2015年07月16日

期待以上? プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する特許庁の当面の取扱い


 平成27年6月5日にプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)に関する最高裁判決(平成24年(受)1204号、平成24年(受)2658号)があり、これを受けて特許庁は、6月10日、最高裁判決を受けた取扱いを検討するためにPBPクレームに関する判断を7月上旬まで中断する旨を発表していた。
プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査・審判の取扱い等について

 そして7月6日、特許庁は早くも対応方針を公表した。
プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査基準及び審査・審判の取扱いについて

 特許庁は、「請求項に係る発明の認定に関する考え方は変更せずに維持します。」 と、これまでの特許庁の考え方が正しかったことを指摘しつつ、最高裁が判示した明確性要件については、その判示に沿って拒絶理由を通知する旨を公表した。

 しかし興味深いのは 「(3)当面の審査における判断手法について」 の F の以下の部分だ。

 (特許庁が公表した資料より)
F 最後の拒絶理由通知後、拒絶査定不服審判請求時又は特許法第50条の2の通知を受けた後に、「その物の製造方法の記載」を、単に、構造や特性といった物としての記載にする補正又は物の発明においてその物の製造方法が記載されている場合に、単に、その物の製造方法の発明にする補正は、通常、明りょうでない記載の釈明(特許法第17条の2第5項第4 号)に該当する補正であると認めることとします。(注5)

注5)仮に当該補正が行われなかった場合は、通常、明確性要件違反の拒絶理由が通知されることとなり、また、第17条の2第5項の規定の適用にあたっては、その立法趣旨を十分に考慮し、必要以上に厳格に運用することがないようにするべきであることから、今般当該補正を認めることとします。同項の規定は、発明の保護を十全に図るという特許制度の基本目的を考慮しつつ、迅速・的確な権利付与を確保する審査手続を確立するために、最後の拒絶理由通知に対する補正は、既に行った審査結果を有効に活用できる範囲内で行うこととする趣旨で設けられたものです。 当該補正を認めても、既に行った審査結果を概ね有効に活用できると考えられます。

 つまり、補正の制限がかかった状態であっても、PBPクレームから製造工程を削除する補正や、PBPクレームを 「製造方法クレーム」 にする補正を認めるというのだ。 PBPクレーム(物のクレーム)を 「製造方法クレーム」 に補正することは、発明のカテゴリーを変更 (「物」→「方法」) することになる。 したがって、補正の制限がかかった状態でこのような補正を行うことは不可能だというのが大方の見方だった (例えばここここ)。 ところが、特許庁はこれを認めるというのだから、出願人・特許権者にとっては予想以上のフレンドリーな対応と言えるだろう。

 しかし・・・、こんな判決(平成18年(行ケ)10494号)もある・・・。 (← 拒絶査定不服審判において PBPクレームを 「製造方法」 に変更した補正が 「特許法17条の2第4項各号のいずれにも該当しない」 と判示された判決。 まあ今後は明確性要件違反が指摘されるので事情は異なるが・・・。)

 もしPBPクレームを 「製造方法」 に補正することが認められるのなら、最高裁判決に対する懸念はかなり軽減される。 大合議判決では、いわゆる不可能・困難・不適切事情がないPBPクレームは 「不真正PBPクレーム」 だと判断されて、製法限定、すなわち実質上、製造方法クレームと同等の発明だと解釈されるため、特許が無に帰すわけではないのに対し、最高裁判決では、いわゆる不可能・非実際的事情がないPBPクレームは明確性要件違反という無効理由を抱えてしまうため、特許が無に帰すのではないかと心配されていた。 しかし、特許庁が示した上記の対応方針によれば、特許権者がその気になればPBPクレームを 「製造方法」 に訂正することも可能なのだろうから、特許が無に帰すおそれもなくなったわけだ (裁判所がどう判断するかは知らないが)。 (2015/7/30訂正;最後のコメント参照)

 特許庁のこの発表が出るまでは、私は以下の 「除くクレーム」 の補正を認めることにすればいいと思っていた。 すなわち、例えば 「〇〇方法によって製造された物。」 という PBPクレームが、もし最高裁判決の言う不可能・非実際的事情がなく、「明確性要件」 に違反する場合は、次のように補正することを認めるのだ。

 〇〇方法によって製造された物(但し、当該方法以外の方法によって製造された物を除く)。

 この補正は、PBPクレームの範囲に含まれている物のうち、PBPクレーム中に規定されている製法以外の方法で製造した物は、クレームの範囲に含まれないことを明確にする補正だ。 まあ、新たな審査負担が生じない減縮補正か不明瞭な記載の釈明か、どっちかだと言っていいんじゃないか。 そして、この補正により、補正後のPBPクレームは、まさに 「製法限定説」 で解釈した PBPクレームと同じになるわけだ。
 まあ、こんな 「除くクレーム」 の補正を認めることは、「物同一説」 への統一を判示した最高裁判決に逆らっているようにも見えるし、クレームにどう書いてあろうが 「物同一説」 で解釈するという特許庁のスタンス (審査基準 第II部第2章1.5.2(3)の(注) 参照) とも相容れないから、そもそも笑い話のようなもので実現性は低かった。 特許庁が 「製造方法」 への補正を認めるというのなら、それに越したことはないだろう。。

