2015年07月22日

世界最速・最高品質の特許審査を目指した審査基準改訂案 (審査基準改訂案@)


7月8日、特許庁は 「特許・実用新案審査基準」 の改訂案を公表し、パブリックコメントの募集を開始した。 提出期限は8月6日(木)(必着)。

 「特許・実用新案審査基準」改訂案に対する意見募集

今回改訂は、審査基準の配置(書き順)が大幅に変更されており、重要な部分はフォントを大きくしたり、箇条書きのスタイルを多用したりして、見やすさを改善しようとしているようだ。 また、これまで審査基準の最後尾近くにあった 「審査の進め方」(審査基準 第IX部) が 「第I部 審査総論」 として先頭に移動されている。

変更箇所が多数に及ぶためか、今回のパブリックコメントの募集においては、407ページにも及ぶ改訂審査基準案が提供されているだけで、普段の改訂では提供される 「新旧対照表」 のようなものは用意されていない。 これではどこが変更されたのかを同定することは困難で、これを一ヶ月で検討してコメントしろと言うのも無理な話ではないか?  特許庁としてはパブリックコメントなど欲しくないのだろうから、誰もコメントしないのなら、特許庁としてはその方が好都合なのかも知れないが・・・。

しかも、今回の改訂案の背景を知るための手がかりとなる 「産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会 審査基準専門委員会ワーキンググループ」 の議事録が、現時点でも第4回までしか公開されておらず、第5回 (平成27年6月5日開催)、第6回 (平成27年7月3日) の会合において行われた議論を知ることができない。

 (特許庁HPで公開されている「審査基準専門委員会ワーキンググループ」資料)
議事録nai3.png

一ヶ月半前に行われた会議の議事録も準備できていないというのに、審査基準改訂案の全体に対するパブコメを一ヶ月で締め切るというのは短すぎだ。

また、改訂案ができる前にワーキンググループが終了しているということも問題ではないか? 上記のワーキンググループの資料を見ても、最終回の第6回ですら、「資料3 審査基準の主な改訂事項一覧」という大まかな改訂事項が掲載されているだけで、実際の改訂案はワーキンググループの場で提示されていないようだ。 本来なら、改訂案の一次案ができた段階でワーキンググループ内で検証が行われ、細部まで内容が詰められた上でパブリックコメントの募集が行われるべきだし、また、パブリックコメントの募集が終わったら、さらにワーキンググループ内で改訂案の検討・修正が行われるのがあるべき姿ではないか?

改訂案ができる前、またはできたと同時にワーキンググループが終了してしまい、パブリックコメントに対する対応は特許庁に丸投げ、という今のやり方は問題だろう。

*    *    *

ところで特許庁は現在、10年間の長期目標として 「世界最速・最高品質の特許審査の実現」 ということを掲げている。

 知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会(第12回) の 資料3 より
最速最高品質2.png

今回の審査基準改訂は、それに向けた一環でもあり、たとえば今回の改訂に向けた話し合いである 「産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第5回 審査基準専門委員会ワーキンググループ」 の 「資料1 審査の進め方の審査基準の点検ポイント」 には、以下のように 「世界最速・最高品質」 という言葉が頻出する。

 (第5回 審査基準専門委員会ワーキンググループ 資料1より)
2.特許審査に関する昨今の状況及び今後の目標

・・・、今後の知的財産政策の主な方向性の一つとして、「我が国企業によるグローバルな知的財産権の取得と活用に対する支援」を挙げ、そのための方策の一つとして、「世界最速・最高品質の特許審査の実現」が掲げられている。 また、閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014−未来への挑戦−」(平成26年6月24日)(・・・)においても、科学技術イノベーションの推進/世界最高の知財立国のために新たに講ずべき具体的施策の一つとして、「世界最速・最高品質」の審査を実現することが挙げられている。

3.審査の進め方の審査基準の点検の必要性

・・・。
 「世界最速・最高品質の審査の実現」に向けて、審査の効率性の堅持及び審査の質の維持・向上の視点を考慮しつつ、第1回審査基準専門委員会WGにおける上記指摘も踏まえ、審査基準の「審査の進め方」について点検を行ってはどうか。

もちろん、審査の「速さ」と「内容」が両立すれば言うことはないが、「速さ」というのは数字としてはっきり評価が出るのに対して、「内容」はよくても悪くても評価が出にくい。 両者を評価対象にすると、どうしたって「内容」が後回しになりがちになることが懸念される。

今回のワーキンググループの議事録を見ても、審査の「速さ」に対する要望はなく、審査の「内容」に対する懸念が多く示されている (以下を参照)。

 (ワーキンググループ 第1回 議事録より)
・・・、我々出願人から見れば、なぜこれがだめだったのか、なぜこれがよかったのかということを特許庁の審査の中で、拒絶理由通知でもいいし、拒絶査定でもいいのですが、きちんと書いていただかないと納得がいかないということがたくさんあります。 なぜ判断としてそのように考えたのかを論理的にわかるようなものであったほうが、審査の予測性も高くなる・・・。
(日本経済団体連合会 知的財産委員会委員の発言)
・・・拒絶査定や最後の拒絶理由の起案基準とか、もう1回トライできるだろうと思っていたら、いきなり最後になってしまったとか、そのあたり、我々が理解できるようにしていただければなと思っております。
(日本知的財産協会委員の発言)
・・・。ただ、外の人から見たときに、最終結果に対して、先ほどもどなたかがおっしゃっていただきましたが、納得感があるというか、こういう理屈で、この文献を組み合わせて進歩性がないと判断したこと自体は納得感があると思ってもらえるような基本的な考え方、あるいは審査官がきちんとそういうものにのっとってやっていることがわかる、そういうものを提供していくのが基準の役目だとは思っています。
(審査基準室長の発言)
・・・、これだったら納得できる、このようなプロセスで、このようなロジックで判断していただいたら、自分は負けてしまっても納得できるという点が、裁判としても、審査としても、重要であり、そこが我々のゴールだと思います。
(特許制度小委員会委員長の発言)

同感だ。 日本の特許審査には 「納得感」 が足りない。 しかしそれは、審査基準だけの問題ではないのではないか。 例えば、審査基準の改訂に際して、ワーキンググループにおいては改訂の 「主な内容」 だけを示して参加委員たちの同意を取りつけ、それ以降は特許庁が単独で進めてしまう今の審査基準の改訂のやり方にも同じ問題があるのではないか。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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