2015年02月18日

大合議判決 (平成25(行ケ)10195〜平成25(行ケ)10198) の判断基準は先発者の独占を助長し得る (特許期間の延長要件2)


 前回の投稿では、特許庁や裁判所 (平成25年(行ケ)10326、および平成25年(行ケ)10327判決) の判断基準は、「本来認めるべき延長を拒絶してしまう」 ことが起こりうることについて書いた。 そしてその原因は、本来は 「先行承認を “誰が” 受けたのか」 を考慮しなくてはならないのに、現在の 特許法67条の3第1項第1号 には “誰が” という観点がないことだった。

 今回は、「本来拒絶すべき延長を認めてしまう」 場合が起こることを例示する。 これは現在の特許庁の審査基準でも、最高裁判決 (平成21年(行ヒ)326;平成23年4月28日) の判断基準でも、大合議判決 (平成25(行ケ)10195平成25(行ケ)10198;平成26年5月30日) の判断基準でも起こるが、今回は、不適切な延長がもっとも起こりやすい大合議判決について考える。 ちなみに大合議判決は、延長を認めるべきか否かの判断基準について以下の通り判示している。

 大合議判決 平成25(行ケ)10195 より引用(下線追加)
 以上によると,医薬品の成分を対象とする特許については,薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される 「特許発明の実施」 の範囲は,上記審査事項のうち 「名称」,「副作用その他の品質」 や 「有効性及び安全性に関する事項」 を除いた事項(成分,分量,用法,用量,効能,効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である

 すなわち大合議判決は、薬事法 (現・医薬品医療機器法) における先行医薬品の6つの審査事項 (成分,分量,用法,用量,効能,および効果) で特定される医薬品に本件医薬品が該当する場合は特許の延長を拒絶し、該当しない場合は特許の延長を認めるべきだとしている。 それを念頭におき、以下の事例を検討する。

仮想事例
 Aは 「化合物z」 の特許権を保有している。 化合物zは急速静注が可能な点滴薬の有効成分であり、効果が低かった従来薬は 100 mg の薬物を2時間かけて静注していたところ、化合物zは 5 mg で同等の効果を発揮できるため、5分程度の短い時間で静注できる点に特徴を有していた。 実際、医薬品の承認においても、用法・用量を 「〇〇症に対し、成人には有効成分zとして 5 mg を生理食塩液 100 mL に希釈し5分かけて点滴静脈内投与する。」 として承認され販売されていた。 Aは、その承認に基づいて特許を延長していた。

 延長された特許権が切れるまであと5年ほどとなり、このままでは後発医薬品が出現して収益が大きく低下する懸念が高まってきたころ、Aは新しい臨床試験を実施した。 実はこの医薬品の販売後、稀に一部の患者で腎機能障害が発生することが判明していた。 上述の通り本薬は5分で急速に静注するため、その際に血中の薬物濃度が高濃度となることが原因と考えたAは、5分で急速静注することをやめ、3倍の15分かけてゆっくり静注する用法に変更した臨床試験を実施したのだ。 そして15分静注により確かに腎機能障害の指標となるクレアチニンの上昇が一定の患者で抑えられることを確認したAは、特許が切れる前に点滴静注時間を 「5分」 から 「15分」 に変更する一部変更承認を申請した。 Aは薬事当局に対し、これまでの 「5分」 の医薬品は腎機能障害のリスクがあることを説明し、「15分」 への変更は安全性を高めるために重要であると訴えて、この一部変更承認は認められた。

 この承認をもとに、Aは特許期間を5年延長するために延長登録出願を行った。 Aが 「15分」 の医薬品の臨床試験や承認申請を行っていた間も、Aは 「5分」 の医薬品を販売していたし、点滴静注時間が 「5分」 から 「15分」 に変更されることで売上が大きく増えるものではないから、一部変更承認を得るまでの間 「15分」 の医薬品を販売できなかったことでAは特に不利益は受けなかった。 しかし 「15分」 の医薬品は 「5分」 の医薬品とは承認書に記載された 「用法」 が実質的に異なる (その違いにより安全性が高まったのだ!) から、上に示した大合議判決 (平成25年(行ケ) 10195〜10198) の判断基準によれば延長は認められるだろう。

