 PCSK9はプロドメイン、触媒ドメイン、およびVドメインから構成されているが、図に示されているとおり、PCSK9は触媒ドメインの部分でLDLRと結合する。 この図からは、触媒ドメインの中でも「D374」と示されている部位(PCSK9タンパク質の先頭から374番目のアミノ酸)の近くでLDLRと結合することが分かる。 ちなみにD374部位は、遺伝性の高コレステロール血症の患者でアミノ酸変異(D374Y変異)が起きている部位であり、この変異を起こしたPCSK9はLDLRに非常に強く結合することによってLDLRの働きを阻害してしまうことが既に知られていたことは上述のとおりだ。

[本件明細書図19Aより]
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上の図も、本件特許の明細書に掲載されている図(図19A)に、見やすいように少し手を加えたものだが、本件特許の抗体である21B12抗体や31H4抗体は、まさにPCSK9のD374部位の近傍に結合することを示している。 上述のとおり、PCSK9はこの付近でLDLRと結合するわけだから、21B12抗体や31H4抗体がD374部位の近傍に結合して、この部分を塞いでしまうことで、PCSK9はLDLRに結合できなくなる。 これにより、PCSK9の働きを阻害することができるわけだ。

[本件明細書図20Dより]
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上の図も本件特許の明細書に掲載されている図(図20D)から取ったもので、PCSK9とLDLRが結合するときの構造図と、21B12抗体や31H4抗体がPCSK9と結合するときの構造図が、重ねて表示されている。 実際には、21B12抗体や31H4抗体がPCSK9に結合すると、PCSK9はLDLRに結合できなくなるので、これはあくまでコンピュータ上で重ね合わせて表示した合成図であって、実際にはこれらが同時に結合することはない。 PCSK9タンパク質への結合部位がいかに近く、それによりLDLRタンパク質と抗体とがぶつかり合って互いに結合を邪魔し合うことになるのかを示したものだ。 PCSK9とLDLRの結合を邪魔する抗体であれば中和抗体となるのだから、PCSK9とLDLRの結合部位の近くに結合する抗体がよい中和抗体となるのは自明とも言えるだろう。 つまり、PCSK9とLDLRの結合を高度に阻害する中和抗体をスクリーニングすれば、PCSK9がLDLRに結合する部位に結合する特性を持った抗体が一定の頻度で必然的に取れてくることが期待できるということであり、実際、スクリーニングによって得られた21B12抗体や31H4抗体もそのような場所に結合していたということだ。

[本件特許明細書の図より]
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この図は上の図20Dとは上下が逆になっており、赤い矢印で私が書き加えたとおり、PCSK9の一番下の部分がLDLRとの結合部位で、21B12抗体と31H4抗体は図に示されているように結合している。 21B12抗体や31H4抗体は、PCSK9タンパク質のLDLR結合部位を塞ぐように結合していることが分かる。 21B12抗体と31H4抗体は、PCSK9タンパク質のLDLR結合部位をこの2つの抗体でほとんど覆い隠してしまうほど大きいことが分かるだろう。 ちなみに、図に示されている21B12抗体や31H4抗体は、「Fab断片」と呼ばれる抗体の断片に過ぎない。 完全な抗体は「Fab断片」を2つ持ち、さらにFcと呼ばれる定常領域も持っているから、そうした完全長抗体の大きさは図に示されている抗体よりも大きい。

さて、本件はこのような状況であるが、果たして本件が、私が上で示した「図A」の状況なのか、それとも「図B」の状況なのか、もう判断できるだろうか?

上述のとおり、PCSK9とLDLRとの結合を遮断するPCSK9中和抗体を取得しようという動機付けは本件出願前からあったし、そうした中和抗体を取得する一般的な手法も知られていた。 だから、何らかのPCSK9中和抗体を得ることに進歩性はないと考えられるわけで、それについては上記のとおり特許庁も裁判所も認めている。 では、そうしてなるべく高い結合中和活性を持つ中和抗体をスクリーニングした場合に、得られる中和抗体が、21B12抗体や31H4抗体と競合するなどということは、およそ起きないと考えられるのだろうか、それともそれなりの割合で起きると考えられるのだろうか? その割合が十分に低いと予想されるのであれば、状況は「図A」だということになるし、本件発明前に、本件発明など知らずに取得しうる中和抗体が21B12抗体や31H4抗体と競合してしまうことがあるだろうと予想される場合は「図B」だということになる。

上の図27Dの赤い矢印で示した部位の近くに結合する抗体は、LDLRとの結合を良好にブロックできることになるわけだから、LDLRとの結合を良好にブロックできるPCSK9中和抗体をスクリーニングすれば、そのような抗体が取れてくるだろうと予想できるわけだ。 そしてその抗体がPCSK9に結合するときに、21B12抗体や31H4抗体とぶつかってしまうなら、21B12抗体や31H4抗体と競合してしまうわけだ。 上の図を見る限り、赤い矢印で示した部位の近くに結合する抗体であれば、「そりゃ、21B12抗体か31H4抗体のどっちかにはぶつかることはかなりあるだろうね。」という感じではないか? すなわち、PCSK9中和抗体のそれなりの割合は、21B12抗体や31H4抗体と競合することが予想されると私は思う。

そのことは、本件特許の明細書に開示されている実験結果にも表れているように見える。 下の表37.1は、PCSK9中和抗体のスクリーニングにより得られた抗体の幾つかを用いて、競合の様子を調べたと思われる結果だ。

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表の「ビン1」という欄には、得られた抗体のうち、21B12抗体と競合し、31H4抗体とは競合しない抗体が列挙されている。 逆に「ビン3」には、31H4抗体と競合し、21B12抗体とは競合しない抗体が列挙されている。 「ビン2」は両方に競合する抗体が列挙されている。 「ビン4」と「ビン5」はその他の抗体だ。 この表を見る限り、過半が「ビン1」〜「ビン3」に分類されるから、PCSK9の中和抗体であれば、21B12抗体か31H4抗体に競合するものが多いという上述の予想と整合している。 また、上の表では「ビン1」に分類される抗体の方が「ビン3」に分類される抗体よりも数が多いが、極端に違うというほどではない。 表37.1には全部で39個の抗体が示されているが、21B12抗体と競合する抗体の数は、「ビン1」と「ビン2」を足したものだから22個ということになり、全体の56%は21B12抗体と競合する抗体ということになる。 また、31H4抗体と競合する抗体の数は「ビン2」と「ビン3」を足したものだから13個ということになり、全体の33%は31H4抗体と競合する抗体ということになる。 したがって、本件特許の明細書に記載されている実験で得られた中和抗体には、21B12抗体と競合する抗体も、31H4抗体と競合する抗体も、数個に一個くらいはあるだろうという推計ができる。

このように、本件が「図A」と「図B」のどちらに該当しそうなのかという点については、私は「図B」に近い状況であったと推定されると思う。 つまり当業者が、本件発明など何も知らず、単にLDLRとの結合をブロックできるPCSK9中和抗体をスクリーニングして取得しただけでも、そのような抗体は、21B12抗体や31H4抗体と競合する特性を潜在的に有している確率は一定程度高いということになる。 そうすると、そのような範囲をクレームしている本件特許は、容認すべきではないということになるのではないか。

そして本件において被疑侵害者(サノフィ)側も、同じことを主張した。 具体的にはサノフィ側は以下のように主張した。

[平成29(行ケ)10225判決文 サノフィの主張より]
PCSK9とLDLRとの結合中和抗体が,PCSK9上のLDLRと結合する部位又はせいぜいそのごく近傍においてPCSK9に結合しようとする際に,同様の部位に結合しようとする参照抗体と競合すること(同時に存在したならば,立体的にぶつかりあうこと)は,当然に大いに生じ得ることである。
 PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の多くが,参照抗体と競合することは,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」という。甲201)記載の図27D(PCSK9上のLDLR及び参照抗体の結合部位の位置関係を示した図)及び実施例37の表37.1(参照抗体と競合するか否かを何ら指標とすることなく,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を複数作成したところ,そのような抗体の多く(ビン1〜4の抗体の総数に対するビン1〜2の抗体の数の割合が約65%)が,参照抗体と競合するものであったことを記載したもの)から裏付けられる。
 さらには,本件明細書に記載されたデータに基づいて解析を行った,A教授の平成29年11月5日付け及び平成30年4月22日付け各供述書(甲204,215。以下,これらを併せて,「A教授の供述書」という。)によっても裏付けられる。
 したがって,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得した場合,その中には参照抗体と競合する抗体が多く含まれており,少なくとも所定の割合で含まれているといえるから,当業者は,何らかのPCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得たものといえる。
(イ) そして,甲1に接した当業者は,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得し,その有用性を試験することの動機づけがあるから(前記ア(ア)),甲1及び前記イの周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体と競合する結合中和抗体(相違点2に係る本件訂正発明1の構成)を容易に想到することができたものである。

上のサノフィが主張する数値(65%)が、私が書いた数値(56%)と若干違っているのは、上のサノフィの主張では「ビン5」の抗体が計算から除外されているからだが、細かいことは無視するとして、概算は私が言っていることと同じだ。

*   *   *

3.裁判所の判断は妥当だったか

これに対して知財高裁(大鷹一郎裁判長)は以下のように判示した。

[平成29(行ケ)10225および平成29(行ケ)10226]
ウ(ア) ・・・。
 そうすると,当業者は,甲1及び周知技術(前記(3)イ)に基づいて,動物免疫法によって,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認めることはできない。
(イ) ・・・。
 そうすると,当業者は,甲1及び周知技術(前記(3)イ)に基づいて,ファージディスプレイ法によって,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認めることはできない。

エ 前記イ及びウを総合すると,甲1に接した当業者は,甲1及び周知技術(前記(3)イ)に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできる,何らかのモノクローナル抗体(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成)を得ることが可能であったとしても,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められないから,参照抗体がPCSK9に結合する部位と同一のPCSK9上の部位又は参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となるPCSK9上の部位に結合する,参照抗体と「競合する」抗体(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成)についても,容易に想到することができたものと認めることはできない。

上記のとおり裁判所は、「ウ」で「参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認めることはできない」と説示し、「エ」では、「・・・,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められないから,・・・,参照抗体と「競合する」抗体(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成)についても,容易に想到することができたものと認めることはできない。」と説示している。 しかし今問題にしているのは、「参照抗体」(21B12や31H4)を取得することが容易であったのか否かではなく、あくまで参照抗体と「競合する抗体」を取得することが容易であったのか否かだ。 そして、21B12抗体や31H4抗体など全く知らずに中和抗体を取得しても、そうした中和抗体のそれなりの割合は必然的にPCSK9のLDLR結合部付近に結合する抗体であろうと推定される場合、そうした抗体はそれなりの頻度で21B12抗体や31H4抗体と競合することになる。 よって、参照抗体そのものを取得できなくても「競合する抗体」は取得できてしまう。 「参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められない“から”,・・・,参照抗体と『競合する』抗体(・・・)についても,容易に想到することができたものと認めることはできない。」という裁判所の説示は論理的に誤りであり、参照抗体を得ることが容易ではない場合に言えるのは、参照抗体と競合する抗体を「参照抗体を利用して」取得することが容易ではないことに留まり、参照抗体と競合する(という潜在的性質を持つ)抗体を、参照抗体を利用せずに取得することが容易であることを否定する理由にはならない。

