2015年06月24日

平成25年(行ケ)10195〜10198大合議判決傍論の必然性


 大合議判決 (平成25年(行ケ)10195〜10198) において知財高裁は、延長された特許権の効力範囲について触れ、その効力範囲は、承認された医薬品とほとんど変わらない範囲 (承認された医薬品と客観的同一性がある医薬品、およびその医薬品と分量が違う医薬品を含む範囲) に過ぎないと説示した。 これに対して特許庁は、審査基準で直接規定してはいないものの、審査基準の改訂の際に公表したコメントにおいて、「延長された特許権の効力範囲」 は 「先行医薬品の承認により実施できるようになる特許発明の範囲」 (67条の3第1項第1号) と同じく、一定の広がりを持った範囲であるという見解を示しており、特許庁と知財高裁の立場は著しく異なっている。
 そして今年の1月5日および4月15日には日本製薬工業協会が (製薬協のHPの2015年1月5日および4月15日の意見表明を参照)、3月30日には特許庁が (4月10日の投稿を参照)、5月29日には日本ジェネリック製薬協会が (6月17日の投稿を参照)、あいついで大合議判決の傍論に対して批判的な意見を掲載した文書を公開した。

 私も大合議判決を支持しているわけではないし、大合議判決が出た当初は、大合議判決が確定してしまったら大変だと思う気持ちの方が強かったが、ここまで大合議判決批判一色になってしまうと、バランス上、大合議判決の正当な部分を評価しなくてはという気持ちになってしまう。

 1987年 (昭和62年) に延長制度ができてから先の最高裁判決 (平成21年(行ヒ)324-326) が出されるまで、ある医薬品の承認を受けて延長された特許権の効力は、その医薬品と有効成分と効能・効果が同一の全ての医薬品 (もちろん特許範囲内のものに限るが) に及び、かつ、その医薬品と有効成分と効能・効果が同一の別の医薬品の承認をさらに受けても、再び延長することはできないという運用がされていた。 このような審査運用は、一度延長された範囲 (有効成分と効能・効果が同一の範囲) については、何があろうと二度と延長されることがないため、同じ発明が何回も重複して延長されることがない制度だったと言える。
 しかし最高裁判決 (平成21年(行ヒ)324-326) は、

 最高裁判決 平成21年(行ヒ)326 より引用 
 先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。 なぜならば,・・・,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。

 と説示し、たとえ有効成分と効能・効果が同一の先行医薬品が存在していても、先行医薬品が特許範囲に含まれない特許を持っている限り、その特許の延長を認めなければならないと判示した。
 この最高裁判決を受けて改訂されたのが現在の審査基準であり、現在の審査基準は最高裁判決と矛盾しないものとなっている。 しかしながら、最高裁判決は何通りにも解釈できるものだから、現在の審査基準は最高裁判決と矛盾しないとは言えても、最高裁判決に支持されているものとは言えない。

 現在の審査基準における延長された特許権の効力範囲は、物質特許や、物質の単純な用途特許の場合は、旧審査基準と同じ 「有効成分および効能・効果が同一の範囲」 となり、それ以外の特許の場合は、その特許発明の発明特定事項に応じて決まる一定の範囲となる。 そしてこの審査基準の改訂の際に特許庁は以下のようにコメントした (もう何回も引用しているけど…)。

 『「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対するご意見の概要およびその回答』より引用 (下線追加)
 ・・・、第67条の3第1項第1号における 「特許発明の実施・・・の範囲」 と、第68条の2における 「・・・延長された場合の特許権の効力の範囲」 は、原則として一致していると解釈することが合理的であると考えます。 改訂審査基準は、この解釈を前提としています。

 上記のように解釈しないと、ご指摘のとおり、一の特許権に対応する複数の処分がある場合に、例えば以下のような不都合が生じると考えます。

 仮に、前者の範囲が後者の範囲よりも狭いと解釈すると、先行処分によって実施できるようになっていたといえない範囲において後行処分による延長登録が認められた結果、複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複し、この重複範囲について複数の異なる存続期間の延長がなされるケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することになります。
 他方、仮に、前者の範囲が後者の範囲よりも広いと解釈すると、先行処分によって実施できるようになっていたといえる範囲においては後行処分による延長登録が認められないにもかかわらず、先行処分により延長された特許権の効力は後行処分に対応する範囲には及ばないケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨に合致せず権利者に不利益を及ぼすことになります。

 ところが上記の特許庁のコメントが当てはまるのは 「1つの特許内」 に関してだけで、例えば剤型ごとに分割出願を行って複数の特許を取得しておくことで、簡単に多重延長ができてしまうことは前回の投稿で述べた。 つまり、現在の審査基準において、「延長登録を拒絶する範囲」(第67条の3第1項第1号の範囲) と 「延長された特許権の効力範囲」(第68条の2の範囲) は事実上、一致していないのであって、特許庁が言うところの 『複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複し、この重複範囲について複数の異なる存続期間の延長がなされるケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することになります』 という事態が起きる審査基準になっているのだ。