 なお大合議判決が示した判断基準によれば、延長された特許権の効力は 「15分」 の医薬品にしか及ばないから、仮に 「5分」 の後発医薬品が販売されても、延長された特許権でそれを排除することはできない。 しかしこの一部変更承認の結果、これまでの 「5分」 の医薬品 (その医薬品は安全性が低い!) は、もはや後発医薬品として承認されることはないから、「5分」 の後発医薬品が出てくる心配はない。 従ってこの一部変更承認によって、事実上、化合物zを含むこの医薬品全体にわたってAの独占状態は延長されることになった。

 上記の事例を読んで、「5分」 と 「15分」 の違いは均等 (または実質的同一) の範囲内だと思うかも知れないが、「5分」 と 「15分」 の違いは、ときに特許性 (進歩性) さえもたらすような違いである (知財高裁平成26年(行ケ)10045 判決を参照; なお上記の仮想事例はこの裁判例の事案とは無関係です) から、均等とは言えない可能性が高い。 それにこれは仮想事例に過ぎないのだから、「15分」 は均等の範囲内だというのであれば、点滴時間を 「1時間」 に変更したことにしてもよい。
 
 新しい医薬品 (「15分」の医薬品) を製造・販売するためには、新たに承認を受けることが必要であったのは確かであり、その間、その医薬品を製造・販売することはできなかった、すなわち、その医薬品に関する特許権の存続期間が侵食されたのは確かだ。 しかしながら、その承認を受けるまで新しい医薬品が実施できなかったことで、Aは一体どれほどの不利益を負うというのだろうか?  新しい医薬品 (「15分」の医薬品) をすぐに販売できなかったことで、Aはほとんど不利益を負わない。 なぜなら古い医薬品 (「5分」の医薬品) を販売できていたからだ。 この状況で、新しい医薬品の承認に基づいて特許権を延長することを認めれば、Aはほとんど不利益を負わなかった期間に基づいて、その期間と同じだけ特許権を延長できることになってしまう。 これではAは、時間をかけてゆっくりと臨床試験を行うほど得をすることになる。 だからこの一部変更承認に要した期間に基づいて特許の延長を認めるべきではないのだ。

 なお私は、新しい医薬品 (「15分」の医薬品) を保護する特許権を 「延長するべきではない」 と言っているのではない。 「“新しい医薬品の承認に要した期間に基づいて” 延長するべきではない」 と言っているだけだ。 例えば大合議判決が示した判断基準によれば、古い医薬品の承認で延長した特許権の効力は新しい医薬品には及ばないから、一部変更承認により古い医薬品から新しい医薬品に販売が切り替わることで、古い医薬品の承認で延長した特許権は事実上意味がなくなる。 もしこの状況で、新しい医薬品を保護する特許権が全く延長できないのでは、新しい医薬品は出願から 20 年で特許が切れる (古い医薬品の特許権よりも早く特許権が切れる) という可哀そうなことになってしまう。 一部変更承認を受けようとする間、古い医薬品を販売し、その後、古い医薬品から新しい医薬品に販売が切り替わったことを考えれば、新しい医薬品に対する特許権は、古い医薬品の承認で延長されていた特許権が切れる時点まで延長させるのが妥当なのだろう。

 さて、古い医薬品を販売しつつ新しい医薬品の承認を受け、それにより古い医薬品は販売できなくなったという上記の仮想事例で書いた状況は、前回の投稿で取り上げたイレッサ®の一部変更承認の状況 (平成25年(行ケ)10326、および平成25年(行ケ)10327) と全く同じだ。 つまりイレッサの一部変更承認で延長を認めるべきではない理由は、上記のAの一部変更承認で延長を認めるべきではない理由と同じだ。 イレッサを販売していた特許権者は、一部変更承認を受けようとする間も、一部変更承認前の古いイレッサを販売していたのであり、一部変更承認後の新しいイレッサをすぐに販売できなかったことで被った不利益の大半は古いイレッサを販売して得た利益で補われていた。 もしこの状況で、新しいイレッサの承認に要した期間に基づいて特許権を延長することを認めれば、特許権者は大した不利益も受けなかった期間に基づいて特許を延長できることになってしまう。 だからイレッサの一部変更承認に基づいて特許の延長を認める必要はないのだ。 イレッサの特許延長に関する裁判 (平成25年(行ケ)10326、および平成25年(行ケ)10327) では、大合議判決を踏まえつつ、一部変更承認により販売ができるようになった医薬品が先行承認の範囲に包含されるから延長を認める必要がないと判示されているが、そのような考え方では、先行承認の範囲に含まれない医薬品はすべて延長が認められることになってしまい、上記の仮想事例のような不適切な延長を防ぐことができない。 イレッサの一部変更承認も、上記のAの一部変更承認も、どちらも延長を認める必要はないのだから、両方とも延長を認めない (すなわち一部変更承認に要した期間に基づいて特許権を延長するのではなく、最初の承認に要した期間に基づいて新しい医薬品に関する特許権を延長させる) という結論を導くことができるような判断基準が必要だと思う。