また、中和抗体のそれなりの割合が21B12抗体や31H4抗体と競合することになるだろうと予想しうること、それが本件明細書の図27Dおよび表37.1の結果とも整合していることについて、裁判所は以下のように説示した。

[平成29(行ケ)10225 判決文より]
オ これに対し原告は,@本件明細書記載の図27D(PCSK9上のLDLR及び参照抗体の結合部位の位置関係を示した図)及び実施例37の表37.1(参照抗体と競合するか否かを何ら指標とすることなく,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を複数作成したところ,そのような抗体の多く(ビン1〜4の抗体の総数に対するビン1〜2の抗体の数の割合が約65%)が,参照抗体と競合するものであったことを記載したもの),A本件明細書に記載されたデータに基づいて解析を行ったA教授の供述書を根拠として挙げて,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得した場合,その中には参照抗体と競合する抗体が多く含まれており,少なくとも所定の割合で含まれているといえる,したがって,当業者は,何らかのPCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得たものであるから,甲1に接した当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,参照抗体と競合する結合中和抗体を容易に想到することができた旨主張する。
 しかしながら,本件明細書記載の表37.1は,確認用スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立したことを確認し(【0329】),そのうちの一部(合計39抗体)についてエピトープビニングした結果を要約したものであり(【0489】〜【0492】),この表を分析しても,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体のうち,参照抗体と競合する抗体の割合を導き出すことはできない。

上に引用したとおり裁判所は、「・・・,本件明細書記載の表37.1は,確認用スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立したことを確認し(【0329】),そのうちの一部(合計39抗体)についてエピトープビニングした結果を要約したものであり(【0489】〜【0492】),この表を分析しても,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体のうち,参照抗体と競合する抗体の割合を導き出すことはできない。」と説示してサノフィの主張を否定した。 つまり表37.1に記載されている39個の抗体は、2441個の抗体から選択されたごく一部の抗体であるから、表37.1の結果から全体の割合を推定することはできないというのだ。 しかし本件明細書を見ると、段落0329においてPCSK9と結合する2441個の抗体をスクリーニングした後、段落0332においてLDLRとの結合を中和する抗体が選別され、100個程度にまで抗体が絞られたことが記載されている。 この実施例を読む限り、その後の実験は、基本的には100個程度にまで選別された抗体を用いて行われていると見るのが自然で、中和作用がない抗体がほとんどを占めている2441個の抗体からごく一部を選んで表37.1で競合が調べられたとみなすことは不自然だ。 事実、表37.1に掲載されている抗体のほとんどすべてが中和抗体であるし、これについては特許権者(アムジェン)側でさえ、「・・・,本件各明細書には,PCSK9とLDLRとの結合を90%以上中和できる抗体が100種類得られ,そのうちの一部が本件参照抗体と競合することが示されており(段落【0332】【0493】),・・・」と主張している(平成29年(ワ)16468の判決文より)。ここで、【0493】とは表37.1のことだから、表37.1の実験は100個にまで絞られた抗体から選択していることは、特許権者側の主張からも示唆されるだろう。

仮に表37.1の結果が、中和抗体全体の割合を反映しているのではなく、100個の中和抗体の中から、参照抗体と競合しそうなものだけを恣意的に選択して検査した結果だと仮定しても(そのような仮定は不自然で、かつ特許権者側に有利な仮定ではあるが)、表37.1には、21B12抗体や31H4抗体と競合する抗体が二、三十個程度は記載されているのだから、100個の中和抗体の中の少なくとも二、三十個程度は、21B12抗体か31H4抗体と競合するということになる。 そうすると、中和抗体を数個程度取得すれば、21B12抗体か31H4抗体と競合する抗体が取れてくるという計算になる。 つまり参照抗体など知らずに中和抗体を取得しても、数個に一個は参照抗体と競合するという性質を持っていることになる。 したがって、中和抗体のそれなりの割合が21B12抗体か31H4抗体と競合するということは、表37.1の結果からも支持されるというべきではないか。

しかし本来は、こうした推定をするために、図27Dや表37.1の記載などそもそも不要というべきだろう。 タンパク質とタンパク質が特異的に結合する場合、通常は、それぞれのタンパク質の特定の結合部位で結合することが多いだろうと予想でき、その場合、その結合を阻止する抗体は、その結合部位付近に結合する抗体が多いであろうことは結果を見るまでもなく予想できる。 もちろん、結合部位が複数ある可能性もないことはないだろうし、タンパク質とタンパク質が結合しあう部位とは離れた部位に抗体が結合することによりタンパク質の立体構造が変化し、それによりタンパク質とタンパク質の結合が阻害されるということもあり得ないとはいえない。 しかし、もしそうした部位に抗体が結合することにより、タンパク質とタンパク質の結合をより強い程度で遮断できる優れた中和抗体が取得できるのであれば、高い結合中和活性を持つ抗体を選別する過程で、そうした部位に結合する抗体が必然的に取得されてくるだろうということに過ぎない。 そのようなスクリーニングにより得られた抗体は、タンパク質とタンパク質の結合を最も強く遮断できる部位(すなわちスイートスポット)に結合しているわけだから、そうしたスイートスポットが事実として多数あるというならともかく、そうではないのなら、限られたスイートスポットに結合する抗体同士が互いに競合しあうのは当たり前であって、本件明細書の図27Dや表37.1を見るまでもない。 図27Dや表37.1は、それがなくても予測できる事柄について、その予測はやはり正しかったことを確認させるものに過ぎず、図27Dや表37.1がないからといって、優れた中和抗体を複数取得した場合に、一定の割合で抗体同士が競合することが予測できないものではないと思う。

中和抗体同士が競合する割合は必然的に高いだろうということについて、サノフィ側は専門家(A教授)の供述書を提出している。 しかしこれについて裁判所は以下のように説示した。

[平成29(行ケ)10225 判決文より]
 次に,A教授の供述書における本件明細書の図27Dに基づく分析は,抗体が,PCSK9とLDLRとの結合を中和するためには,少なくとも2つのアミノ酸残基においてPCSK9上のLDLRの結合部位と重複しなければならず,その結合部位のサイズは20Å×30Åであることを前提として,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体は,「図27Dに図示されるとおり,それらの抗体の結合の態様及びLDLRのPCSK9表面上の結合部位から,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体のほとんどが21B12又は31H4のいずれかと競合することは明らかである。」旨を述べたものであるところ(甲204の「4.1」,訳文3頁),上記の見解は,「21B12又は31H4のいずれかと競合する」とあるように,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体が参照抗体(21B12抗体)のほとんどと競合することを述べたものではなく,また,そのように参照抗体と競合することを示す実証的データの裏付けもない。
 ・・・。

[平成29(行ケ)10226 判決文より]
 次に,A教授の供述書における本件明細書の図27Dに基づく分析は,抗体が,PCSK9とLDLRとの結合を中和するためには,少なくとも2つのアミノ酸残基においてPCSK9上のLDLRの結合部位と重複しなければならず,その結合部位のサイズは20Å×30Åであることを前提として,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体は,「図27Dに図示されるとおり,それらの抗体の結合の態様及びLDLRのPCSK9表面上の結合部位から,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体のほとんどが31H4又は21B12のいずれかと競合することは明らかである。」旨を述べたものであるところ(甲204の「4.1」,訳文3頁),上記の見解は,「31H4又は21B12のいずれかと競合する」とあるように,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体が参照抗体(31H4抗体)のほとんどと競合することを述べたものではなく,また,そのように参照抗体と競合することを示す実証的データの裏付けもない。
 ・・・。

A教授の供述書は、PCSK9中和抗体のほとんどは21B12抗体か31H4抗体と競合するであろう旨を述べたものだが、これについて裁判所は、上記のとおり、21B12抗体と競合する抗体に関する特許の無効が争われている平成29年(行ケ)10225の判決においては、A教授の供述書は「『PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体のほとんどが21B12又は31H4のいずれかと競合することは明らかである。』旨を述べたものであるところ(・・・),上記の見解は,『21B12又は31H4のいずれかと競合する』とあるように,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体が参照抗体(21B12抗体)のほとんどと競合することを述べたものではなく」と判示し、31H4抗体と競合する抗体に関する特許の無効が争われている平成29年(行ケ)10226の判決においては、「『31H4又は21B12のいずれかと競合する』とあるように,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体が参照抗体(31H4抗体)のほとんどと競合することを述べたものではなく」と判示して、A教授の供述書に基づく主張を斥けた。 これはまるで言葉遊びのようだが、A教授は「中和抗体のほとんどが21B12抗体“または” 31H4抗体と競合する」旨を述べているだけで、「中和抗体のほとんどが21B12抗体と競合する」ことも、「中和抗体のほとんどが31H4抗体と競合する」ことも述べられていないと裁判所は言うのだ。

しかし上で表37.1を引用したときに説明したとおり、表では21B12抗体と競合する抗体(すなわち「ビン1」に分類される抗体と「ビン2」に分類される抗体をあわせたもの)も、31H4抗体と競合する抗体(「ビン2」に分類される抗体と「ビン3」に分類される抗体をあわせたもの)も、それなりの数が取得されており、21B12抗体と競合する抗体の方が数が多いが、極端に違うというほどではない。 つまり、中和抗体の多くが21B12抗体または31H4抗体と競合する場合、21B12抗体と競合する抗体も、31H4抗体と競合する抗体も、それなりの割合を占めていることは合理的に推認できるだろう。 こんなことを、いちいちA教授は「21B12抗体 “または” 31H4抗体」としか言っていないという理由で斥けるのは如何なものだろうか? ともかく、裁判所は、供述書の内容を深く検討することなく、「21B12抗体または31H4抗体」としか言っていないという表面的な理由に基づいて、それ以上は「見ざる聞かざる」の態度でこの供述書を斥けたのだから、「21B12抗体と競合する抗体も、31H4抗体と競合する抗体も、それなりの割合を占めているはずだ」と専門家が言い直した供述書が別途提出された場合は、それはすでに審理したという態度を裁判所がとることは許されず、新たな証拠とみなして審理しなければならないだろう。 また裁判所は「実証的データの裏付け」がないとも言っているが、上述のとおり、優れた中和抗体は必然的にスイートスポットに結合することが多いと想定される以上、優れた中和抗体同士がそれなりの頻度で競合し合うだろうということは、実験データを見るまでもなく予測できると私は思うし、図27Dや表37.1もそうした予測と整合している。 それを否定したいのであれば、データを出すべきはむしろ特許権者側ではないか。

なお原則的には、本件出願前に容易に(すなわちルーチンなスクリーニングにより)取得しうる中和抗体が一つでもクレームの範囲に包含されているとみなしうる限り、進歩性は否定されるのであって、進歩性を肯定したいのであれば、ルーチンなスクリーニングにより取得しうる中和抗体が、クレームの範囲に包含されているとはおよそ期待できないことが必要だろう。 したがって、本件出願前に取得しうる中和抗体の「ほとんど」が参照抗体と競合する必要などそもそもなく、「ほとんど」が競合すると述べるA教授の供述はそもそも過剰な供述だ(後述の2020年前田論文の114頁と同旨)。

