2014年06月17日

製薬協の反発が目立った産業構造審議会のワーキンググループ第1回〜第5回 (特許権 存続期間 延長登録 の審査運用問題3)


 産業構造審議会の下部組織であるワーキンググループ (産業構造審議会の知的財産政策部会 特許制度小委員会 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキンググループ) では、最高裁判決平成21年(行ヒ)324〜平成21年(行ヒ)326(平成23年4月28日)の判決が出る2年半前から、特許権の存続期間の延長登録の審査運用の見直しが検討されてきた。 このワーキンググループは、2008年6月に知的財産戦略本部において決定された 「知的財産推進計画2008」 において、特許権の延長制度の見直しを行うことが盛り込まれたことに基づいて設立されたもので、平成20年10月30日から平成23年10月24日まで、計7回の会議が開かれた。 途中、上記の最高裁判決を待つために2年間のブランクがあったが、後半は急展開する。
 まず、その前半部分である第1回〜第5回をまとめた。

第1回(平成20年10月30日)
・ 延長制度の対象となる処分は、特許発明の実施に当該処分を受けることが必要であったと認められるものである。そのためには、当該処分に係る製品について最初の処分であることが要件となる。

・ 最初の処分かどうかは、現在、物(有効成分)と用途(効能・効果)の観点から判断され、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)等の剤型は考慮されていない

・ DDSのような画期的な剤型に特徴のある製剤の薬事法上の承認には、有効成分や効能が新規の新薬と同様に長期間を要するものもあるため、延長の対象とするか否か検討する。
 これはワーキンググループの第1回会議 の配布資料3に記載されている事項の一部だ。
 すなわち、有効成分と効能・効果しか検討しない従来の審査基準の問題点を修正し、画期的な製剤技術に対しては、DDSも含めて延長登録を認めて行くことを検討しようのが、このワーキンググループの目的の1つだったとみられる。

第2回(平成20年12月24日)

 DDSを延長対象に含めるために、特許庁は2つの改訂案を出してきた。そして、「案1」は、処分によって禁止が解除される範囲を、薬事法で承認された医薬品そのものに限定するという、ドラスティックな案 (結局は裁判所の判断に沿った案) で、「案2」はそれほどではないが、やはり範囲を現状よりも大幅に限定しようというものであった。
【案1】解除された範囲を処分単位(医薬品)とする
・ 延長制度の対象となる処分は、臨床試験の必要なものに限る。
・ 特許発明の実施の禁止が解除された範囲は、薬事法上の処分単位(製品)とする。

    ○ 特徴
    ・ 薬事法上のDDS製剤のように製剤技術のみに特徴のある処分を延長制度の対象とすることができる。
    ・ 延長制度の対象となる処分が増加(延長する機会が増加)する。
    ・ 薬事法上の処分の実態と特許法上の観点が一致する。

    ○ 留意点
    ・ 一処分と関係する特許権の数が増加する。
    ・ 一処分に基づいて延長される特許権の効力の範囲が縮小し、延長された特許権の権利主張の実効性が確保されない可能性あり(均等論の適用で解決できる可能性がある)。
    ・ 延長された特許権の効力の及ぶ範囲を分割することになり、欧米制度とさらに乖離する。
【案2】臨床試験の要らない医薬品も解除された範囲とする
・ 延長制度の対象となる処分は、臨床試験の必要なものに限る。
・ 特許発明の実施の禁止が解除された範囲を、「処分単位(製品の成分と効能・効果のみに着目)」と、その製品の成分と効能・効果を一部変更した時の申請に「臨床試験の不要なもの」まで拡げる

    ○ 特徴
    ・ 薬事法上のDDS製剤のように製剤技術のみに特徴のある処分を延長制度の対象とすることができる。
    ・ 延長制度の対象となる処分が増加(延長する機会が増加)する。
    ・ 一処分に基づいて延長される特許権の効力の範囲が縮小しても、延長された特許権の権利主張の実効性が確保できる。

    ○ 留意点
    ・ 一処分と関係する特許権の数が増加する。
    ・ 延長された特許権の効力の及ぶ範囲を分割することになり、欧米制度とさらに乖離する。

 改訂前の審査基準においては、「延長される特許権の効力」 は、有効成分と効果・効能が同じ医薬品全体に及ぶ。 それを考えれば、どちらの案も、「延長される特許権の効力」 は劇的に縮小する。 このことで、新薬メーカーの業界団体とみなされている日本製薬工業協会(製薬協)の不満は高まったと見られる。 私は、新薬メーカーが不利になるとは必ずしも言えないと思うのだが。。

 なお、案2では 「臨床試験」 の要否が判断基準とされていたが、その後の第3回会議で特許庁は、臨床試験が短期間で済む医薬品を除外するために 「薬事法上の“新医薬品”」であるかどうかを判断基準とするように修正した。
 第2回審議における各委員の感想は以下のようであった(議事録より)。

「・・・DDSのことを考えれば、第2案でもやむを得ないと考えております。」(ジェネリック製薬協所属)

「・・・案2は非常にいい案だと考えております。」(弁理士会所属)

「・・・案1より案2のほうが私はいいかなと思っております。」(大学教授)

「・・・案2について、現在の特許法枠組みから何らの問題はないと思います。」(大学院教授)

「・・・案2の方向でよろしいのではないかと思っております。」(法律事務所所属)

「・・・私も、第2案というのはかなり吟味された案じゃないかなと思っていますので・・・」(DDS関連企業所属)

