2013年07月12日

発明の単一性の審査基準の “ 事例16 ” 〜 “ 事例18 ” は欧州特許庁(EPO)の審査運用と国際調和しているのか?

 

 

 6月26日に 「 発明の単一性 」 に関する改訂審査基準が発表され、7月1日から適用が開始された。 さて、タイトルの 「 事例16〜18 」 とは、改訂審査基準の第I部第2章 に掲載されている事例であって、請求項がだんだん狭くなるように記載されている事例だ。 すなわち、請求項 1 が最も広く、請求項 2 は請求項 1 の従属請求項、請求項 3 は請求項 2 の従属請求項・・・、といった具合だ。
 

 この場合、次の請求項は、1つ前の請求項のすべての発明特定事項を含む同一カテゴリーの請求項に該当するから、仮に請求項1に新規性がなくても、改訂審査基準の第I部第2章 3.1.2.1 (3) の規定に基づいて、次々にSTFのサーチが行われる。
 

 ところが、改訂審査基準の第I部第2章 3.1.2.1 (3) の “ (注2) ” によれば、次の請求項が、直前の請求項と技術的関連性および課題の関連性が低い場合は、それ以降の請求項は審査しなくてよいと決められてしまった。
 

改訂審査基準の第I部第2章 3.1.2.1 (3) の “ (注2) ”
(注2) 次に特別な技術的特徴の有無を判断しようとする請求項に係る発明が、直前に特別な技術的特徴の有無を判断した請求項に係る発明に技術的関連性の低い技術的特徴を追加したものであり、かつ当該技術的特徴から把握される、発明が解決しようとする具体的な課題も関連性の低いものである場合には、さらに特別な技術的特徴の有無を判断することを要しない。

 
 しかし 「 関連性が低い 」 の判断基準は曖昧だ。 事例16〜18 を見ると、新規性がない請求項や、それに周知技術を付加しただけの請求項 ( すなわち特許にならない請求項 ) だけが審査対象となり、それ以外の請求項は 「 関連性が低い 」 とされて、審査対象となっていない。
 

 これはちとおかしいのではないかと思い、そのことについては、パブリックコメントで これこれ のようにコメントした。 (特許庁のサイトに公開されている「審査基準改訂案に対する意見募集の結果について」の No. 21、52 のコメントに該当。 )
 

 なお、パブリックコメントにおいて、同じ問題に関して他の方(No. 22)から、EPO の審査運用と国際調和していないという観点でコメントが寄せられているので、これについて考えてみる。
 

 No. 22番の人は、次のようにコメントしている。
  

パブリックコメントの No. 22
 「事例16」、「事例17」、「事例18」につきましては、EPO審決「W6/98」と不調和する結果となっている。国際調和を進める中で、EPO審決「W6/98」の考え方を採用しなかった理由は何か。
 「事例16」、「事例17」、「事例18」については、いずれも、上位請求項の新規性が文献1によって否定される事例であるが、それら上位請求項の記載があったからと言って下位請求項の審査負担が増すとは思えず、審査請求時にそれら上位請求項の記載が無かった場合と比較してデメリットを与える(下位請求項の審査のために分割出願を強いる)政策上の意義は理解できない。
 欧州の出願人/代理人にも「なるほど一理ある」と思って頂けるような理由付けが特段無いのであれば、EPO審決「W6/98」との国際調和を検討してほしい。
 
 

 これに対する特許庁の回答は以下だ。
 

 改訂審査基準では、特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明は原則として審査対象となるため(3.1.2.2(1))、特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明のうち最初の一系列の発明も、原則として、審査対象となります。この点において、改訂審査基準とEPOの運用は調和しているものと考えます
 ただし、改訂審査基準においては、課題の関連性が低く、かつ技術的関連性も低い発明は、発明の技術上の意義が大きく異なることとなるため、特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明のうち最初の一系列の発明であっても、例外的に審査対象から除外することとしており、事例16〜18は、そのような例を示したものです。
 
 

 上記の通り特許庁は、「 特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明のうち最初の一系列の発明も、原則として、審査対象となります。この点において、改訂審査基準とEPOの運用は調和しているものと考えます。 」 と回答している。 しかし、No. 22番の人は、事例16〜18で審査対象とされないという部分がEPOの審査運用と調和していないと指摘しているのであって、「 特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明のうち最初の一系列の発明が原則として審査対象となる 」 という当たり前の部分が調和していないと言っているのではない。 特許庁はわざとすっとぼけてる(?)。 
 

 ところで、パブリックコメントの No. 18 で質問したように、日本国特許庁は 「 請求項1に新規性がない場合、あらゆる補正は単一性要件を満たさない 」 という特異な立場を取っている。 これが批判されていることは 「 請求項1に新規性がない場合、あらゆる補正は単一性要件を満たさないのか? 」 でも書いた。
 