なお、本件の侵害訴訟の控訴審判決(平成31年(ネ)10014;部眞規子裁判長)についても同様のことが指摘できる。 具体的には、裁判所は以下のように説示している。

[平成31年(ネ)10014 判決文より]
イ 相違点2A及び2Bについて
 しかしながら,乙1文献には,PCSK9との結合に関して参照抗体1又は2と競合することの記載や示唆はなく,PCSK9とLDLRの結合を中和する抗体の中から,参照抗体1又は2と競合する抗体を得るための手掛かりとなるような情報は何ら記載されていない。
 また,前記(4)イのとおり,周知技術である一般的なモノクローナル抗体の取得手段においては,いずれも,多数の抗体が生じるようにする工程と,それらの多数の抗体の中から,スクリーニングによって抗体を選択する工程とを有し,スクリーニングによって抗体が選択されて初めて特定のモノクローナル抗体が得られるものであると認められるところ,本件優先日前に,参照抗体1又は2が得られていたことを認めるに足りる証拠はなく,競合アッセイによるスクリーニングによって参照抗体1又は2と競合する抗体を選択することができたとはいえない。
 したがって,乙1発明及び周知技術に基づいて,当業者が,参照抗体1又は2と競合する抗体を得ることを容易に想到できたと認めることはできない。

 ウ 以上によれば,乙1文献に接した当業者は,乙1発明及び周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできる,何らかのモノクローナル抗体(相違点1)を得ることが可能であったとしても,参照抗体1又は2と「競合する」抗体(相違点2A,B)について,容易に想到することができたものと認めることはできない。

 エ 控訴人は,@本件各明細書には,参照抗体1又は2と競合するか否かを指標とすることなく,PCSK9−LDLR結合中和抗体を複数作製したところ,そのほとんどが参照抗体1又は2と競合するものであったことが記載されていること,AAの供述書によれば,PCSK9−LDLR結合中和抗体を取得した場合,その中には参照抗体1又は2と競合する抗体が多く含まれるとされることを根拠に,当業者は,乙1及び本件優先日当時の周知技術に基づき,何らかのPCSK9−LDLR結合中和抗体をいくつか作製するだけで,参照抗体1又は2と競合する結合中和抗体を容易に想到できた旨主張する。
 しかし,本件各明細書の表37.1は,確認用スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立したことを確認し(【0329】),そのうちの一部(合計39抗体)についてエピトープビニングした結果を要約したものであり(【0489】〜【0493】),この表を分析しても,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体のうち,参照抗体と競合する抗体の割合を導き出すことはできないから,PCSK9−LDLR結合中和抗体のほとんどが参照抗体1又は2と競合するものであったことが記載されているとはいえない。
 また,Aの供述書は,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体は,「(本件各明細書の)図27Dに図示されるとおり,それらの抗体の結合の態様及びLDLRのPCSK9表面上の結合部位から,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体のほとんどが21B12又は31H4のいずれかと競合することは明らかである。」旨を述べたものであって(乙4),PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体が参照抗体1又は2のいずれかと競合することを述べたにすぎず,PCSK9−LDLR結合中和抗体のほとんどが参照抗体1又は2と競合するということは示されていない。
 したがって,控訴人の主張するように,PCSK9−LDLR結合中和抗体を作りさえすれば,本件発明1−1又は2−1に到達するとはいえない。

 ・・・。・・・,乙1文献には,動物免疫の具体的な条件を含め,参照抗体と競合する抗体を得るための工程について何ら記載がないのであるから,乙1発明に,モノクローナル抗体の作製に関する一般的な周知技術を適用しても,可変領域に特定のアミノ酸配列を有する抗体である参照抗体1又は2を得ることが容易であるとはいえず,参照抗体1又は2と競合する抗体を得ることができたとはいえない。

上記のイにおける、「・・・,本件優先日前に,参照抗体1又は2が得られていたことを認めるに足りる証拠はなく,競合アッセイによるスクリーニングによって参照抗体1又は2と競合する抗体を選択することができたとはいえない。 したがって,乙1発明及び周知技術に基づいて,当業者が,参照抗体1又は2と競合する抗体を得ることを容易に想到できたと認めることはできない。」という説示は、本件発明が容易であることを否定する理由にはなっていないし、「エ」の最後の「・・・,可変領域に特定のアミノ酸配列を有する抗体である参照抗体1又は2を得ることが容易であるとはいえず,参照抗体1又は2と競合する抗体を得ることができたとはいえない。」というのも論理的とは言えない。 参照抗体を取得することが容易とは言えないことは、参照抗体と競合する(という潜在的性質を持つ)抗体を取得することが容易とは言えないことを意味しないからだ。

また表37.1についても、39個の抗体が2441個の抗体の一部であることをもって控訴人の主張を退けているが、39個の抗体は基本的には100個程度の中和抗体の一部であると理解するのが自然だから、裁判所の説示は説得的とは言えない。

またA教授の供述書に関する裁判所の説示に至っては、先に行われた平成29(行ケ)10225判決と平成29(行ケ)10226判決における裁判所の説示を強引にひとまとめにしたためであろうか、「『・・・,・・・21B12又は31H4のいずれかと競合することは明らかである。』旨を述べたものであって・・・,・・・,・・・参照抗体1又は2と競合するということは示されていない。」と説示されており、意味不明な文章となってしまっている。(まとめて書きたいのなら、「・・・参照抗体1又は2と競合するということは示されていない。」ではなく、「・・・参照抗体1と競合することも、参照抗体2と競合することも示されていない。」と書くべきだろう。)

以上のとおり、私は本件については、裁判所の判断は妥当ではないと考えており、被疑侵害者であるサノフィ側の主張を支持している。 但し、サノフィの主張も、特許権者であるアムジェンの本件明細書に掲載されているデータを引用しつつ主張を行っている点で、「相手のふんどしで相撲を取っている」感じは否めないかも知れない。 前述のとおり、良好な中和抗体を取得した場合に参照抗体と競合する抗体がそれなりの割合で含まれていることは、表37.1などの本件明細書に開示されている実験やA教授の供述がなくなくても、技術常識的に推定することは可能だと私は思うし、サノフィ側が新たに実験等を行って証拠を出す必要は、本来はないとは思っている。 しかしより客観的にそれを納得するためにも、「アムジェン明細書に開示されている抗体の取得方法など使わずに、従来の方法を適宜組み合わせて中和抗体をスクリーニングするだけでも、競合抗体が複数取れましたよ。」というデータがあることが望ましいのは確かだろう。 サノフィ側がなぜそうした実験データを出さなかったのかは分からない(判決文からは読み取れないだけで、ひょっとすると出したのかも知れない)。 サノフィも自分たちの抗体(Alirocumab)について特許を持っているから、これを取得するのは容易であるかのような実験データを出すことには躊躇があるのかも知れないし、本件特許の出願後に行われた実験データを出したところで、本件特許出願前に容易であった証拠にはなりにくいとの思いもあるのかも知ない。 しかし、そうした実験データを出さず、相手のふんどしで相撲を取り続けたことが、今回の結果を招いた原因の一つとなった可能性はあるかも知れない。

*   *   *

4.特許庁審判合議体の判断は妥当だったか

なお、本来は実証データ等がなくても判断できるものでも、実証データや専門家の証言等が判断において重要になるということは、技術に必ずしも明るくはない裁判官が判断する場合により当てはまるだろう。 これに対して特許庁審判官であれば、技術的にもよく分かっているはずであるから、実証データがなくても、技術的に納得のいく適切な審理が行われると期待できると思うかも知れない。

ところが、今回の事件の原審となった審決(無効2016-800004、無効2016-800066)を見ると、審判合議体は次のように説示しているのだ。

[無効2016-800004および無効2016-800066の審決より]
  (2)当審の判断
 上記(1)ア〜ウによれば、甲第1号証は、高コレステロール血症の治療用医薬を開発する目的で、PCSK9とLDLRの相互作用を阻害する物質を探索する動機付けを与えるものである。また、上記(1)エにも記載されているとおり、生体分子間の相互作用を阻害する物質として抗体は周知であるから、当業者であれば、PCSK9とLDLRの相互作用を阻害する抗体の作成を容易に想到し得るとまでは認めることができる。
 しかしながら、技術常識を考慮しても、甲第1号証から、「配列番号・・・のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号・・・のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」という特有の構造を有する抗体を導き出すことはできない。まして、当該抗体と競合する抗体についてはなおさらである
 したがって、本件訂正発明1及び・・・5は、甲第1号証に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず、無効理由4は理由がない。

上記の「『配列番号・・・のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号・・・のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体』という特有の構造を有する抗体」というのは本件の参照抗体(21B12抗体および31B4抗体)を指している。 そして審決は、参照抗体そのものは先行技術から導き出すことはできないと説示した後で、「まして、当該抗体と競合する抗体についてはなおさらである。」というのだ。 「まして、・・・なおさら」という言い方からは、参照抗体が取得できない限り、参照抗体と競合する抗体は取得できないと考えていることが示唆される。

しかし、すでに説明したとおり、参照抗体を取得することが容易ではない場合に言えるのは、参照抗体と競合する抗体を「参照抗体を利用して」取得することが容易ではないことに留まり、参照抗体と競合する(という潜在的性質を持つ)抗体を、参照抗体を利用せずに取得することが容易であることを否定する理由にはならない。 審判官は、本件において容易に取得できる中和抗体が、参照抗体と競合するという潜在的性質を持っている頻度が無視できるほど低いのかということについて、すなわち、本件のクレームの範囲に、容易に取得できる中和抗体が包含されているおそれはないのかということについて、慎重に審理すべきだったのに、「参照抗体を取得できなければ、参照抗体と競合する抗体は取得できない」という論理的に誤った考え方に基づいて本件の進歩性を安易に肯定した点は非難に値するだろう。

なお、この無効審判に先立つ異議申立(異議2015-700112)の異議決定(審判長は無効審判と同じ)は、もっとあからさまに次のような説示をしている。

[異議2015-700112]
・・・、ある抗体と、それと「競合」する抗体とは、ほぼ同一のエピトープに結合するものであるから、結局、本件発明1は、21B12抗体の抗原結合領域とほぼ同様の構造の抗原結合領域を有する抗体であると解される。

[異議2015-700112]
・・・、本件発明5は、本件発明1と同様に、21B12抗体の抗原結合領域とほぼ同様の構造の抗原結合領域を有する抗体であると解される。

[異議2015-700112]
・・・競合する」という発明特定事項により、21B12抗体の抗原結合領域とほぼ同様の構造の抗原結合領域を有するという構造的特徴が特定されており、・・・

上記のように審判官の合議体は、21B12抗体と競合する抗体(すなわち本件特許のクレームの発明の抗体)は、「21B12抗体の抗原結合領域とほぼ同様の構造の抗原結合領域を有する抗体であると解される」と説示しているのだ。 しかしこれは、技術常識的にも、また事実としても、誤っていると言わざるを得ない。

もし2つの抗体が結合する抗原のエピトープが「まったく同じ」なのであれば、確かに、抗体の相補決定領域(CDR)のアミノ酸配列は共通性が高いことが多いとは言えるかも知れない。 同一抗原で作製した複数の抗体を取得してCDRを決定したときに、CDRの共通性が高い一群の抗体が同定されることはよくあることであるし、本件特許明細書にも、そうした抗体のグループが同定されたことが記載されている。

