2015年06月17日

日本ジェネリック製薬協会は「1特許1延長」で満足なのか?


 「特許権存続期間延長に関する知財高裁大合議判決について」 と題する文書が、2015年5月29日付で日本ジェネリック製薬協会 (JGA) のホームページ上で公開された。 文書の著者は 「日本ジェネリック製薬協会 知的財産研究委員会」 となっており、知財高裁大合議判決 (平成25年(行ケ)第10195〜10198号、アバスチン事件) が現在最高裁で審理中だと指摘した上で、「同事件の帰趨はジェネリック医薬品業界に看過できない影響を及ぼす恐れがあることから、以下に当委員会の意見を申し述べたい。」 と記載され、それに続いて意見が記載されている。

 そしてその内容は、これまた、大合議判決批判なのだ。 特許庁 (2015年04月10日の投稿参照) は現在の審査基準を作成した本人だから、その審査基準を否定した大合議判決を批判するのだろうし、先発企業 (2015年05月22日の投稿参照) は延長された特許権の効力範囲が狭すぎる大合議判決を否定したいのだろうが、どうしてジェネリック業界までが、大合議判決だけを批判して現在の審査基準をなんら批判しないのか? 本当に不可解であり残念。 「最高裁が大合議判決を支持したら大変なことになる」 みたいな危機感でも煽られているのかな? 特許庁も先発企業もジェネリック企業も、関係者全員がそろって大合議判決批判を展開し、現在の審査基準はそんなに悪くないと思っているのなら、現在の審査基準でいいじゃないかということになってしまいそうだ。

 今回の文書においてジェネリック製薬協会の知財委員会は次のように主張している。

 (ジェネリック製薬協会の知財委員会の文書より)(下線追加)
 アバスチン事件の知財高裁判決は、このうち、延長された特許権の効力範囲について、承認を受けた医薬品の「成分(有効成分に限らない。)、用法、用量、効能、効果」によって画されるとしつつも、その均等物や実質的に同一と評価される物にも及び、存続期間延長の対象となる特許発明の範囲と延長された特許権の効力範囲とは常に一致するわけではないとして、効力範囲の外縁を曖昧・不明確なものとした。 当委員会としては、かかる法解釈について懸念を表明せざるを得ない
 もしも、延長された特許権の効力範囲が明確にされなければ、ジェネリック医薬品の承認の可否や承認の時期が定まらず、ジェネリック医薬品企業の経営判断を妨げ、ジェネリック医薬品の開発・製造・販売に対する事実上の参入障壁が生じるに等しい。 これは、結果的に国民のジェネリック医薬品へのアクセスを確実に遠ざけることになる。

 ジェネリック製薬協会の知財委員会が強調しているのは、「延長された特許権の効力範囲が明確であること」 だ。 文書の最後にも以下のように記載されている。

 (ジェネリック製薬協会の知財委員会の文書より)(下線追加)
 当研究委員会としては、延長された特許権の効力範囲は明確でなければならず
 薬事承認によって禁止が解除された特許発明の範囲と、延長された特許権の効力範囲とを明確に一致させること
が、最も適切であると考える。

 効力範囲を明確にすることばかり強調することの真意が、「あわよくば物質特許の延長期間中に参入できるかも。 だったらそれを明確にして。」 なんて考えているのではなく、従来の制度よりもジェネリック医薬品の参入時期が先延ばしされることや、従来と同じ時期に参入できるのかが不明確になることを懸念しているのなら共感はできるけれども、ジェネリック業界にとって意見表明すべきことはそれだけなのか?
 また今回の文書には、

 (ジェネリック製薬協会の知財委員会の文書より)(下線追加)
  当委員会では、従来から、一の特許につき最初の薬事承認についてのみ1回限りの特許期間延長を認める制度に改めるべきであるとの主張を行っている。
 
とも記載されている。 確かに、審査基準改訂前のワーキンググループ (WG) の会議でも、ジェネリック製薬協は 「1特許1延長」を主張していた (WG第6回会議の「資料6」を参照)。

 もっぱら大合議判決を批判して、現在の審査基準に対しては批判しない。 そして 「1特許1延長」 を主張し続けるジェネリック製薬協。 そういうジェネリック製薬協に問いたいのは、「現在の審査基準は、延長要件の範囲と効力範囲が一致していると思っているのか?」、そして、「 “1特許1延長” なら本当に満足なのか?」 ということだ。 

 例えば、現在の審査基準は、物質特許の延長された特許権の効力範囲に関しては、従来の審査基準と同様に、「有効成分と効能・効果」 が同一の範囲という、比較的広い効力範囲を規定している。 その代わり、同じ範囲で後行医薬品の処分を受けても、その特許は二度と延長することはできない。 物質特許以外については特許発明によって延長された特許権の効力範囲は様々となるが、いずれにしろ、一度延長された範囲については、その後で新たな医薬品の承認を受けても、その特許を二度と延長することはできない。 その意味で、現在の審査基準は、「延長要件の範囲と効力範囲が明確に一致している」 と見なすこともできるだろう。 なにしろ現在の審査基準を作った時に、特許庁自身が、

 (審査基準改訂時の特許庁のコメントより)
第67条の3第1項第1号における「特許発明の実施の範囲」と、第68条の2における「本件処分により存続期間が延長された場合の特許権の効力の範囲」は、原則として一致していると解釈することが合理的であると考えます。 改訂審査基準は、この解釈を前提としています

とコメントしているくらいだから(特許庁のHPの 『「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対する意見募集の結果について』 の 「「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対する御意見の概要及び回答(PDF:133KB)」 の No.11-12 を参照)。

 そうすると、現在の審査基準に基づいて 「1特許1延長」 が行われる延長制度が実現すれば、ジェネリック製薬協会の知財委員会が要望している事項はすべて満たされるということになるが、現在の審査基準に基づいた 「1特許1延長」 は、ジェネリック業界から見て本当に好ましい延長の姿なのか? (つづく)


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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