 具体的には、例えばある有効成分に関する物質特許を保有していて、初めに注射剤型の抗癌剤の承認を受けてその特許権を延長した場合、現在の審査基準によれば、延長された特許権の効力範囲は 「有効成分と効能・効果が同一の範囲」 となるから、承認を受けた注射剤に限定されず、あらゆる剤型を含む範囲となる。 しかし、もし他の剤型 (例えば経口剤) について分割出願をして特許を取得しておき、経口剤の医薬品について後行承認を受ければ、その承認に基づいてその剤型特許を延長することができる (下図)。

多重延長01.png

 そして改訂審査基準に従えば、延長された特許権の効力が及ぶ範囲は、剤型特許の特許発明の発明特定事項に応じて一定の広がりを持った範囲となる。
 また、剤型をさらに限定してカプセル型の剤型について分割出願を行い、その特許を取得しておけば、同じ有効成分を含むカプセル剤について追加承認を受けることで、その特許を延長することもできる(下図)。 そして延長された特許権の効力が及ぶ範囲は、やはり一定の広がりを持った範囲となる。

多重延長02.png

 また、他の抗癌剤との併用用途について分割出願を行って特許を取得しておけば、実際にそのような医薬品について承認を受けることで、その特許を延長することもできる(下図)。 物質が新規なのだから、たとえ相乗効果がなくても併用用途に進歩性はある。 したがって、併用に関してなんら実験していなくても併用用途の分割出願が特許になる可能性はかなりある。

多重延長03.png

 また、適当な用量や用法について分割出願を行って特許を取得しておけば、実際にその特許範囲に含まれる医薬品について承認を受けることで、その特許を延長することもできる(下図)。 

多重延長04.png

 このように、現在の審査基準のもとでは、同じ有効成分を含み、同じ効能・効果に用いられる医薬品であっても、想定される剤型や用法について別々の特許権を取得しておくことで、それらの医薬品の承認を受ける度にそれぞれの特許権を延長することができる。 現在の審査基準においては、そのようにして延長される特許権の効力範囲には上述の通り一定の広がりがあり、かつ、初回承認で延長されている「有効成分および効能・効果」の範囲内にあるのだから、それらを合わせてみれば、下図に示した通り、最初の承認ですでに延長されている部分が、何度も延長し直されることになるのだ。

多重延長05.png

 これはまさしく特許庁の言うところの 「複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複し、この重複範囲について複数の異なる存続期間の延長がなされるケースが生じてしまうため、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することになります。」 という事態ではないか? 特許庁は、こういう事態を 「延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護すること」 だと言っておきながら、そういう事態が起こる審査基準を自ら作っているのだから自己矛盾を起こしている。

 では、そうならないようにするにはどうすればいいか? 当然、複数の処分により延長された特許権の効力の範囲が互いに重複しないようにするべきだということになる。

 ところで最高裁は上記の通り、先行医薬品が特許範囲に含まれない特許を持っている限り、その特許の延長を認めなければならないと判示した。 そして上記の通り、「分割出願」 という手段を使えば、先行医薬品とほとんど同じだが、先行医薬品は特許範囲に含まない特許は簡単に取得できてしまう。 そういう特許が延長されても 「延長された特許権の効力範囲」 が互いに重なり合わないようにするためにはどうすればよいか? 答えは1つしかない。 「延長された特許権の効力範囲」 を非常に狭く設定するしかない。 理屈の上では、医薬品の用量ごとに分割出願することだって不可能ではない。 そうすると、特許権者がどれだけ分割出願して延長しようが、延長された特許権の効力範囲が重なり合わないような制度にするためには、用量だけが違う医薬品すら 「延長された特許権の効力範囲」 に含まれないようにすること、すなわち、個々の延長された特許権の効力範囲は極限まで狭くするしかないということになる。 これが大合議判決の傍論だ。 つまり、大合議判決が 「延長された特許権の効力範囲は狭い」 と説示したのは必然だったんだよ。
 最高裁判決のもとで 『延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護すること』 を避けるためには、「延長された特許権の効力範囲」 を極限まで狭くするしか解決策がないのだ (他にもあるけど、それはSotoku 5号で。)。

 このように、大合議判決の傍論の説示は、最高裁判決のもとで 『延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護すること』 を避けるためには避けられない結論なのだから、それを単純に批判するのは間違っている。 大合議判決を批判するのなら、まず最高裁判決が批判されなければならないだろうし、分割出願を利用した多重延長を 「特段問題はない」、「メリット」 だと発言し (前回の投稿を参照)、延長登録制度の趣旨を超えて権利者を過剰に保護することを容認している現在の審査基準だって批判は免れないだろう。

 このように、悪いのは大合議判決だけじゃない。 全てつながっている。 それに大合議判決は、現在の特許庁の審査基準が容認している不適切な多重延長を明確に否定したという点では画期的な判決だ。 特許庁や先発企業がこの判決を批判ばかりしているのも不適切だとは思うが、ジェネリック業界までが一緒になって大合議判決ばかり批判して (6月17日の投稿を参照)、大合議判決の画期的な部分を正当に評価しないとは一体どうなっているのか!?


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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