2013年03月29日

審査基準改訂案検証: 請求項1に新規性がない場合、あらゆる補正は単一性要件を満たさないのか?


発明の単一性の審査基準の中でもひときわ取り扱いが厳しいのが、請求項 1 に新規性がなかった場合の審査だが、これに関して現在の審査基準に記載されている以下の考え方だ。

4.2 特許請求の範囲の最初に記載された発明が特別な技術的特徴を有しない場合の審査対象

特許請求の範囲の最初に記載された発明が特別な技術的特徴を有しない場合には、当該発明と他の発明との間で、同一の又は対応する特別な技術的特徴を見出すことができないため、発明の単一性の要件を満たすとはいえない。しかしながら、第37条が出願人等の便宜を図る趣旨の規定であることを考慮し、このような場合であっても、例外的に、以下の手順により審査対象となる発明については、発明の単一性の要件を問わないこととする。審査対象とならない発明がある場合には、発明の単一性の要件違反の拒絶理由を通知する。
  ( 現在の審査基準 第 I 部第 2 章 4.2 )

このように審査基準は、請求項1に新規性がない場合、他の発明は、発明の単一性を満たすとはいえないとしている。 これはすなわち、請求項1に新規性がない場合、請求項1をどのように補正しても、発明の単一性の要件を満たすことは基本的に不可能であることを意味している。 

これは特許法第 17 条の 2 第 4 項 の法解釈に基づくものだが、これについて当時の特許庁審査官は次のように解説している。

 補正前の請求項1に係る発明が特別な技術的特徴を有しない場合 ・・・。・・・ 、補正後の特許請求の範囲にいかなる発明を記載したとしても、もともと補正前の請求項1に係る発明が特別な技術的特徴を有しないのであるから、理論的には、補正前に新規性・進歩性等の特許要件について審査が行われたすべての発明と補正後のすべての発明とが同一の又は対応する特別な技術的特徴を有することはあり得ない。したがって、この場合に、第17条の2第4項の規定を形式的にあてはめてしまうと、そもそも補正前の請求項1が特別な技術的特徴を有しない場合には、その後の補正の途を閉ざしてしまうことになってしまうため、例外的な運用を定める必要がある
  tokugikon 2007.8.21. no.246, 87-110

すなわち、請求項1に新規性がない場合に一定の条件を満たす補正が認められているのは、単なる“例外的” な運用にすぎない。

そして今回の改訂審査基準案では、対応する箇所の記載は以下のようになっている。

3.1.1 基本的な考え方

 発明の単一性の要件を満たすかどうかは、特許請求の範囲の最初に記載された発明(注)と他の発明との間で判断する。特許請求の範囲の最初に記載された発明が特別な技術的特徴を有する場合、当該特別な技術的特徴と同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する発明は、発明の単一性の要件を満たす。一方、特許請求の範囲の最初に記載された発明が特別な技術的特徴を有しない場合、その他の全ての発明は、発明の単一性の要件を満たすとはいえない
 ただし、第37条が出願人等の便宜を図る趣旨の規定であることに鑑み、上記の発明の単一性の要件を満たす発明のほか、一定の要件を満たす発明については、審査対象とする。審査対象の決定は、後述する「3.1.2具体的な手順」に従う。
  ( 審査基準改訂案 第 I 部第 2 章 3.1.1 )

現在の審査基準の文章と比較すると、“ 例外的に ” という言葉が削除されているが、「 その他の全ての発明は、発明の単一性の要件を満たすとはいえない 」 と記載していることからして、基本的な姿勢は変わっていないことが分かる。

請求項1に新規性がない場合は、単一性を満たすように補正することは不可能だという立場をとりつつ、一定の条件のもとで例外的に補正を認める。 このような立場を取り続ける限り、どのように厳しく補正を制限する審査基準を作成しようが、補正を認めること自体、特許庁が出願人の便宜のために やってあげている ことなのだから、厳しすぎることの違法性を問われる筋合いはないのだ。 

しかし 「 請求項1に新規性がない場合は全ての他の発明は単一性の要件を満たすとはいえない 」 という考え方は一般に受け入れられているのだろうか?


「 ・・・ 新規性を有さない請求項に係る発明が審査された場合に,一律にその後の補正が第 17 条の 2 第 4 項 ( シフト補正 ) 違反であるとの解釈は,文理解釈としては可能であるとしても,法解釈としてはその結論において妥当性に欠けるものであると考えられる。」
パテント 2009 vol. 62, 4-10

「 そもそも一方の発明に,比較対象とすべき 「 特別な技術的特徴 」 がないにも拘わらず,必然的に単一性欠如とすることは妥当か,という素朴な疑問が生じる。 」
「 一の発明に 「 特別な技術的特徴 」 がないことを理由に,他の発明と比べるまでもなく必然的に単一性欠如とする考え方は,手続的要件である単一性の要件を,実体的要件として扱うものであり,法的に誤ってはいないだろうか。 」
パテント 2012 vol. 65, 24-30


このように、特許庁がとっている法解釈には、複数の異論が唱えられている。

また、平成 23 年度の特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書の 「 発明の特別な技術的特徴を変更する補正及び発明の単一性の要件に関する調査研究 」 でも、以下のような意見が寄せられたことが記載されている。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/zaisanken.htm#5002


「 クレーム1に新規性がないと、これに従属するクレーム2以降との間で単一性がない、とする運用自体がおかしい。」( 177, 185 ページ )

「 そもそもクレーム1に技術的特徴がない場合には、発明の単一性の要件を満たさないとしている点が問題だと思う。 」 ( 185 ページ )

「 クレーム1に新規性がないときに、他クレームとの間で単一性なしとする解釈を変更すべきである。 」 ( 217 ページ )

「 法37条には規定されていない、審査基準中の 「 特許請求の範囲の最初に記載された発明が特別の技術的を有しない場合には ・・・ 発明の単一性を満たすとはいえない。 」 との解釈とやめ ・・・ 。」 ( 227 ページ )

  「 発明の特別な技術的特徴を変更する補正及び発明の単一性の要件に関する調査研究 」より

このように、 「 請求項1に新規性がない場合、あらゆる他の発明は、発明の単一性を満たすとはいえない 」 という考え方を妥当ではないとする意見は多い。 

今回の改訂では、上述の通り 「 例外的に 」 という言葉は審査基準から削除されたものの、実質的には、特許庁の考え方は変わっていないようだ。 そうすると、この場合に補正ができるのは、引き続き特許庁の出願人に対する便宜的な措置であり続けることになる。

いつの日か特許庁がこの法解釈を変え、「 請求項1に新規性がない場合、あらゆる他の発明は、発明の単一性を満たすとはいえない 」 という記載そのものを審査基準から削除する日は来るだろうか。。

請求項 1 に新規性がない場合の補正が、特許庁の慈悲に頼らなくてもできる日が来ることを祈ろう。 ^ ^


posted by Ichizo Sotoku at 00:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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