2014年10月15日

「効力範囲が狭い」 ≠ 「実効性がない」 (特許権 存続期間 延長登録 の審査運用問題15)


 ここ数回の投稿で話題にしてきた通り、「延長された特許権の効力の範囲」 をどうするのか、それが特許権の存続期間の延長制度において核心となる問題だ。 薬事法の承認を受けた場合、その承認によって製造・販売ができるようになるのは、承認された医薬品だけ。 だからといって、延長された特許権の効力が、その承認された医薬品にしか及ばないのでは、後発医薬品を抑えることができないので、延長制度の意味がなくなってしまう。 それをなんとか避けようと、特許庁は苦心して、延長された特許権の効力の範囲は “広い” と主張してきたし、少なくとも平成20年までは、裁判所だって特許庁の主張に同調してきた。

 特許庁の主張を否定した直近の大合議判決(平成25(行ケ)10195平成25(行ケ)10198)でさえ、延長された特許権の効力の範囲を無理やり “広い” と解釈する態度は、完全には失われていない。 前回見たとおり、延長された特許権の効力について大合議判決は、

 (大合議判決より)
分量のみ特許権者が承認を得たものとは異なる医薬品の製造販売等をすることを許容することは,延長登録制度を設けた趣旨に反することになる

と述べて、分量だけを変えた医薬品にまで特許権の効力を “広げるべき” との判断を、条文の文言からは離れて示しているからだ。

 そして専門誌のここ数年の論説をざっと調べても、延長された特許権の効力範囲が狭いと制度の意味がなくなることを、専門家はみんな懸念している。

 (「効力範囲が狭い」 と 「実効性がない」 ことについてコメントしている論説)
井関涼子, 知財管理, 2010, Vol.60, No.6, pp. 933-975, 972ページ右欄
 製造承認を受けた特定の医薬品にしか延長された特許権の効力が及ばないとすれば,わずかに異なる製品が上市され独占権としての意味を失うから、・・・

三枝英二, 知財管理, 2010 Vol.60, No.1, pp.5-22, 17-18ページ
 ・・・、延長された特許権の効力の及ぶ範囲が狭くなりすぎ,特許権を延長したことによる実効性が実質的に失われてしまうケースが生ずる虞がある。

山田真紀, Law and Technology, No.53, 2011, pp.63-69, 69ページ左欄
・・・、効力の及ぶ範囲が、狭い範囲、すなわち、当該処分の対象となった医薬品の態様の範囲に限定されることとなり、延長登録制度の趣旨に反する結果となるとの批判もあり得よう

石埜正穂, パテント 2011, Vol.64, No.12, pp.59-71, 68ページ右欄
 ・・・,効力範囲を規定する要素として「有効成分以外の成分」等が単純加算されると,得られる延長登録特許権の効力範囲は紙のように薄いものになる。

前田健, AIPPI 2012, Vol.57, No.3, pp.154-169, 160ページ左欄
 製造承認の対象となった医薬品の品目そのものについての特許発明の実施にのみ効力が及ぶとする解釈は,結果として効力範囲は非常に狭く,わずかに異なる医薬品を販売する第三者を差し止めることはできない。そうすると専有の利益を回復させるという延長の趣旨が損なわれるという批判を免れないと考える。したがって,処分対象となった品目そのものよりはある程度広がりを持った範囲も効力範囲になると考えることが基本となる。

加藤浩, 知財ジャーナル, 2012, pp.37-48, 42ページ左欄
 特許権の効力の及ぶ範囲を過度に狭く解釈する場合には,特許権の存続期間が延長されている期間であっても,特許による保護が十分に実現されない可能性がある。

清水尚人, 知財管理 2014, Vol.64, No.1, 47-58, 53ページ右欄
 ・・・物質特許が延長された場合でも,その効力は,延長の基礎となった承認医薬品と成分違いや剤型違いの後発品には及ばないおそれがある。

 そして、みんなが行き着く先は、先発医薬品の承認により延長した特許権の効力の範囲は、似たような成分からなる後発医薬品を含むほど “広い” と解釈すべきだという結論なのだが ・ ・ ・ ・、それは本当に正しいのか?

 確かに現在の特許法では、そのように考えなければ延長制度の意味がなくなるのは認める。 しかし、そもそもの延長制度のあり方として、その考え方は妥当なのだろうか?