 PCT国際調査に関するPCT規則 33.3 (b) には、国際調査は 「 補正後に請求項に含まれると合理的に予測される事項の全体について行う。」 (In so far as possible and reasonable, the international search shall cover the entire subject matter to which the claims are directed or to which they might reasonably be expected to be directed after they have been amended.) ことが規定されており、EPO の審査ガイドライン (Part B, Chapter III, 3.5) にもほぼ同一の文章の規定がある。 これに従えば、たとえ請求項1に新規性がないとしても、補正後に請求項に含まれると合理的に予測される事項については、調査はされるべきだとも考えられる。 例えば、請求項1に新規性がない場合、請求項1の従属請求項は、当然、補正後に請求項1に含まれると合理的に予測される。 また、たとえ請求項に記載されていなくても、明細書の記載から発明の本質または中心だと分かる事項については、補正後に請求項に含まれると合理的に予測されるはずだ。
 

 そして、パブリックコメントの No. 22番の人が挙げている EPO の審判部決定 W6/98 では、請求項 1 に新規性がない場合の従属請求項の単一性の問題に関して、以下のように記載されている。
 

 EPO W0006/98 ( 適当訳 )
 独立クレームの事項に新規性がないからといって、その独立クレームに直接または間接的に従属している従属クレームが事後的に単一性がなくなると自動的に導かれるものではない。 これは2つの場合を考えれば直ちに明らかとなる:
 

 もし、付随するすべての従属クレームが、それぞれの直前のクレームのみに従属している場合は、独立クレームの事項に新規性がなくても単一性違反の状況が事後的に生じることはない。なぜなら、単一性の評価において、新規性がある最初の従属クレームが独立クレームに置換されることになり、残りのクレームは、その新規性がある最初の従属クレームに従属することになるだろうからだ。(・・・)
 

 一方、従属クレームのそれぞれが、新規性のない独立クレームに従属している場合は、事後的に単一性がなくなるかも知れない。しかし、それは残りの従属クレームに間に発明的な結びつきが存在しない場合に限られるから、注意深く検討されなければならない。(・・・)
 
 

 上記の通りEPO は、まず 「 独立クレームの事項に新規性がないからといって、その独立クレームに直接または間接的に従属している従属クレームが事後的に単一性がなくなると自動的に導かれるものではない。 」 と言っている。 これは、 「 特許請求の範囲の最初に記載された発明が特別な技術的特徴を有しない場合、その他の全ての発明は、発明の単一性の要件を満たすとはいえない 」 ( 審査基準の第I部第2章3.1.1 ) という日本国特許庁の原則論とは好対照ではないか!
 

 また、EPO が挙げている2つのケースのうち、1番目のケース、すなわち、「 付随するすべての従属クレームが、それぞれの直前のクレームのみに従属している場合 」 とは、請求項2は請求項1の従属請求項、請求項3は請求項2の従属請求項、・・・、というように、請求項が直列的に狭くなっていく場合であり、まさに 「 事例16 〜 18 」 に相当する。 そしてこの場合、EPO は、「 独立クレームの事項に新規性がなくても単一性違反の状況が事後的に生じることはない 」 と断言しているのだ。 
  

(この問題については 「為山太郎, パテント 2010, 63 (6): 88-96」 も参照)
 

 この審判部の決定はだいぶ昔のものではあるが、昨年の審判部の決定 ( T 2334/11;2012年5月24日 ) でも、 

T 2334/11 ( 適当訳 )
・・・ 出願当初に開示されている特徴を挿入することにより請求項を限定、特定、または補完するだけ − 例えば明確性、新規性、または進歩性の欠如の拒絶理由を解消するために − であれば、通常、規則137(5) における単一性がなくなることはない。

とされており、たとえ元の請求項に新規性がなくても、その請求項を明細書の記載に基づいて限定したものとの間には単一性はあるという立場であることが明確だ。
 

 これらを考えれば、請求項1に新規性がない場合に理屈をつけてSTFサーチを打ち切る日本の審査制度が EPO とは異なっていることは明らかだ。 特に、「 事例16〜18 」 のように、請求項が直列的に狭くなっていくケースにおいて、特許性がありそうな請求項を審査対象から除外してしまう日本の審査運用は、EPO の運用との違いが明白だ。 また、日本の審査基準は、補正されることが合理的に予想される事項 ( というか事例16〜18では既に従属請求項として補正の方向性が一本道として示唆されている発明 ) であっても審査対象にしなくてよいと規定している点で、 PCT規則 33.3(b) に合致していない疑いがある。 
 

 それでもこの改訂審査基準は、国際調和していると言えるのだろうか? とにかく、審査官はぜひ改訂審査基準を遵守して、国際予備審査で審査対象とされているものを、国内段階でバンバン審査対象から外して、日本の審査制度の正当性をアピールして欲しいものだ(笑)。
 

 しかし実際にはそうはならず、第一国出願が日本国となる日本人だけが、不利益を被ることになるのかも知れない。。
 



posted by Ichizo Sotoku at 00:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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