 この例の通り、医薬品の承認における審査事項 (成分,分量,用法,用量,効能,効果) に基づいて、医薬品の製造販売の禁止が解除されていたか否かを判断することで特許権の延長の可否を決定しようとする大合議判決 (平成25(行ケ)10195平成25(行ケ)10198) の判断基準では、承認に要した期間中、特許権者がさほど不利益を受けていない (古い医薬品を販売して利益を上げられる) 場合でも、そうではない場合と同じように、承認に要した期間と同じ長さだけ特許権を延長することが認められてしまう点で不合理だ。 もしこのような基準を採用すれば、先発医薬品メーカーは自らが販売している先発医薬品の一部変更医薬品の承認を受ける際に、意図的に臨床試験期間を長くすることで特許権の延長期間を長くすることが可能となるので、先発医薬品メーカーに有利な偏った延長制度となってしまうおそれがある。 というより、大合議判決の判断基準に従う限り、もし一部変更承認を短期間に受けてしまうと、一部変更後の医薬品の延長期間の方が先発医薬品の延長期間よりも短くなってしまいかねないのだから、一部変更承認を敢えて迅速に得ようとする特許権者はいないのではないか?

 なお、古い医薬品では使用できなかった適用疾患を追加するような一部変更承認であれば、その追加する部分に関しては、古い医薬品を販売することで不利益が補われていたとは言えないから、その部分に関して特許を延長することは認められてよいかも知れない (審査基準はすでにそうなっている (審査基準第VI部3.1.1(5)))。 また、仮にそのような一部変更承認があっても、後発者は追加された適用疾患を除外することにより、実質上、一部変更承認前の古い医薬品と同じものについて後発医薬品の承認を受けることができる (医政経発第0605001号、薬食審査発第0605014号)。 一部変更承認に要した期間に基づいて延長を認めるのは、基本的にはこのような適用疾患追加型、すなわち古い医薬品を販売することでは新しい医薬品を販売できない不利益を補うことができないような場合に限られるべきで、それ以外のタイプの一部変更承認は、一部変更承認に要した期間に基づいて延長を認めるべきではないと感じる。 その場合、新しい医薬品に関する特許権の延長期間は、上記のとおり、一部変更承認前の古い医薬品の承認で延長していた特許と同じだけ延長させるようにすればよいのだろう。 なお、「古い医薬品の承認で延長していた特許と同じだけ新しい医薬品に関する特許を延長する」 というのは、結局のところ、「古い医薬品の承認で延長した特許権の効力は、新しい医薬品にも及ぶ」 と考えることと同じだ。 すなわち、一部変更承認のかなりのケースでは、一部変更承認の期間に基づいて特許が延長されるのではなく、古い医薬品の承認で延長した特許権の効力がそのまま及ぶと考えることが妥当ということになるだろう。 これは大合議判決が示した判断基準よりも、特許庁が採用している考え方 (特に、有効成分と効能・効果が同じであれば延長を認めないという古い考え方) に近い。

 自分は昨年は特許権の存続期間の侵食と回復という原理的な観点でこの問題を考えていたから、医薬品の承認を受けばなんでもかんでも延長すればいいという感じで投稿してきたけれど、結局、それでは妥当な延長制度は作れないということだ・・・。 延長された特許権の効力範囲 (特許法68条の2の解釈) については昨年9月に、特許庁の古い考え方がなかなか妥当性が高いと思ったと投稿したけれど、それに続き延長の可否の判断基準 (特許法67条の3第1項1号) についても、特許庁の古い考え方はなかなか意味があったと思うに至ってしまった。 特許庁にカンパイ・・・。

 さて次は、最高裁判決の判断基準でも類似した不都合が起こることを示す。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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