「製薬協も検討はしますが・・・」(製薬協所属)

「皆様の御意見を伺いますと、大きな方向性としては資料4の案2の方向でよいのではないかというふうな結論だったと思います。」(座長(大学教授))

 「案2賛成」との発言が比較的多い中、製薬協は不満そうだ。


第3回(平成21年2月9日)

 前回の特許庁案の提示を受けて、第3回会議において製薬協は「存続期間延長制度改正案 医薬品産業全体の発展に寄与するために」と題する資料を提出した。そこには以下の事項が記載されている。

(製薬協が提出した資料)
製薬協の制度設計の方針

延長された物質特許の効力範囲が現行制度より縮小しないこと

物質特許の保護が削られる制度改正案には強く反対する

@ ・・・特許庁案2では、・・・、新規有効成分の開発(イノベーション)を促進するという従来の制度目的を達成できない

A 特許庁案2では、研究開発型企業の事業計画及び事業形態が崩壊し、長期に亘り業界に大混乱が起こる

B 特許庁案2では延長された物質特許の保護が欧米に比べて明らかに劣るため、製薬企業が、日本での開発に消極的となり、その結果、日本の患者が画期的新薬にアクセスできない事態を招くおそれがある

C 物質特許は医薬品産業にとって生命線であり、製剤特許を保護するために物質特許の効力範囲を削るのは、本末転倒である

 延長される特許権の効力の範囲が縮小することに対する製薬協の強い反発が感じられる。 製薬協は、独自の審査基準改訂案を3つも出してきた。 そして、「与えられた時間が10分ですので・・・」 と言いつつ説明するが、10分で説明するというのは至難の業だ。 いずれの案も、延長される特許権の効力の範囲を広いままとする案になっている。

 なお、製薬協が示した上記の資料に 「@ 新規有効成分の開発(イノベーション)を促進するという従来の制度目的を・・・」 と記載されているが、これについては異論がある。
 日本の延長登録の制度は、薬事法の承認手続等のために犠牲になった特許期間を回復することを目的とするものであって、新薬開発を促進することを目的としているのではない。 この点は、その後出ることになる最高裁判決(平成21年(行ヒ)326号;平成23年4月28日判決)の判示に関連して、同志社大学の井関涼子教授が次のように記載していることからも分かる。

 井関涼子, AIPPI Vol.56, No.9, pp.12-24, 2011, 17ページ左欄
本判決は,存続期間延長制度は,政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とすると判示している。この部分は,一見すると,異論のない当然の理解を述べたに過ぎないように思われるが,本判決はこの判示により特許庁の実務を否定し,特許庁実務の基礎をなしていた理論を否定したという意義を有している。なぜなら,特許庁は,上告受理申し立ての理由として,存続期間延長制度は,新薬開発のインセンティブが失われないように創設されたものであること・・(略)・・,と述べていたからである。本判決の要点は,このような特許庁の「存続期間延長制度は,新薬保護が目的であり,・・(略)・・」という考え方に対し,存続期間延長制度の趣旨は,「新薬保護」・・(略)・・には関係なく,政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間の回復であることを明確に示した点にある

 すなわち、最高裁がいずれ判示することになる通り、薬事法の処分のために犠牲になった特許期間を回復することが、この制度の趣旨なのであって、それを新薬開発を促進するために曲げて解釈し、本来認められるべき延長登録出願を拒絶することになれば、それこそが本末転倒なのだ。


第4回(平成21年3月24日)

 製薬協が、前回出してきた3つの案とは異なる、4つ目の案を提示してきた。製薬協がこの案について説明するために長時間が費やされる。

 製薬協が出してきた案に対する委員の反応は・・・、

議事録
 「議論がそれてきたような気もしないわけではありません。DDS製剤その他のいわゆる製剤技術が治療に当たって非常に有益な効果を生むということで、これが医療の進歩につながるので、これをきちんと保護していく必要があるし、特許期間も延長する必要があるということが議論の始まりだったと思います。そうしますと、きょうの製薬協さんのペーパーでは、DDS製剤等の重要性という議論がやや欠けているのではないかという感じがします。」(大学院教授)

 「私も非常に似た意見です。製薬協の御説明をいただいた中で、「最初の処分」なら延長可というのがひっかかってくるのは、先発メーカーに有利な発想であるなという思いが私はどうしてもぬぐえない。」(DDS関連企業所属)

 なんとなく、私はドラえもんの ジャイアン を思い出してしまった。 業界団体であるのだからある程度やむをえないとは思うが。。 結局、この製薬協の4つ目の案も、この回だけで消えてしまう。 しかし、特許庁が次に出してくる案は、製薬協も飲める案であったことから、製薬協の主張は結果的に功を奏したとも言える。


第5回(平成21年7月16日)

 前回の第4回会議から今回までの間に、特許権の存続期間の延長制度に関する審決取消訴訟である「放出制御組成物」事件他(特許庁長官 v. 武田薬品)について、知財高裁の判決(平成20年(行ケ)10458〜平成20年(行ケ)10460 平成21年5月29日)があり、特許庁はそれに対して上告した。

 そのことが報告され、最高裁判所の判断が出るまでワーキング・グループの審議は中断するということで、この回は終了した。

 ここから第6回会議までに2年以上ブランクがあくことになる。最高裁判決が出たのは平成23年4月28日であり、第6回会議が開催されたのは、その約4ヶ月後である平成23年8月19日である (つづく)。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック