2015年07月28日

「予想を超える顕著な効果」 があっても進歩性は認められないのか? (審査基準改訂案B)


今月8日に特許庁は 「特許・実用新案審査基準」 の改訂案を公表し、パブリックコメントの募集が開始されている。 提出期限は8月6日(木)(必着)。

 「特許・実用新案審査基準」改訂案に対する意見募集

今回の審査基準の改訂により、進歩性の判断基準に 「総合考慮」 という考え方が導入される。

 (審査基準案 第III部 第2章 第2節 進歩性 3.進歩性の具体的な判断 より)
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そして 「総合考慮」 の名の下に、進歩性を裏付ける証拠までが、進歩性の判断において考慮される1つの要因に矮小化されてしまう可能性がある。

進歩性の審査基準を変えることについて話し合われたのは、 「審査基準専門委員会ワーキンググループ」 の第3回だった。 その会合において特許庁から 「総合考慮」 という用語が持ち出されたのだが、その内容は、先行技術から本発明をする 「動機づけ」 になりうる4つの要因、すなわち

 @ 技術分野の関連性
 A 課題の共通性
 B 作用、機能の共通性
 C 引用発明の内容中の示唆

の4つの要因を総合的に考慮しなければならないということだった。 そのときに特許庁が提示した資料と議事録は以下の通り。

ワーキンググループ 第3回 資料1「進歩性の審査基準の点検ポイント」 より
 4.点検ポイント(1−1)
ア 現行審査基準の記載
 現行の審査基準第U部第2章「2.5 論理づけの具体例」には、「(2)動機づけとなり得るもの」として、@技術分野の関連性、A課題の共通性、B作用、機能の共通性及びC引用発明の内容中の示唆といった観点が列挙されている。 また、こうした観点に係る肯定的な事実がある場合、当業者が本願発明に導かれたことの有力な根拠となることについて、いずれの観点においても言及がなされている。
 しかし、それらの4つの観点のうちから常に一つだけ選択しさえすればよいのか、あるいは、それらの観点を総合考慮すべきかについては、明記されていない
〇 事務局案【審議事項】
 主引用発明に副引用発明等を適用する動機づけは、@技術分野の関連性、A課題の共通性、B作用、機能の共通性及びC引用発明の内容中の示唆といった観点1を総合考慮してなされること、及び審査官は、いずれか一つの観点のみに着目すれば、動機づけが肯定されるか否かを常に判断できるわけではないことに留意すべき旨を、審査基準に記載することとしてはどうか。 また、この点に関して、事例集あるいは判例集において、具体例を示すこととしてはどうか。

ワーキンググループ 第3回 議事録
審査基準室長の発言

 ・・・。事務局案でございますが、その枠囲い、主引用発明に副引用発明等を適用する動機づけは、技術分野の関連性、課題の共通性、作用、機能の共通性、それから引用発明の内容中の示唆といった観点を総合考慮してなされること、また審査官は、いずれか一つの観点のみに着目すれば、動機づけが肯定されるか否かを常に判断できるわけではないことに留意すべき旨を、審査基準に記載することとしてはどうか。また、この点に関して、事例集、判例集において、具体例を示すこととしてはどうかとしております。
審査基準室長の発言

 背景のところでは、裁判例の御紹介ですが、技術分野が共通していても課題が相違すれば、進歩性が肯定されるとした裁判例、あるいは技術分野が同一であっても、それだけでは進歩性は否定されない。こういった裁判例も見られるところでございます。
 こうしたところを踏まえて、事務局案としては8ページの枠囲いの中に提示してございます。 審査官は、総合考慮すべき動機づけの4つの観点のうち、「技術分野の関連性」については、「課題の共通性」等の他の動機づけとなり得る観点もあわせ考慮しなければならない旨、審査基準に記載してはどうか。 こちらは、先ほど淺見委員から第1回でいただいた御指摘も踏まえた上での事務局案ということになります。

このように、第3回ワーキンググループでは、「 @ 技術分野の関連性、A 課題の共通性、B 作用・機能の共通性、及び C 引用発明の内容中の示唆」 の4つの要素を総合考慮しましょうという話だったのだ。 ところがワーキンググループの最終回である第6回になって特許庁が出してきた 「資料3 審査基準の主な改訂事項一覧」 では、「有利な効果」 や 「阻害要因」 などの進歩性を肯定する事項までを含めて総合的に評価するというものに変容している (資料3の項目10を参照)。 第6回の議事録が公表されていないため、これに対してワーキンググループの参加者がどのような反応をしたのか不明だが、第6回のワーキンググループで出してきた特許庁の改訂案は、第3回とは話が違うのではないか?

そして公開された審査基準改訂案は、「有利な効果」 や 「阻害要因」 などの事項が、進歩性を否定する要素と同列に扱われ、両者が綱引きをするような図式で描かれている (下図)。

 審査基準改訂案 第III部 第2章 第2節 進歩性 3.
図論理づけのための主な要素.png


今回の改訂案で特に懸念されるのは、「予想を超える顕著な効果」 ですら、進歩性を認めさせるに十分ではなくなる可能性があることだ。 例えば、現在の審査基準においては、「予想を超える顕著な効果」 について以下のように記載されている。

現在の審査基準 (第II部 第2章 2.5(3) @)

例えば、引用発明特定事項と請求項に係る発明の発明特定事項とが類似していたり、複数の引用発明の組み合わせにより、一見、当業者が容易に想到できたとされる場合であっても、請求項に係る発明が、引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合、あるいは同質の効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合には、この事実により進歩性の存在が推認される

ところが、改訂案ではこの部分は以下のように変更される。

審査基準改訂案 (第III部 第2章 第2節 3.2.1(1))

しかし、引用発明と比較した有利な効果が、例えば、以下の(i)又は(ii)のような場合に該当し、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることは、進歩性が肯定される方向に働く有力な事情になる
 (i) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果とは異質な効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない場合
 (ii) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果と同質の効果であるが、際だって優れた効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない場合

このように、現在の審査基準では 「進歩性の存在が推認される」 となっているものが、「進歩性が肯定される方向に働く有力な事情になる」 に修正される。 つまり、「予想を超える顕著な効果」 は、進歩性を推認させるものではなく 「方向に働く有力な事情」 になってしまうわけだ。 「予想を超える顕著な効果」 に関する審査官の裁量権を拡大しようとしているようにも見える。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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