しかし、結合が「競合」するというだけで、「ほぼ同様の構造の抗原結合領域を有する」などという技術常識はないだろう。 本件明細書にも、競合抗体の中にはアミノ酸配列が異なる抗体が同定されているし、参照抗体(21B12抗体および31H4抗体)と競合する被疑侵害者(サノフィ)の抗体「Alirocumab」のCDRのアミノ酸配列も、以下のとおり2つの参照抗体のCDRとは異なっている。

[各抗体の相補決定領域(CDR)のアミノ酸配列]
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上に示したとおり、いくつかのCDRで似ているということはできても、全体として「ほぼ同様の構造」とは到底言えないことが分かるだろう。

本来、特許庁審判官は、発明の技術的な背景をよく把握した上で、技術的・科学的にも説得力のある判断をすることが求められている。 そうした判断がもとになってこそ、必ずしも技術に明るくはない裁判官たちの審理も意義のあるものとなるのだと思う。 にもかかわらず、本事件においては、その初期段階において特許庁審判官が「競合する抗体なら構造はほぼ同様」、「参照抗体が取得できない限り、競合抗体は取得できない」という技術的に誤った考えに基づいて本件の特許性を肯定してしまった。 そのことが、今回のような事態を招く一因となった可能性があるのではないか。

タンパク質とタンパク質の相互作用が、タンパク質上のドメイン同士が結合するものである場合、その結合を阻害する中和抗体は、自ずとその結合部位の近傍に結合することが多くなる。 そうすると、そうした中和抗体を取得しようという動機付けが既に高まっている状況においては、その部位に結合する抗体が別々の研究者によって複数取得されるのは時間の問題だと言えるだろう。 したがって、誰かがその中和抗体に一番乗りを果たして特許出願したとしても、その者に「取得した抗体と競合する中和抗体」に特許を与えてしまっては、その発明などなくても発明されるのも間近だった中和抗体を、一番乗りを果たした者にすべてくれてやることになってしまう。

特許庁は、「1アミノ酸でも違えば活性が失われることがあるのは技術常識である」(各判決文におけるサノフィ側の主張を参照)などといって、「90%以上のアミノ酸配列の同一性を持つCDRを含む抗体」の特許性さえ容認しない審査実務を行うことが多い一方で、類似性のないCDRを持つ抗体までも包含する「競合する抗体」については、今回のように気前よく特許にすることがある。 特許庁のそうした審査・審判実務には著しいアンバランスがあるというべきだ。 今回の発明についても、もし「参照抗体のCDRのアミノ酸配列と90%以上の同一性を持つ」という限定を加えさせた上で特許を付与していれば、サノフィの抗体(Alirocumab)が非侵害であることは明らかであっただろうし、今回の事件はそもそも起きなかったかも知れない。

以上のとおり、競合する中和抗体について、たとえ明細書において多数の競合中和抗体を取得したことが実施例を伴って記載されているとしても、「競合する中和抗体」という広いクレームを安易に特許にすべきではない。 そのような特許が許容できる場合が仮にあるとしても、そのような特性を潜在的に持つ抗体を、本件発明などなくても誰かがじきに取得するだろうとはおよそみなせない場合、例えば本件の場合で言えば、PCSK9とLDLRとの結合を遮断する中和抗体を取得しようなどとは誰も思いもよらなかった場合などに限られるだろう。 本件のように、すでに中和抗体を取得しようという動機付けが高まっている状況においては、いち早く中和抗体を取得したからといって、その抗体と「競合する抗体」に特許を付与することはできないのである。

今回の判断の妥当性について、特に特許庁の審査官や審判官の方々にはよく考えてもらいたいと思う。

*   *   *

5.上告受理申立理由はあったか

本件は上告受理申立が行われたが、冒頭で述べたとおり、令和2年4月24日に不受理の決定がなされている。 しかし仮に受理されていた場合、事実審ではない最高裁の審理において、最高裁が判断を示すことができる法令違反は見出せたであろうか。

今回の投稿の内容に即していえば、知財高裁が「参照抗体が容易想到ではない“から”、参照抗体と競合する抗体も容易想到ではない」と判断しているところに違法性があると指摘することはできるかも知れない。 具体的には、平成29(行ケ)10225および平成29(行ケ)10226で裁判所は、「参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められない“から”,・・・,参照抗体と『競合する』抗体(・・・)についても,容易に想到することができたものと認めることはできない。」と説示し、平成31年(ネ)10014で裁判所は、「・・・,本件優先日前に,参照抗体1又は2が得られていたことを認めるに足りる証拠はなく,競合アッセイによるスクリーニングによって参照抗体1又は2と競合する抗体を選択することができたとはいえない。 “したがって”,・・・,参照抗体1又は2と競合する抗体を得ることを容易に想到できたと認めることはできない。」と説示した。

ちなみに、本件特許(特許5705288、および特許5906333)の請求項は以下のようになっている。

[特許5705288および特許5906333の請求項1](配列番号は省略した)
【請求項1】PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号・・・のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号・・・のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体。

上記のクレームの文言のうち、「配列番号・・・のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号・・・のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」という部分が「参照抗体」に相当する。 したがって、「参照抗体」は、クレームに記載されている発明特定事項の一つといってよいだろう。 そして知財高裁は、この発明特定事項(参照抗体)が容易想到ではないことを理由に、本件発明は容易想到ではないと説示したことになる。

しかしながら、進歩性の判断において判断すべきは、あくまで「クレームに係る発明」(クレームの発明)が容易想到であるか否かであって、クレームに記載されている発明特定事項が容易想到であるか否かではない。

もちろん、クレームに記載されている発明特定事項が容易想到でない場合は、直ちにクレームの発明も容易想到ではないと結論できる発明は多い。 例えば、「構成Aを備える装置。」という発明で、構成Aが容易想到ではない場合は、「構成Aを備える装置。」も容易想到ではないと直ちに結論できるだろう。 しかしそれは、クレームの発明が容易想到である場合は、必ずAも容易想到であるという関係が成り立つような発明に限られる。 しかし本件のクレームはそうではない。 本稿で説明したとおり本件は、参照抗体とは無関係にクレームの発明の抗体を取得することが容易想到であることが疑われる事案であって、「参照抗体」が容易想到ではないことは、クレームの発明の抗体を取得することが容易想到ではない理由にはならないからだ。

このように、進歩性の判断においては、「クレームに係る発明」が全体として容易想到であるか否かを判断しなければならないのに、本件において知財高裁は、クレームに記載されている発明特定事項(すなわち「参照抗体」)が容易想到であるか否かで判断をしたところに、法令の解釈適用を誤った違法性を指摘することはできるように思う。

もっとも、知財高裁はそれに続けて表37.1やA教授の供述書について検討を行っているから、クレームに記載されている発明特定事項(参照抗体)が容易想到ではないことのみをもって直ちに結論を出したとまでは言えないかも知れない。 しかしすでに説明したとおり、言葉尻をとらえてA教授の供述書を一蹴するなど、知財高裁が行った表37.1やA教授の供述書についての審理は表面的なものに過ぎない。 「参照抗体が容易想到ではない限り、それに競合する抗体も容易想到ではない」(クレームの発明特定事項が容易想到ではない限り、クレームの発明は容易想到ではない)という思い込みが、表37.1やA教授の供述書を軽視することにつながった可能性があるのではないか。

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6.中島論文(中島勝, AIPPI (2019) Vol,64, No.11, pp.33-58)について

さて、ここからは、本事件について考察している他の先生方の論文などについてコメントしたい。

この中島論文は、今回の私の投稿のきっかけとなった論文だ。 中島先生は訴訟記録も閲覧されており、事件について詳細に記載されているので参考になる。但し、中島論文は本件判決に賛成の立場に立っているので、私の立場とは逆だ。

私が中島論文を読んで納得がいかないのは、まず、以下の部分だ。

[中島論文 51ページ]
 一方,本件出願日当時, A社及びB社の他にも複数の訴外他社が,高コレステロール血症の治療手段として,抗PCSK9抗体の開発を行っていたが19), PCSK9とLDLRとの実質的な相互作用が生じる部位を特定できなかったために,PCSK9のプロドメインに結合する抗体を開発した結果,PCSK9とLDLRとの相互作用を十分に中和できなかったとのこと。最終的に上市に至ったのは,LDLRのEGFaドメインとPCSK9の 触媒ドメインとの相互作用を遮断する,A社及びB社各抗体のみであったとのことである(B社抗体の位置づけについては後述する。)。
 以上のA社の主張を考慮すると,参照抗体と「競合」するという本件訂正発明の限定は,本件訂正発明の抗体が単にPCSK9とLDLRとの結合を中和できるのみならず,LDLRのEGFaドメインとPCSK9の触媒ドメイン上の小さな領域との間の相互作用を遮断するのに効果的な位置に結合しPCSK9とLDLRとの相互作用を強力に中和できることを規定していることになり,本件特許発明の解決課題(高コレステロール血症等の疾患を治療又は予防する手段としての,PCSK9と結合し,PCSK9のLDLRへの結合を阻害(中和)する抗体の提供)との関係において,極めて重要な意義を有する限定であると言うことができる。

19) 例えば,乙7(特表2010-508817号公報)の出願人である訴外C社の1G108抗体,乙9(特表2010-523135号公報)の出願人である訴外D社のH1Fab抗体等。

ここで「A社」とは本件の特許権者であるアムジェン、「B社」とは被疑侵害者であるサノフィを指している。

上の引用の前半部で中島先生は、訴外他社(具体的には脚注19にあるとおり、特表2010-508817(メルク)や特表2010-523135(ノバルティス))は「PCSK9とLDLRとの実質的な相互作用が生じる部位を特定できなかったために,PCSK9のプロドメインに結合する抗体を開発した(とのこと)」と論じている。 しかし、これらの公開公報を一読する限り、「PCSK9とLDLRとの実質的な相互作用が生じる部位を特定できなかった“ために”,PCSK9のプロドメインに結合する抗体を開発した」という事実は確認できず、単に、PCSK9とLDLRとの相互作用を阻害する抗体をスクリーニングして抗体を得たこと、そしてノバルティスの公報においては、得られた抗体の結合部位を水素重水素交換質量分析により推測した結果、PCSK9のプロドメインに結合しているようだという結果が得られたことが記載されているだけだ(特表2010-523135の実施例6)。 PCSK9とLDLRとの相互作用を阻害する抗体を取得したいのであれば、PCSK9とLDLRとの相互作用を指標にしてスクリーニングを行えばよいのであって、PCSK9とLDLRとの「実質的な相互作用が生じる部位」をあらかじめ特定することは不要だし、特表2010-508817や特表2010-523135も、あらかじめ特定することなくスクリーニングを行っているだけではないか。 PCSK9とLDLRとの相互作用を指標にして、その相互作用を強く阻害する抗体を取得すれば、その抗体の結合部位が、PCSK9とLDLRとの実質的な相互作用が生じる部位かも知れないということが結果的に推測されるにすぎない。 したがって、「PCSK9とLDLRとの実質的な相互作用が生じる部位を特定できなかった“ために”,PCSK9のプロドメインに結合する抗体を開発した(とのこと)」という中島論文の記載は、常識的に考えても疑問があるし、これらの文献の記載からも支持されないように思う。

