2014年06月13日

最高裁が判示する 「延長された特許権の効力の及ぶ範囲」 とは? (特許権 存続期間 延長登録 の審査運用問題2)


 前回の投稿で、最高裁(平成21年(行ヒ)324号〜平成21年(行ヒ)326号)の判示は、「先行処分により実施ができるようになる範囲は、先行処分医薬品が本件特許発明の技術的範囲の外である限り、決して重なることがないほど狭い」 という前提を含みうることについて説明した。

 これは、特許法67条の3第1項第1号の判断基準を示したものだが、実は最高裁は、特許法68条の2の判断基準、すなわち 「延長された特許権の効力の及ぶ範囲」 についても重要な示唆を与えている。

その部分の最高裁の判示は以下の通り。

平成21年(行ヒ)326号  (強調は私が入れた)

 先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。

 ここで、「先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)」 とは、先行処分の対象となった先行医薬品には、その医薬品に対応する先行特許があったとして、その先行特許の特許権の存続期間が先行処分より延長されていた場合の効力の及ぶ範囲のことを言っていると思われる。

 これについては、例えば井関涼子同志社大教授が、最高裁のこの判示部分について、次のように解釈していることからも支持される。

井関涼子 AIPPI (2011) Vol. 56, No. 9 12-24 (強調は私が入れた)

 本判決が,先行処分により延長登録を受けた特許権の効力の範囲(特68条の2)は,先行処分を根拠として延長登録出願を拒絶できないという結論と関係がないと断言できるのも,先行医薬品が延長登録出願に係る特許発明の技術的範囲に属しない・・・(後略)・・・

 つまり最高裁の言う 「先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の・・・・」 とは、「本件特許が仮に先行処分より延長されうると仮定して、その延長される本件特許権の・・・」 という意味ではなく、「なんらかの先行特許が存在し、先行処分をもとに、その先行特許の特許権が延長されていたとして、その延長された先行特許権の・・・」 という意味なのだ。

 そして 「結論が左右されるものではない」 という判示は、先行処分により延長された特許権の効力の及ぶ範囲をどのように解したとしても、その範囲は、本件特許発明の技術的範囲に重なることはないから、結論は左右されないということを言っているものと思われる (もし重なるなら、結論が左右されないことは自明とは言えないから、こういう判示をするわけはない)。

 つまり最高裁は、「先行処分医薬品が本件特許発明の技術的範囲の外である限り、先行処分により延長登録を受けた先行特許の特許権の効力の範囲(特68条の2)は、本件特許発明の技術的範囲に決して重なることはない (ほど狭い)」と言っているのである。

 それはすなわち、特許権の効力の範囲(特68条の2)は、実質上、先行処分医薬品そのものに限られるということを前提としているとしか思えないではないか!

 このように最高裁の判示は、前回の投稿で示したように、特許法67条の3第1項第1号における 「処分により実施ができるようになる範囲」 が実質上、処分医薬品そのものに限られることを前提とするのみならず、特許法68条の2における 「延長される特許権の効力が及ぶ範囲」 についても、実質上、処分医薬品そのものに限られることをも前提とするものといえる。


最高裁効力範囲.png


 以上の通り、最高裁の判決は、特許法67条の3第1項第1号における 「処分により実施ができるようになる範囲」 や、特許法68条の2における 「延長される特許権の効力が及ぶ範囲」 に関して、極めて踏み込んだ判決だとも解しうるのだ。

 但し前回にも言った通り、一般には、最高裁判決は、先行医薬品が本件特許発明の技術的範囲のに位置する場合に限って判断を示したものであって、先行医薬品が本件特許発明の技術的範囲のにある場合は判断を示していないと理解されている。

 そして次回からは、産業構造審議会 知的財産政策部会 特許制度小委員会 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキンググループが、この最高裁判決を途中にはさみつつ、どのように審査基準の改訂を進めていったのかを見ていこうと思う。



posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック