2014年09月03日

立法当時に意図されていた “延長された特許権の効力範囲” (特許法68条の2) (特許権 存続期間 延長登録 の審査運用問題13 )


 大合議判決 (平成25(行ケ)10195平成25(行ケ)10198) (飯村敏明裁判長) で裁判所は、「本来,特許権侵害訴訟において判断されるべき論点であるが,念のため,以下のとおり検討を加える。」 と述べて、特許法68条の2 が規定する “延長された特許権の効力範囲” について見解を述べた。

 この裁判は、延長登録出願を認める範囲を規定している 「特許法67条の3第1項1号」 の解釈に関する裁判であって、延長された特許権の効力範囲を規定している 「特許法68条の2」 とは直接的な関係はないから、裁判所は必ずしも解釈を示す必要はなかった。 しかし、もし両者の範囲が異なれば、前々回の投稿(「複数回の延長をした場合、重複した部分の延長期間はどうなる?」)で投稿した通り、複数回延長した特許権の効力の範囲が互いに重なり合う可能性があり、その重なった部分の延長期間はどうなるのかという問題が生じてしまうから、「延長登録出願を認める範囲」 と 「延長された特許権の効力範囲」 がどういう関係にあるのかについて、全く言及しないで判決を下すというのも無責任だろう。

 そして大合議判決は、薬事法における医薬品に対する9つの審査事項 (名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項) のうち、医薬品の客観的な同一性を左右しない “名称” などの3つの事項を除外し、かつ、“分量” も除外して残った5つの事項 (すなわち、成分,用法,用量,効能,効果) が承認医薬品と同じものだけに、延長された特許権の効力が及ぶとの見解を示した。

 すなわち、延長された特許権の効力が及ぶのは、承認された医薬品と物理的に同じ物か、それと “分量” が違うものだけという判断が示されたのだ。

 先発医薬品をコピーしたような後発医薬品であれば、これだけ効力範囲が狭くても抑えることはできるだろうが・・・、これは狭すぎるだろう。 前回の投稿でも言ったとおり、例えばある医薬品に関し、1回につき1錠(10mg)で投与するという 「用量」 で承認された場合、1回につき1錠(15mg)の用量を投与するという後発医薬品に対しては権利の主張ができない可能性があるし、例えば有効成分が同じでも、医薬品に含まれる他の成分(例えば賦形剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、矯味剤、着香剤、乳化剤、懸濁化剤、溶解補助剤など)が違う後発医薬品にも権利の主張ができない可能性があるのだ。

 少なくとも、これが立法時の意図だったとは到底思えない。

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 延長された特許権の効力範囲として、立法時にはどのような範囲が意図されていたのだろうか?

 これについては、すでに平成18年(行ケ)10311平成20(行ケ)10458平成20(行ケ)10460 において特許庁が、立法当時の資料を提出して主張を行っている。
 その中でも注目されるのが、延長制度が法制化される2年間に東京医薬品工業協会および大阪医薬品協会が共同で作った 「特許期間回復問題: Q&A」 という346ページからなる資料だ。 この資料には、当時の医薬品業界が、医薬特許の延長制度のあるべき姿をどのように考えていたのかが詳細に記載されており、延長された特許権の効力範囲に関しても当然言及されている。 それが以下の部分だ。

「特許期間回復問題: Q&A」(東京医薬品工業協会, 大阪医薬品協会, 1985) 277-278ページ (強調は私が入れた)
「特許期間延長の効果は、特許権全体が延長されるのか、あるいは特許にクレームされた発明の一部に狭められて延長されるのかどうかによっても変わってこよう。 例えば、化学物質特許が数種の新規化学物質をクレームしていても、医薬品として市販されるのは、そのうち一つだけである。 もしも、特許権全体に特許期間の延長が認められるならば、特許権者が特許を受けた化学物質を他人が医薬以外の用途に用いている場合でも、その生産、使用、売買を排除することが可能となる。 ・・・。」
 ちなみに、この点に関する米国期間回復法案(H.R.6444)の該当条文は次の通りである。 「 ・・・ 当局の審査期間に付された物または方法であって、かつ、当該審査が要求される法令に準拠した使用の範囲に限定される」。
 これをわが国の厚生省の製造承認に引き直して考えれば,期間回復される特許のクレームの範囲は特許権全体ではなく,承認された製品に直接関係する部分,すなわち厚生省によって承認された特定の化合物及び用途に限定されるということになる。 この考え方が最も妥当な侵蝕に対する回復の姿となるように思われる。 つまり,製造承認の対象となった特定の化合物及び用途についてのみ権利者は特許発明の実施を志向し,その志向が申請準備及び承認取得により妨げられたのであるから,その期間の回復を認めるとするのが最も素直な考え方と思われるからである。 この考えをイメージ的に表現するならば特許期間の満了にあたって,その特許権の中から回復を認められた期間だけ承認対象の化合物と用途の発明部分がさらに突出してきてさらに存続するという形になる。
 ・・・。
 このように,期間回復された特許権の権利範囲の幅が政府承認の対象となった物と用途の両面から限定を受けるものとした場合,いわゆる先端的基本技術にかゝる特許について広いクレームが存在していても,後発者が長期間これの拘束を受けることは少なくなるものと考えられる。 何故ならその広いクレーム全般について政府規制による侵蝕を受けることは考えられず,政府に製造承認申請した特定の用途と物に限って特許期間回復がなされるからである。

 ここで改めて特許法68条の2を見ると、条文に示されている 「処分の対象となった物」 と 「用途」 に限定して特許権の効力を及ぼすという考え方は、上に引用した資料に記載されていることとほとんど同じだ。

 特許法68条の2
特許権の存続期間が延長された場合(・・・)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。

 そして 「特許期間回復問題: Q&A」 の中で使われている 「(承認申請した) 物」 という言葉は、「医薬品」 という意味で用いられているのではなく、「化学物質特許が数種の新規化学物質をクレームしていても、医薬品として市販されるのは、そのうち一つだけであ」り、その 「承認された特定の化合物」 という意味で用いられている。

 もしその特許が、薬効のある物質特許なのであれば、それはすなわち 「承認された特定の有効成分」 ということになる。

 そうすると、少なくとも当時の業界は、特許法68条の2 の 「処分の対象となった物」 とは、数種の化学物質をクレームしている中の 「処分の対象になった物」 (=有効成分) を意味していると理解していただろうし、特許庁もそう理解していたからこそ、立法当初からそのような審査運用を行ってきたと理解される。

 つまり、特許法68条の2 の 「処分の対象となった物」 とは、「処分の対象となった有効成分」 だと皆が理解する中で、この条文は誕生したのであり、特許庁がかつて主張していたことは正しかった。 そして特許庁は、現在の審査基準においても、特許法68条の2 の範囲を従来と同様に広く解釈する立場を維持しているが、これについても、どちらかと言えば立法当時の考えに沿っているのであって、少なくとも、延長された特許権の効力を異常に狭く解釈する大合議判決は、立法当時にみんなが考えていたであろう、この条文が意味する範囲からはかけ離れていると言うことになるだろう。

 ということで、意外にも、立法当時に意図されていた延長された特許権の効力範囲については、私は “特許庁支持派” になってしまった!(笑)

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posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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