そして上の引用の後半部で中島先生は、「参照抗体と『競合』するという本件訂正発明の限定は,本件訂正発明の抗体が単にPCSK9とLDLRとの結合を中和できるのみならず,LDLRのEGFaドメインとPCSK9の触媒ドメイン上の小さな領域との間の相互作用を遮断するのに効果的な位置に結合しPCSK9とLDLRとの相互作用を強力に中和できることを規定していることになり,・・・,極めて重要な意義を有する限定であると言うことができる。」というのだが、「単にPCSK9とLDLRとの結合を中和できる“のみならず”,・・・ PCSK9とLDLRとの相互作用を強力に中和できることを規定している」という言い方は、まるでPCSK9とLDLRとの結合を中和することと、PCSK9とLDLRとの相互作用を遮断することが「違うこと」であって、「結合を遮断する抗体であっても、相互作用を遮断できるとは限らない」と理解しているかのようだ。 しかし相互作用するには接触しなければならない以上、接触を強く遮断する抗体であれば相互作用も強く遮断できるであろうことは自明で、「のみならず」という言葉を使って両者を分ける意義が不明だ。 訴外他社の公報に記載されている抗体が、結合は非常に強く遮断しているにもかかわらず、相互作用は強く遮断できていない抗体であることが示されているものでもないし、本件において、結合を強く遮断しても、PCSK9の機能(具体的にはLDLRの細胞内取り込み)は遮断できない場合が多いという事情が明らかにされているわけでもない。

なお中島論文は、次のようにも論じている。

[中島論文 50ページ右]
・・・,本件各訴訟におけるA社の主張によれば18),PCSK9は,触媒ドメイン,プロドメイン,及びVドメインからなるところ,LDLRとの相互作用はこれらの複数のドメインにまたがる広い領域で生じるものの,どの位置で生じる相互作用が最も重要であるかは不明であった。これに対して,本件発明者らは,PCSK9とLDLRとの実質的な相互作用がLDLRのEGFaドメインと(PCSK9の触媒ドメイン上の小さな領域との間で生じていることを見出した,とのことである(参考図9参照)。

18) A社による以下の主張は本件東京地裁判決にしか記載されていないが,訴訟記録によれば,本件各審決取消訴訟でもA社は同様の主張を行っている。

上記のとおり中島論文は、PCSK9とLDLRの相互作用は「複数のドメインにまたがる広い領域で生じる」とA社(特許権者であるアムジェン)が主張し、そのことは東京地裁判決にしか記載されていないが、訴訟記録によれば審取訴訟でも同様の主張をしていると記載している。

しかし、東京地裁判決(平成29(ワ)16468)の判決文を見ても、PCSK9とLDLRの相互作用が「複数のドメインにまたがる広い領域で生じる」という特許権者の主張は見当たらない(2020年10月12日の投稿で取り上げた田村論文も、中島論文に該当する記載が見つからないことについて同様の指摘をしている(知的財産法政策学研究 Vol.56 (2020) の231ページ脚注105))。特許権者が実際にどういう証拠を出してそういう主張を行っているのかは訴訟記録を見なければ分からないが、例えば上記のノバルティスの公報(特表2010-523135の実施例6)については、この実験は、単に“中和抗体”がプロドメインに結合しているらしいことを示しているだけで、“PCSK9” がプロドメインを介してLDLRと結合していることを示しているわけではない。 例えばPCSK9はあくまで触媒ドメインを介してLDLRと結合するが、抗体がPCSK9のプロドメインに結合することによって、抗体が立体的に邪魔になってPCSK9がLDLRに強固に結合できなくなることはありうるし、あるいは抗体がPCSK9のプロドメインに結合することによって、PCSK9タンパク質全体の立体構造に変化が生じ、その結果PCSK9がLDLRに強固に結合できなくなることも考えられる。 すなわち、ノバルティスの中和抗体がプロドメインに結合するというだけでは、PCSK9がプロドメインを介してLDLRに結合するとは言えないし、PCSK9とLDLRの相互作用が「複数のドメインにまたがる広い領域で生じる」とは言えない。

なお、訴外各社(特表2010-508817(メルク)や特表2010-523135(ノバルティス))の実施例を一見するかぎり、得られた抗体の結合親和性(KD)は最高でも 〜10 nM程度で、本件特許発明の参照抗体の 〜10 pMに比べて劣るものであるし、LDLRの取り込み阻害活性も、最大で60%程度とあまり大したものではない。 すなわち、メルクやノバルティスの公報の実験は、これらの抗体が、結合は非常に強く遮断しているにもかかわらず、相互作用は強く遮断できていない抗体(中島論文が示唆するような抗体?)であることを示しているというよりは、単に実施したスクリーニングがあまり成功していないことを示唆しているに過ぎないように思う。まぁ、成功していないのにこう言うのもなんではあるが、PCSK9とLDLRとの結合をより強く遮断する抗体を、訴外各社が採用したのと同様の手法やその他の既知の方法を用いてさらに探索すれば、PCSK9の触媒ドメインに結合する何らかの中和抗体を取得するに至ったであろうことを疑う理由は特にないのではないか。

少なくとも、PCSK9とLDLRとの実質的な相互作用がLDLRのEGFaドメインとPCSK9の触媒ドメイン上の小さな領域との間で生じていることを本件特許権者が公表しない限り、その部位に結合する抗体は得られなかった(換言すれば、その部位に結合する抗体を取得した者は、本件特許を見て利用したからこそ取得できたのであろうと擬制できる)とみなすことはできないように思う。

なお、中島先生の上記の論じ方と関連するかも知れないが、東京地裁判決(平成29年(ワ)16468)の判決文では、Lagace et al.(乙1文献)が、冒頭で引用したとおり「antibodies to block its interaction with the LDLR」(LDLRとの相互作用を遮断する抗体)と記載していることに関し、「乙1文献には,『LDLRとの相互作用を遮断する抗体』の記載(・・・)があるにとどまり,この抗体がPCSK9−LDLR結合中和抗体であるとの記載はないこと,・・・」(判決文PDF47ページ)と説示されているくだりがあり、まるで相互作用を遮断することと中和することが違うかのような説示がなされている。 しかし、こうした使い分けに意義があるのかについては疑問で、控訴審(平成31年(ネ)10014)判決においては、こうした使い分けはされていない(判決文PDF24ページ「・・・,PCSK9とLDLRの結合を「中和」するとは,PCSK9とLDLRとの間の結合を妨げることを意味するものと認められる」という部分)。 中島論文は控訴審判決前に書かれたものなので、地裁のように、本件中和抗体が、先行技術が示唆する概念とは違うものだと考えている可能性があるのではないか。

なお、仮に本件特許出願前には、PCSK9とLDLRは「広範な複数の部位」で結合する可能性を示唆する論文等が出されており、当業者の間でそのように理解されていたとしても、それにより影響されうるのは、中和抗体を取得することの「動機付け」に留まる(例えば、PCSK9とLDLRは広範な複数の部位で結合していると思われていた場合、当業者は、「一つや二つの中和抗体で両者の結合を阻害することはできないだろうから、中和抗体を取得しても医薬として使い物にならない」と思ってしまい、中和抗体を取得することをそもそもあきらめてしまうだろうという主張の根拠になるということ)。 実際に中和抗体の取得を試みた場合に、本件の参照抗体と競合する中和抗体がそれなりに高い割合で取得されてくるか否かは、「動機付け」の問題ではなく「事実」の問題であるから、どう「理解されていた」かで影響を受けるものではない。 PCSK9とLDLRとが現実には特定の部位で結合する場合、中和抗体をスクリーニングして良好な中和抗体を取得すれば自ずと競合しやすいという事実は動かない。 そして本稿の冒頭で見たとおり、本件において裁判所は、「動機付け」の存在についてはむしろ肯定している点を指摘しておきたい。

*   *   *

ところで中島論文は、本件の記載要件の問題に関して次のように論じている。

[中島論文 53-54ページ]
・・・,本件各判決では,「動物免疫法によるモノクローナル抗体の作製プロセスでは,動物の体内で特定の抗原に特異的に反応する抗体が産生され,その免疫化動物を使用して作製したハイブリドーマをスクリーニングし特定の結合特性を有する抗体を同定する過程においてアミノ酸配列が特定されていくことは技術常識であるから,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない」,と判断している。

中島論文が指摘するとおり、各判決において裁判所は上記のとおり判断している。 そしてこれは特許権者側の主張でもある。 そして私も同感だ。

しかしそうであれば、PCSK9とLDLRとの結合を強力に遮断する抗体を取得したいのであれば、PCSK9とLDLRとの結合を指標にして、PCSK9とLDLRとの結合を強力に遮断するという「結合特性」を持つ抗体をスクリーニングすればよいだけのことで、それにより、PCSK9とLDLRとの結合を強力に遮断する中和抗体は自然に選択され、その過程において、その抗体の結合部位(PCSK9のどのドメインに抗体が結合するか)が特定されていくこともまた技術常識と言わなければならないだろう。 そうすると、「参照抗体と競合する」という結合特性をあらかじめ知ったり、「参照抗体と競合する」という結合特性を利用したりする必要はそもそもないということになる。

特許権者が、アミノ酸配列をあらかじめ知る必要があるか否かという問題においては、「結合特性を指標にしてスクリーニングするだけで取得できる」ということを強調してあらかじめ知る必要性を否定しつつ、参照抗体をあらかじめ知る必要があるか否かという問題においては、「(PCSK9とLDLRとの)結合特性を指標にしてスクリーニングするだけで(最終的に得たい中和抗体は)取得できる」ということを棚に上げて「参照抗体と競合する中和抗体」の特許性を主張するのだとすれば、二枚舌というべきではないか?