*     *     *

 今回の特許庁の発表でもう1つ気になったのは、特許庁が示した「(3)当面の審査における判断手法について」のH。

 (特許庁が公表した資料より)
H 出願人から上記事情の存在について主張・立証があった場合において、審査官が合理的な疑問を持たないときには、上記事情が存在するものとします。 この場合は、当該明確性要件の拒絶理由は解消します。

 すなわち、仮に明確性要件に関して拒絶理由が通知されても、“非実際的事情” があることについて出願人が主張して、審査官が合理的な疑問を示せない限りは拒絶は解消することになる。  私にはこの特許庁の方針は、「出願人がそれらしい反論さえしてくれれば、基本的に認めますよ」 と言っているように見えてしまうのだが・・・。(違うかしらん?)

 ということで、今後は多くのPBPクレームに対して明確性要件に関する拒絶理由が通知されることにはなるだろうが、反論すれば、PBPクレームは今まで通り特許として成立するし、製造方法に変更することも可能という、出願人にとってはもっとも好ましい対応を特許庁は発表したようにも見える。

 とは言っても、特許庁の取り扱いを裁判所が容認するのかは不透明だし、仮に容認されるとしても、明確性要件の拒絶理由に対して、非実際的事情があることを説明するために、「この製法方法で作られる物は、構造を特定することが極めて困難で・・・」 などと反論していたとすると、権利行使にあたってもそれが影響して、違う製法で作った物を侵害だということは難しくなりそうだ。

 かくして、特許庁はあくまで出願人・特許権者にフレンドリーな対応を取りつつ、権利行使に当たって特許権者が苦しむのを見守るという展開になるのかも知れない。



(2015/07/30 追加)

 訂正審判で PBPクレームを 「製造方法」 に訂正することを特許庁が認めるかどうかの立場は微妙らしいわ。 拡張・変更の関係で。。

 だったらやっぱり、上で提案した通り、「除くクレーム」 がいいでしょ。 「除くクレーム」 なら、ただの減縮であることははっきりしているし、補正前クレームには 「製法によらない物」 が含まれる点で最高裁判決とまぁ齟齬はないし、ナンタラ事情がない場合は 「除くクレーム」 に訂正させることによって大合議判決の意図も汲めるという、なかなかすぐれた対応だと思うんだけど。。

 しかし、特許庁のスタンスはこれだから (審査基準は審判とは関係ないと言えば関係ないけど)。。。
      ↓
現在パブコメ募集中の審査基準改訂案の 第III部 第2章 第4節 5.1 (現審査基準 第II部第2章1.5.2(3)の(注) に対応)

PBP審査基準.png

 『出願人自らの意思で、・・・、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、審査官は、生産物自体 (Z) を意味しているものと解釈し、請求項に係る発明を認定する』 とまで言うのはおかしいというか、こんな規定があると特許庁は自縄自縛になるんじゃないかなぁ?
 それに 「専ら A の方法により製造された Z 」 って、文末が 「・・・Z。」 で終わっている以上、製法限定しているのかどうかは今一つ明白じゃないと思うんだけど。。

 とりあえず審査基準改訂案に対して、「この記載を削除してはどうか」 っていうパブコメを送ろうかな。



(2015/08/07 追加)

今日付けで、審判におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する取扱いについて特許庁の見解が出た。

 審判制度に関するQ&A の 「3. 訂正審判(PDF:21KB)」 (以下)
 https://www.jpo.go.jp/toiawase/faq/sinpan_q.htm
審判制度に関するQ&A の 「3. 訂正審判」 Q10 & A10.
PBP訂正0807_.png

 特許異議の申立てQ&A の 「Q4-21.」 (以下)
 http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/sinpan/sinpan2/igi_moushitate_faq.htm
特許異議の申立てQ&A の 「Q4-21.」

Q4-21. プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合)については、平成27年6月の最高裁判決を受け、平成27年7月6日に「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査の取扱について」が、ホームページで公表されました。
 これによると、『最後の拒絶理由通知後、拒絶査定不服審判請求時又は特許法第50条の2の通知を受けた後に、「その物の製造方法の記載」を、単に、構造や特性といった物としての記載にする補正又は物の発明においてその物の製造方法が記載されている場合に、単に、その物の製造方法の発明にする補正は、通常、明りょうでない記載の釈明(特許法第17条の2第5項第4号)に該当する補正であると認めることとします。』とされています。
 特許異議の申立てにおいて、物の構造又は特性により特定する訂正や、物の製造方法にする訂正の請求をする際は、審査の取扱と同様に、明瞭でない記載の釈明に該当するのでしょうか。

A4-21. 特許異議の申立ての訂正請求における、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」については、補正に関し特許法第17条の2第5項の適用において考慮される「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」といった要件は存在しません。したがって、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合に、物の構造又は特性により特定する訂正や、物の製造方法にする訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であると認められます。
 しかしながら訂正の要件は、補正の要件と異なり「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。」(特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項)とされ、この点も考慮する必要があります。
 特許異議の申立ての訂正請求におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの取扱いについては、今後、事例の分析を進めつつ、法令に基づき、事案に応じて審判合議体としての判断を審決の中で示していきます

結局、分からんな。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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