 前回の投稿でも言ったとおり、延長制度とは、医薬品を製造・販売するためには、薬事法の承認を受けなければならず、そのために実施できない期間が生じてしまうから、その間に過ぎてしまった特許存続期間を回復させるのが目的であるはずだ。 そして薬事法の承認というのは、ある医薬品を製造・販売するために受けるものであって、承認を受けている間、製造・販売できなかったのはその医薬品だけだし、薬事法の承認を受けることによって製造・販売できるようになるのも、その医薬品だけだ。 そうすると、ある医薬品について薬事法の承認を受けた場合、その間に製造・販売できなかったのはその医薬品だけなのだから、延長する特許権も、その医薬品に対するものだけでよいはずではないか?

延長された特許権の効力は、承認医薬品そのものに及べば十分

 すべての医薬品には薬事法の承認が必要だ。 だから、すべての医薬品には、それぞれに 「処分の期間」 (すなわち 「薬事法の承認を受けるために実施できなかった期間」 ) が存在している。
 そうすると、すべての医薬品には、それぞれに 「実施できなかった期間」 があるはずなのだ。

 そうであるなら、特許権は、それぞれの医薬品の 「実施できなかった期間」 に基づいて延長され、延長されたそれぞれの特許権が、それぞれの医薬品のみに及ぶのが基本ではないか?

 ある医薬品の 「実施できなかった期間」 に基づいて延長された特許権が、実施できなかった期間が異なりうる他の医薬品に及ぶのは、むしろ変だ。

 つまり、後発医薬品であろうか、他社の競合する医薬品であろうが、その医薬品が特許権者の特許発明の範囲に含まれている限り、その医薬品の処分に基づいて、その医薬品に対する特許権は延長されればよいのであって、そうすれば、その延長された特許権はその医薬品に及ぶのだから、それで不足はないはずだ。

延長された特許権の効力は、承認医薬品そのものに及べば十分。 なぜなら、延長された特許権の効力が及ぶべきは、承認医薬品だけだから。

 それなのに、今の特許法は、延長された特許権の効力が、処分対象となった医薬品だけでなく、競合する医薬品にまで及ぶと解釈しなければ、意味がなくなってしまう法律になっている。 だから、特許庁も裁判所も専門家も、みんな無理やりそう解釈している。 しかしその解釈は、先発医薬品を開発することで、あたかも、後発医薬品までも潰せるような大きなハンマーが手に入ると解釈するようなものだ (下図の左側)。

 しかし延長制度は、薬事法の処分のあいだ実施できなかった医薬品発明に関して、失われた期間だけ、その医薬品に対する特許権の存続期間を回復しようというものであるはずで、大きなハンマーをあげようというものではないはずだ。
 むしろ、後発医薬品や競合医薬品が出てくれば、そのたびに、その医薬品と同じ大きさのハンマーが出現するというのが、制度のあるべき姿ではないか (下図の右側)。

先発モグラ後発モグラrs3-3.png

 後発医薬品が出てくるたびに、その上にハンマーが出現するということになっていれば、それだけで後発品メーカーに対して牽制になるし、実際に後発医薬品が出ればハンマーが出現するのだから、権利行使もできる。 だからこれで問題はないはずだ。

 しかし、この考え方を実現させるには、他人が開発した医薬品で自分の特許を延長することが必要だ。
 しかも、後発医薬品が、先発医薬品と成分が同じだから審査期間ほとんどかからなかった場合、その短い期間だけ特許権が延長されても、特許権者は少しもうれしくない。 また逆に、先発品メーカーの特許権が切れていないために、後発医薬品の承認が下りずに厚労省で長期間、棚上げ状態となっている場合、その期間まで含めて特許権が延長されてしまったら後発品メーカーは堪らない。 後発医薬品が 「実施できなかった」 期間 (すなわち特許権を延長する期間) として、後発医薬品の実際の審査期間ではなく、特許権者も後発品メーカーも納得できる合理的な期間を当てることも必要だ。

 そんなことを本当に実現できるのかは知らないが、もし 「侵食された期間を回復する」 という趣旨に忠実に制度を作り上げることができれば、期間延長制度はこれまでになく論理的なものになるはずだ。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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