*   *   *

ちなみに中島論文も、「参照抗体との競合による限定が,単に他の機能限定(例えば抗原と受容体との結合中和性)を言い換えたものにすぎない場合」は、「参照抗体と競合する」という事項は技術的意義を有さないと論じており(50ページ右)、脚注16において、「仮に本件特許発明において,PCSK9とLDLRとの結合を中和できる抗体であれば,常にPCSK9との結合に関して参照抗体と競合する等の事情が存在する場合には,こうした場合に該当する。」と論じている。

しかし本件クレームの特許性を否定するためには、中和抗体が「常に」参照抗体と競合する必要はないだろう。 例えば従来のスクリーニング方法でも、PCSK9とLDLRとの結合を良好に阻害できる中和抗体を取得することは可能だったとして、そのような中和抗体には、本件参照抗体と競合するものもそれなりにあっただろうとみなせる程度でも、本件クレームの特許性を否定するのに十分だろうと思う。

*   *   *

ところで、中島論文は次のようにも論じている。

[中島論文 52ページ左]
・・・,本件各判決では,参照抗体(相違点Bに係る構成)の容易想到性の判断において,「本件明細書記載の免疫化プログラムに従って免疫化された免疫化マウスから産生される抗体とこれと異なる条件及びスケジュールの免疫化プログラムに従って免疫化された免疫化マウスから産生される抗体とでは, PCSK9に対して異なる反応性を示すものと認められ,免疫化プログラムの条件及びスケジュールを最適化し,参照抗体を得るのに適した免疫化マウスを作製するには,通常期待し得る範囲を超えた試行錯誤を要するものと認められる」とし,甲1及び周知技術から参照抗体に想到するのは容易であったとは言えない,と判断している。

実際、各判決において裁判所は以下のように説示している。

[平成29(行ケ)10225の判決文(PDF 70ページ)]
・・・,本件優先日当時の上記技術常識に照らすと,本件明細書記載の免疫化プログラムに従って免疫化された免疫化マウスから産生される抗体とこれと異なる条件及びスケジュールの免疫化プログラムに従って免疫化された免疫化マウスから産生される抗体とでは,PCSK9に対して異なる反応性を示すものと認められ,免疫化プログラムの条件及びスケジュールを最適化し,参照抗体を得るのに適した免疫化マウスを作製するには,通常期待し得る範囲を超えた試行錯誤を要するものと認められる。
・・・・
 そうすると,当業者は,甲1及び周知技術(・・・)に基づいて,動物免疫法によって,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認めることはできない。

[平成31年(ネ)10014の判決文(PDF 48-49ページ)]
・・・,動物免疫法による抗体の作製においては,動物の選択,抗原の投与量及び形態,免疫補助剤(アジュバント)の使用,注射の経路及び回数及び注射の間に置かれる期間を含む(動物に対する)「注射の条件」の違いによって,抗原に対する反応性の異なる抗体が得られることが認められ(前記(4)ア(ア)),このことは,ファージディスプレイ法において,抗体の作製に用いる抗体遺伝子を得るための動物についても同様であると理解することができる。ところが,乙1文献には,動物免疫の具体的な条件を含め,参照抗体と競合する抗体を得るための工程について何ら記載がないのであるから,乙1発明に,モノクローナル抗体の作製に関する一般的な周知技術を適用しても,可変領域に特定のアミノ酸配列を有する抗体である参照抗体1又は2を得ることが容易であるとはいえず,参照抗体1又は2と競合する抗体を得ることができたとはいえない。

上記のとおり裁判所は、本件の「参照抗体」(21B12抗体や31H74抗体)が容易とは言えない理由として、免疫のスケジュールやプログラムが異なることを指摘している。 しかし、裁判所の「PCSK9に対して異なる反応性を示すものと認められ」という説示や、「抗原に対する反応性の異なる抗体が得られることが認められ」という説示が妥当するのは、本件発明の方法で取得できる抗体 “集団” (すなわち抗血清やポリクローナル抗体)に限られ、そこに含まれる個々の抗体分子(のすべて)には妥当しないだろう。 いくら免疫のスケジュールやプログラムが異なるからといって、それにより惹起される個々の抗体のすべてが、他の一般的な方法では惹起され得ない抗体ばかりだと考える科学的合理性はないからだ。 裁判所や中島論文は、その辺りのことを峻別して考えているのかにやや疑問を感じる。 「参照抗体」という特定の抗体の容易性を否定する文脈で免疫のスケジュールやプログラムの特殊性を説示していることからすると、裁判所は、本件発明の方法で取得できるすべての抗体は、他の一般的な方法では取得され得ない抗体ばかりだと誤解している可能性があるのではないか?

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7.サノフィはアムジェン発明をパクったのか?

既に述べたとおり、今回の事件の被疑侵害者であるサノフィ(中島論文にいうB社)は、抗PCSK9中和抗体(Alirocumab)を医薬品として上市しており(但し日本では本判決を受けて販売停止になった)、Alirocumabに関する特許も出願しているが、中島論文は、これに関して次のように論じている。

[中島論文 56ページ左]
 B社抗体は,本件特許1及び2の双方の権利行使の対象となったことからも明らかなように,まさしくこのような本件参照抗体1及び2の双方と競合し,極めて高い結合中和活性を有する抗体である(参考図11参照)。そして,B社抗体をカバーするB社の特許(乙11)は,本件特許原PCT出願の公開後に出願されており,その実施例には,B社抗体(316P抗体)が,A社による本件参照抗体1及び2(コントロールII及びIII)と競合することが明記されている。

上のとおり中島論文は、「B社の特許(乙11)は,本件特許原PCT出願の公開後に出願されており,その実施例には, B社抗体(316P抗体)が,A社による本件参照抗体1及び2(コントロールII及びIII)と競合することが明記されている」と論じている。 これを見ると、なにやら被疑侵害者であるサノフィ(中島論文のB社)は、アムジェン抗体の発明を知ったうえで、アムジェン抗体に依拠して自社抗体(316P抗体)を発明したかのような印象を受ける。

・高石秀樹先生のブログ記事について

これについては、弁護士の高石秀樹先生も、自身のブログにおいて、被疑侵害者のサノフィは、本件特許(アムジェン特許)が公開された後、その明細書に記載されていた「参照抗体」を参考にしてスクリーニングを行い、アムジェン特許の抗体と競合するが、「参照抗体」とは異なる抗体を開発して上市したという事情がある旨をコメントされている。 高石先生のこのブログ記事は、本事件に関して開かれたAIPPI判例研究会に参加されたときに聞いた話として書かれているものだが、AIPPI判例研究会(第185回;2019年5月28日)で発表したのは中島先生なので、中島先生からの情報に拠っているのだろう。

『hideki-takaishiのブログ』(高石秀樹先生)2019/05/29投稿
「PCSKに対する抗原結合たんぱく質」事件(AIPPI判例研究会で学んだことの追記)
https://ameblo.jp/hideki-takaishi/entry-12464728123.html

中島先生は本件の訴訟記録を閲覧しているはずなので、そこで知ったいろいろな事情も踏まえて上のように書かれているのかも知れない。 その辺りのことは、判決文に現れない限り分からないし、私の方に誤解があるかも知れないが、サノフィの抗体(Alirocumab)に関するRegeneron社の特許出願(特表2012-511913,WO2010/077854)の最も早い出願(US61122482)は、アムジェン特許(WO2009/026558)の公開日(2009/02/26)よりも早い2008/12/15に出願されており、そこにはAlirocumabの可変領域と同じアミノ酸配列を持つH1H316P抗体(SEQ ID NOs: 90, 92)が既に記載され、非常に良好な特性を持っていることも開示されている。 確かに、その後で出された出願においては、本件特許発明の抗体(アムジェン抗体)との比較実験の結果が追加されており、アムジェン抗体を「参考」にしていることは確かだが、それはアムジェン抗体に依拠して発明を行ったというよりは、自社の抗体(H1H316P抗体)がアムジェン抗体に勝るとも劣らない抗体であることを検証するために使っているだけであるように見える。

サノフィ側が、H1H316Pとは違う抗体を当初の開発候補にしていたというような事情があるのか否かは知らないが、たとえそうした事情があるとしても、H1H316P抗体や、それと同等のCDR(相補決定領域)を持つ抗体という発明(すなわちAlirocumabを包含する発明概念)は、最先出願(US61122482)の段階で既に高度に完成していたと言えるだろうと思う。

*   *   *

なお2019年10月17日の投稿でも書いたとおり、私は、特許制度は「依拠性を擬制した制度」に近づけることを意識すべきだと思っているが、「依拠性を要件とするべきだ」と思っているわけではない。 クレームの範囲(私の言う、依拠性を擬制できるとみなされる範囲)において特許がいったん付与されれば、その範囲に含まれるものは、実際に依拠しているのか否かにかかわらず権利行使できるのは、特許制度の設計上当然のことだろう。 しかしそれと同じように、その範囲に含まれない態様については、実際に依拠していたとしても権利行使は否定されるのは、また当然のことだ。 特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的としている。 研究開発段階において他人の特許発明を参照しつつ、その権利が及ばない(あるいは及ぼすことが正当化できない)新たな中和抗体を開発し、医薬品として上市を果たすことは、産業の発達に特許発明が確かに寄与したことを示すものとも言えるだろう。 したがってサノフィがたとえアムジェン特許の発明を参照して自社抗体を開発したとしても、そのこと自体がアムジェン特許の権利行使を肯定する事情となるものではない。

*   *   *

8.その他の論文について

・深澤憲広, 内田俊生, 内山務, パテント 2020 Vol.73 No.2, 146-150
 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3499

この論文は、上の中島論文とは逆に、本件各判決を批判する内容となっている。 その内容は、まず本件の無効審判(無効2016-800004)に対して

[深澤ら論文の147ページ右]
・・・,「参照抗体」の進歩性が認められるから,特段の論理付けをすることなく,「当該抗体と競合する抗体についてはなおさらである」として,競合抗体全般の進歩性を認めている。

と指摘し、その審決取消訴訟(平成29年(行ケ)10225)の判決に対しては、

[同148ページ右]
・・・,「参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められないから,…参照抗体と「競合する」抗体…についても,容易に想到することができたものと認めることはできない」として,特段の論理付けをすることなく,競合抗体全般の進歩性を認めている。

と指摘し、以下のように批判している。

[同148-149ページ]
無効審判の審決においても審決取消訴訟の判決においても,「参照抗体」の進歩性が認められることまでは理解できるとしても,なぜ「参照抗体」と競合する抗体全般についてまで進歩性が認められるのか,についての論理的な説明がなされていない。すなわち,いずれの判断においても,「参照抗体」の進歩性が認められることから,競合抗体全般についての進歩性が認められるまでの,論理的な解析が全くされておらず,これら無効審判の審決においても審決取消訴訟の判決においても,競合抗体についての発明の進歩性の判断に至る道筋には,論理の飛躍がある。

これについては既に述べたとおり、私もまったく同感で、本件各判決および審決の最も責められるべき部分と言えるだろう。 なお本件各判決に肯定的な中島論文は、この問題に関して、

[中島論文の52ページ左]
本件各訴訟において, A社及びB社は,PCSK9との結合に関して参照抗体と競合する抗体(相違点Bに係る構成)が想到容易か否かを争ったのに対し,本件各判決では,参照抗体自体の容易想到性について判断しており,一見整合していないように思われる。

と論じながらも、「・・・,前述した参照抗体及びこれと『競合』する抗体の技術的意義を考慮すれば,この点も理解できるように思われる。」(52ページ左)と論じている。 なお、そこでいう「前述した・・・技術的意義を考慮すれば」とは、「参照抗体と『競合』するという本件訂正発明の限定は,本件訂正発明の抗体が単にPCSK9とLDLRとの結合を中和できるのみならず,LDLRのEGFaドメインとPCSK9の触媒ドメイン上の小さな領域との間の相互作用を遮断するのに効果的な位置に結合しPCSK9とLDLRとの相互作用を強力に中和できることを規定していることになり,・・・,極めて重要な意義を有する限定であると言うことができる。」ということを指している。 しかし上述のとおり、中島論文の「のみならず」という理解には技術的に疑問があり、単にPCSK9とLDLRとの結合を高度に遮断できる抗体をスクリーニングするだけで、参照抗体と競合する中和抗体に到達しうるだろうということについて、それを否定するに足る証拠は示されていないように思う。

なお、私はこのパテント誌の深澤先生らの論文に全面的に賛成しているわけではない。 例えば、この深澤論文では結論として、「具体的な重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を有する特定の競合抗体の発明についてのみ,進歩性が認められるべき」と論じられている。 この結論は読み方によっては、明細書に具体的に開示されている抗体と100%同一のアミノ酸配列を有する抗体のみに進歩性を認めるべきだと言っているようにも見える。 しかし、そうだとすればあまりにも狭すぎるだろう。 冒頭で述べたとおり、取得した抗体そのものでなくても、その抗体が提供されたからこそ実現可能となったとみなせるような範囲、例えば、「21B12抗体」や「31H4抗体」などの単離抗体を少し改変して作製できる抗体についても特許は付与されてよいように思う。

なお、パテント誌の論文は以下のようにも論じられている。

[深澤ら論文の150ページ左]
・・・,本件明細書記載の方法によって得られたPCSK9とLDLRとの結合中和抗体(参照抗体だけでなく,参照抗体と「競合する」抗体も含む)であれば全体として,本件明細書記載の免疫化プログラムに従って免疫化された免疫化マウスから産生されているのだから,特徴的なPCSK9に対する反応性を有するとして,全体として進歩性が認められてよいことになる。

この論文は上記の引用に続いて、得られた抗体をアミノ酸配列で特定することは可能である旨を論じていることから(150ページ右)、ここでいう「抗体」とは、アミノ酸配列で特定することは不可能な「抗血清」や「ポリクローナル抗体」を想定しているのではなく、本件明細書記載の方法によって得られた個々の「モノクローナル抗体」のことを指していると解され、そうした個々のモノクローナル抗体については進歩性を肯定してよいとの立場を示したものだろう。 しかし、「本件明細書記載の方法によって得られたPCSK9とLDLRとの結合中和抗体」というのが、本件明細書に既に開示されている特定の中和抗体を指しているのならともかく、本件明細書記載の方法を第三者がこれから実施して取得されるモノクローナル中和抗体(と同一構造を有するモノクローナル中和抗体)までも意味しているのなら同意できない。 本件明細書記載の方法によって得られた抗血清やポリクローナル抗体であれば、それとまったく同じものを取得するのは容易とは言えないとみなして特許を付与してもよいだろうが、先にも言ったとおり、そこに含まれる個々の中和抗体のすべてが、他の周知な方法では取得され得ない抗体ばかりだと考える合理性はないのだから、本件明細書記載の方法によって得られた抗体の集団には、周知な方法で取得しうる中和抗体が含まれうると考えるべきで、本件明細書記載の方法によって得られるすべてのモノクローナルな中和抗体について特許性を認めるわけにはいかないだろう。

*   *   *

なお、本件事件に特許権者側の代理人として関わった弁理士先生が、上記深澤論文の公開直後に、その論文に関してツイートされるとともに、本件発明の進歩性を否定しようとする考え方に対して以下のような例を挙げられている。

[森田裕先生の2020年2月20日ツイート1
PD-1抗体というのが公知であるときにPD-1/PD-L1を遮断する抗体が進歩性がないのか。

PD-1抗体を得ればそのうち一部は必ずPD-1/PD-L1を遮断する抗体が得られるという場合が仮にあったとしても進歩性は否定できないと思っています。

単離した個々の抗体の進歩性についてはともかく、PD-1とPD-L1が結合することが既に知られていたり、予測されている場合、「PD-1/PD-L1を遮断する抗体」を広くカバーする発明は、たとえ「それを取得することが、長年、どうしてもできなくて」という特段の事情があったとしても特許性を肯定するのは相当に困難で(個々の抗体を超える部分はスクリーニング方法等で特許を取るべきだろう)、そうした事情がないのなら、なおさら進歩性を認めるのは困難だと私は思う。

また、この先生は次のようにもツイートされている。

[森田裕先生の2020年2月20日ツイート2
例えば、糖尿病治療薬が抗癌剤としても有用というときに、進歩性が否定できないように。まさか糖尿病患者にがん患者が1人もいないとは思っていないですね?たくさんやればがん患者を治療してしまうという場合であっても、進歩性は否定できないのと一緒。

しかし、PCSK9中和抗体を用いて血中LDLレベルの制御を行うという用途がすでに先行者の論文において示唆され、中和抗体を取得する動機付けも一般的手法も存在していたときに、いち早く良好な中和抗体のスクリーニングに成功した者が、中和に重要な遮断部位近傍に結合する競合中和抗体を総取りできるか、という本件の問題は、「抗癌剤として用いるという用途がまったく知られていないときに、その用途に限定された用途発明に新規性・進歩性が認められるか」という問題とは違うのであり、両者を「一緒」ということはできない。 なおこれら2つのツイートは、ノーベル賞をとられた本庶佑先生の発明(PD-1抗体医薬用途発明)を意識したものと思われるが、本件発明と本庶発明とはまったく違うことを指摘する論文としては、次に紹介する東大の桝田先生の論文がある。

*   *   *

・桝田祥子, AIPPI Vol.65 No.8 (2020) 32-46

この桝田論文も、本件判決には批判的だ。

[桝田論文 33ページ右]
今回の・・・知財高裁判決は,すでに確定しているが,機能的・作用効果クレームの問題点について十分に議論されたか疑問が残る。

[桝田論文 35-36ページ]
・・・,PCSK9の構造および生体機能の解明は,PD-1とは異なり,分子生物学や医学,疫学分野の複数の研究者・研究チームが独立して段階的に行ったものである。そして,PCSK-9抗体医薬特許(「1. はじめに」参照)の特許出願(優先日: 2007年8月23日)は,これらの先行研究の積み重ねにより, PCSK9の生体機能に関し,関連疾患や分子メカニズムの全容が明らかになりつつある中で行われた。当該特許出願で開示されたPCSK-9抗体の発明は,PCSK9の生体機能の多くがすでに公知である中で,新たに特定した立体機能に基づくものであったと考えられる。上記PD-1抗体医薬特許出願が,新たな関連疾患および分子メカニズムに基づく抗体を開示したのに比べると,その差は歴然としている。

[桝田論文 42ページ右]
 本報で検討した機能的・作用効果クレームは,・・・,・・・これを文言通りに解釈すると,・・・,・・・ 同一の作用機序の抗体医薬すべてを,権利範囲に含むことになる。 抗体の機能を追加し顕著な効果を奏する限定クレームにおいても,顕著な効果というのは,結局,医薬用途に足る作用効果のことであるので,事実上,同一の作用機序の抗体医薬はほぼすべてが含まれる。
 同一の作用機序の医薬品に関し,特許権者である一企業が市場を独占する状況は,これまでの医薬品産業の商慣行にはなかったことである。

[桝田論文 43ページ左]
・・・,真っ先に,抗体を「獲得」し,特許権を得た者だけが,新たな作用機序の抗体医薬を開発し,その市場を独占できるとすると,そうでない場合に比べて,医療の選択肢が狭まり,また医療の進歩が遅くなるという懸念である。これは,医薬品産業の発展を阻害するものであり,特許法の法目的(1条)にそぐわない。

[桝田論文 44ページ左]
・・・,アムジェンがPCSK9抗体医薬特許で開示した技術的思想は,先行研究の積み重ねの上に明らかになったPCSK9の立体機能の一部に基づくものに過ぎず,PCSK9のLDL受容体リサイクリング調整機能に作用する抗体医薬すべてを排除できる権利を享受できるほどのものであったかは疑問である。

桝田論文のこうした指摘はとても共感できる。 今回の事件を見て私が思い出してしまったのは、特許庁が公表した啓蒙動画で出てくる悪役の以下のセリフだ。

[Youtube 商標拳〜ビジネスを守る奥義〜 (JPO Channel)より]
「お前らが汗水流して生み出したものが、後発の俺たちにあっさり乗っ取られちまう。滑稽だな!」

もちろん、本件特許権者は、実用に足るPCSK9中和抗体を初めて詳細かつ広範に公開することで、医薬品実用化に貢献したことは確かだろう。 しかしPCSK9中和抗体でLDLコレステロールを制御するという発明は、本件特許権者のみが生み出したものではない。 Lagace et al. を初めとする先人たちの研究の積み重ねにより生み出されたものだ。 ところが今、そうしたPCSK9中和抗体を成分とする医薬品のすべてが、スイートスポットに結合する参照抗体と「競合する抗体」という特許が取得されることにより、事実上、本件特許権者にあっさりと独占されようとしているように見える。 そして、そうした事態を引き起こすことに決定的な役割を果たしたのが、「参照抗体が容易想到ではない限り、それに競合する抗体も容易想到ではない」(クレームの発明特定事項が容易想到ではない限り、クレームの発明は容易想到ではない)という誤った論理で判断を下した特許庁や知財高裁であるように見えるのだ。 そうだとすれば、まさに滑稽というべきではないか。

*   *   *

9.ネット上の参考記事

2019/01/16 「医薬系"特許的"判例」ブログ
2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225
https://www.tokkyoteki.com/2019/01/20181227-v-2910225.html

2019/11/24「医薬系"特許的"判例」ブログ
2019.10.30 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成31年(ネ)10014
https://www.tokkyoteki.com/2019/11/20191030-v-3110014.html

上に挙げた「医薬系"特許的"判例」ブログのFubuki先生も、本件判決には懸念を示していて心強い(下に引用)。 また、本件に関するFubuki先生のツイートを引用する形で、判決に疑問を呈するツイートをされている方もいる。

[医薬系"特許的"判例 ブログ(2019/01/16投稿)より]
この請求項が明確性、サポート要件、実施可能要件を果たして満たしているといえるのかどうか、極めて議論のある判決ではないか。今後このようなリーチスルー特許が多数乱立することは容易に想像できる。今回の裁判所の判断は産業の発達に寄与することを目的とする特許法の趣旨に沿うものだったといえるのだろうか疑問が残る。

*   *   *

10.神戸大 前田先生の論文について

・前田健, 神戸法学雑誌70巻1号, 63-116 (2020)
 http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003kernel_81012050

この論文も本件判決には批判的だ。 但しこの論文の主な話題は、本件が「サポート要件」を満たさないという話で、前田論文において、本件判決に対する評釈が始まる81ページから104ページまでの24ページにわたって「サポート要件」について論じられている。 「進歩性」について論じられているのは107〜115ページの約8ページで、ページ数的にはサポート要件に関する議論の三分の一程度に過ぎない。 したがって前田先生の中では、本件が提起する主な問題は「サポート要件」だと認識されているのだろう。

なお「医薬系"特許的"判例」ブログのFubuki先生も、上に引用したとおり本件についてサポート要件等の記載要件の問題を懸念されており、10月12日の投稿で取り上げた田村先生の論文(田村善之, 知的財産法政策学研究 Vol.56(2020) 163-237)でもサポート要件で本件の特許性を否定することが論じられており、その後で公開された劉先生の論文(劉一帆, 知的財産法政策学研究 Vol.57 (2020) 155-187)でも、本件はサポート要件を満たさない旨が論じられている(186-187ページ)。

確かに、本件を記載要件違反に問うことはできると思うが、私は前にも書いたとおり(2019年02月19日の投稿を参照)、サポート要件や実施可能要件などの記載要件というのは “眉唾” な要件だという気がしているから、進歩性を否定できるのなら、進歩性を使うに越したことはないと思う。

例えば本件の場合、PCSK9というタンパク質は出願前に知られていたわけだが、仮にPCSK9が出願前にはまったく知られておらず、PCSK9を初めて同定して特許出願した場合、「PCSK9タンパク質」という特許が取れるのみならず、「PCSK9タンパク質に対する抗体」という特許も取れることに異論はないだろう。 特許が取れる以上、「PCSK9タンパク質に対する抗体」という発明は、当然、実施可能要件やサポート要件などの記載要件は満たされるとみなされるわけだ。 そしてひとたび「PCSK9タンパク質に対する抗体」という特許が付与されたなら、PCSK9タンパク質に特異的に結合するあらゆる抗体はその特許の権利範囲に含まれるのであって、当然、その範囲には「PCSK9中和抗体」も包含されるし、本件の参照抗体(具体的には、21B12抗体や31H4抗体)や、それらの抗体に「競合するPCSK9中和抗体」も包含されるわけだ。 つまり、PCSK9タンパク質が初めて同定されたというだけで、PCSK9中和抗体を含むあらゆるPCSK9抗体は実施可能要件やサポート要件が満たされると判断されるのに、PCSK9が公知になって随分経ってから出願された本件において、何を今さら実施可能要件やサポート要件が問題になるというのだろうか?(笑)

もちろん、これは半分冗談で言っているのではあるが、そういうことを考えれば、実施可能要件やサポート要件というのが、いかに「おかしな要件」であるかということが分かるだろう。 これについては、Sotoku 8号(「10.節」32ページ以降)でも書いたが、要するに、特許発明の核心部分に大きく依拠しているとみなせるのか(特許発明の核心部分を利用しているとみなせるのか)ということが実施可能要件やサポート要件の充足性の判断の決め手なのであって、出願時点では実施できないような態様であっても、その態様は特許発明の核心部分を大きく利用することになるだろうとみなせるのなら実施可能要件やサポート要件は充足するものと扱われうるのだし、みなせないのなら、実施可能要件やサポート要件という要件を “便宜的” に使って特許性を否定しているというのが、今の特許実務(の深層心理)なのだと思う。

なお、そういう考え方に基づけば、本件の特許性を実施可能要件やサポート要件に基づいて否定することは十分可能であっただろう。 本件特許のクレームは、本件参照抗体と競合するあらゆるPCSK9中和抗体を包含するものだが、いくら明細書の実施例に多数の中和抗体が記載されているとしても、クレームの範囲に包含される中和抗体のすべてを取得することは、現実には、およそ不可能か著しく困難であろう。 それは、クレームの範囲に包含されるサノフィの中和抗体やそれと近い抗体が、本件明細書には開示されていないことからも支持されるだろう。 したがって、本件クレームは、本来は記載要件を満たさないのだ。 しかしそうであっても、クレームの範囲に包含されるあらゆる抗体について、「本件発明に大きく依拠しなければ取得できないだろう」(すなわち、本件参照抗体を利用しなければ取得できないだろう)とみなせるのなら、実施可能要件やサポート要件は充足するものとして扱ってもさしつかえないかも知れない。 しかしそうとはみなせないのなら、クレームの範囲に包含される中和抗体のすべてを取得することは上述のとおりおよそ不可能か著しく困難である以上、実施可能要件やサポート要件を発動して本件を拒絶すべきだということになる。 そして本件の場合、クレームの範囲に包含される抗体は、「本件発明に大きく依拠しなければ取得できないだろう」(すなわち、本件参照抗体を利用しなければ取得できないだろう)とみなせるのかと言えば、本稿で延々と説明したとおり、みなせないであろう。 したがって、本件は記載要件を満たさないものとして、拒絶されるべきものだというのが私の考えだ。

以上のとおり、本稿では本件の進歩性について長々と説明したものの、たとえ本件クレームの抗体を取得することは本件出願前には容易ではなかった(すなわち本件発明には進歩性がある)と判断されるとしても、なお本件を記載要件違反に問うことは可能だと考えている。

*   *   *

さて、記載要件の話はそれくらいにして、進歩性について前田論文が記載していることについていえば、前田論文の趣旨は、今回の私の投稿と基本的に同じだと思う。

しかし書き方が今一つ気に入らないのだ。(前田先生ごめんなさい。)

前田論文は、「進歩性判断においては様々な論点があり得るが、本稿で問題としたいのは、創作の技術的困難性が問われているのは、請求項において特定されている発明思想なのか、あるいはそれを構成する個々の具体的技術なのかという論点である」と論じ、前者(すなわち「発明思想」の困難性を問う考え方)に「構成説 特定事項説」という名前を付け、後者(すなわち「個々の具体的技術)の困難性を問う考え方)に「具体物説」という名前を付けている(109ページ)(←なお前者の説は、春に公開された前田論文の暫定稿では「構成説」というよろしくない名前だったが、秋に公開された最終稿では「特定事項説」というましな名前に修正された)。 しかし、そういう論法からして不満を感じてしまう。

なぜなら、「発明とは何ですか?」と訊かれれば、日本人であれば皆、「技術的思想の創作です」(特許法2条)と答えるに決まっているのだから、「発明の容易想到性とは何を判断するのですか?」と問われれば、「技術的思想の創作の容易想到性を判断するのです」と答えるのが自然だし、それを否定することはできないだろう。 それなのに前田論文は、否定したい方の考え方をわざわざ「発明思想」の困難性を問う考え方だと論じている。 これでは、こっちの説の方が正しいように見えてしまうではないか(笑)。

私は、この問題にいちいち「〇〇説」や「△△説」という名前を付けて、どちらが正しいかについて対立があるかのように論じる必要はないと思う。 上述のとおり本件において知財高裁は、クレーム中に記載されている発明特定事項に過ぎない「参照抗体」が容易想到ではないことをもって、「・・・から,・・・」(平成29(行ケ)10225および平成29(行ケ)10226)、「したがって,・・・」(平成31年(ネ)10014)のようにクレームの発明は容易想到ではないと結論づけているのであり、誤りであることは明らかだ。 このことは私や前田先生だけでなく、上記の深澤先生らの論文(パテント 2020 Vol.73 No.2, 146-150)でも指摘されている。 さらに言えば、特許権者でさえそこに異論はないのではないか? そのことは上に引用した中島論文の52ページ左に、当事者同士は「PCSK9との結合に関して参照抗体と競合する抗体(・・・)が想到容易か否かを争ったのに対し,本件各判決では,参照抗体自体の容易想到性について判断しており,・・・」と記載されていることからも分かるだろう。 こんなものは「説」に格上げするまでもない。 少なくとも、「思想 vs. 具体物」という対立構造で論じるのは自虐的すぎる。

(と思いつつ、最近、加藤志麻子先生の論稿(『ビジネスローの新しい流れ 片山英二先生古稀記念論文集』, 青林書院, 2020, 121-142)(本事件とは無関係)を読んでいたら、「・・・,一般的な物の発明に関しては,・・・,技術思想自体が既に存在したか否かという観点からではなく,本願の特許請求の範囲に含まれるが既に世の中に提供されていたかどうかをもって新規性の判断を行っている。 」(123ページ)というくだりがあって、「思想 vs. 具体物」という対立構造のネーミングが前田先生と同じだと思ってしまった。)

それはそれとして、いずれにしろ、「進歩性」に関して前田論文が言わんとしていることは私と同じであり、また、深澤先生らの論文でも指摘されているところだ。 この点において特許庁審判部や知財高裁は誤った論理に基づいて結論を導いたのであり、それが見過ごされたまま本件は終結したと捉えることができるだろう。


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2020年12月09日

最判の拘束力は学問に及ぶか?


田中汞介先生のブログ(『特許法の八衢』)が12月6日の投稿で「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」事件の最判(平成30年(行ヒ)69)について取り上げているので私も何か書こう・・・。

一般論を判示するこの種の判決文を読んで思うのは、「判決文の内容をどれだけ真に受けなければならないのか」ということ。 裁判官は、判決内容について、後で解説したりは通常しないし、「判決文で是々と書いたのは、是々の意味です」とか、「あの説示は間違いでした」とか、そういうことは通常言わない。 質問はできないし、議論もできない。 つまり、判決しっぱなしで、「後は知らん」という態度なわけだ。 調査官解説が出ることもあるが、判決を行った裁判官が書いたものではないし、解釈論の一つに過ぎない。

例えば、PBPクレームの最判(平成24年(受)1204)が出された際にも、判決を真に受けたら大変だということで実務界では混乱が起きた。 その後、「一見PBPクレームのように見えるクレームでも、許容できるものは最判の射程外だ」というような理論(設樂隆一先生の「表見PBPクレーム」論など)が実務界・裁判所において生み出されることで、最判の射程は制限的に解釈され、なんとか事なきを得たわけだ。 判決直後の混乱期に知的財産分科会の会長を務められていた大渕哲也先生は、こういう事態を「災害対応」になぞらえて「ダメージコントロール」と発言されている(特許制度小委員会第6回審査基準専門委員会WG議事録の28ページ参照)。 当時はそんな感じだった。

ところが、いざ公式発言となると、皆、「最判はすばらしい判決をした」という態度をとる。 特に裁判官は。 例えば最近公開された中島基至裁判官の論稿(「PBP最高裁判決後の裁判例の展開」,in ビジネスローの新しい流れ 片山英二先生古稀記念論文集,青林書院 2020,437-445)を読んでいても、設樂先生の「表見PBPクレーム」論は妥当だと論じつつ、「PBP最高裁判決は,・・・,我が国の特許法上の難問であるPBPクレームの解釈手法を理論的に大きく進化させたものといえる。」(438ページ)と最判を大いに持ち上げている。

中島論稿は、PBP最判後の混乱と収束を解説する優れた論稿だとは思うけれど、なんというか・・・、少し白々しいというか・・・(笑)。

「物同一説」をPBP最判が判示したことについて中島論稿は、上記のとおり理論的に大きな “進化” だと評価している。 しかし、そもそも理論の正否を決めるのは最高裁の役目ではない。 Sotoku 通号6号 (24頁以降)および2017年4月11日の投稿でも書いた通り私は、PBPクレームの理論的に正しい解釈は、設樂先生が昔提唱していた「製法特定物説」であって、「物同一説」ではないと思う。 ところが「製法特定物説」を提唱していた設樂先生ご自身は、最判後、最判に沿った論稿(LT 73号,2016)を書かれているものの、「製法特定物説」は表だって主張されていないように思う。

こういう状況を見るにつけ、最判の拘束力が言論にまで及んでいるのではないかと心配になってしまう。

もちろん、最判の解釈は実務的には重要だろうし、また、そうした解釈は学問でもありうるから、最判を「前提」として、それをどう解釈するのか、という議論は当然あってよいとは思う。 しかし、最判が常に理論的に正しいことなどありえない。 もし、そういう種々の最判を所与の「前提」として特許制度を論じ続ければ、理論はぐちゃぐちゃなものとなり、むしろ理論的には “退化” してしまうことになるだろう。

学問はなにものにも拘束されないのだ。 最判に対して自由で独立した姿勢は常に持ち続けるべきものだと思う。「アレルギー性眼疾患」事件の最判における発明の効果に関する判示についても、アカデミアは、ネットのブログ等で議論されているように自由に扱ってよいのだと思う。

以上、ポエムでした。^^


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