2015年09月02日

特許庁の審査基準 “こっそり改訂” 案に日弁連がNo! (審査基準改訂案G)


7月8日に特許庁は 「特許・実用新案審査基準」 の改訂案を公表し、先日 8月6日(木) までパブリックコメントが募集されていた。
 「特許・実用新案審査基準」改訂案に対する意見募集 (締切 8月6日(木))

これに対して、日本弁護士連合会 (日弁連) が特許庁に提出したという意見書を日弁連のウェブページに公開している。
『「特許・実用新案審査基準」改訂案に対する意見書』
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2015/150731.html

そこには今回の投稿のタイトルの通り、特許庁が審査基準をこっそり改訂しようとしている部分について、日弁連が 「No」 と言っている部分があった。

問題の箇所は、現在の審査基準の 「第IX部 審査の進め方 第2節 7.2 拒絶査定 (3)」 で、拒絶査定するときの留意事項が記載されている箇所 (以下)。

現在の審査基準 第IX部 審査の進め方 第2節 7.2 拒絶査定

Gen7-2拒絶査定.png

上の通り、そこには 「拒絶査定においては、周知技術又は慣用技術を除き、新たな先行技術文献を引用してはならない。」 と記載されている。 ところが、今回の改訂案の該当箇所では、以下のようにこの記載が削除されているのだ。

改訂案 第I部 第2章 第5節 査定 3.

改訂案_査定留意事項.png

これに対して日弁連は、意見書 (パブリックコメント) で以下のように指摘している。

日弁連の意見書

nitibennren.png

ハハハ。 きっと特許庁は、周知技術や慣用技術ではない文献でも、拒絶査定において新たに引用して構わない場合があると思っており、審査ハンドブックか何かにそういう事例を追加しようとしていて、そのための布石として審査基準からこの記載を削除しておきたかったんじゃないかな? 

なお、もし周知技術ではない先行文献を拒絶査定で引用してはならず、引用したい場合は必ず拒絶理由を再度通知しなければならないことにすると、そのときにネックとなるのが、8月5日の投稿の 「2.」 でも書いたように、「解消していない拒絶理由が1つでも残っていれば拒絶査定する」 という今の特許庁の特許審査の原則だ。 例えば、「先に通知した拒絶理由は間違ってはいないし、不適切とまでは言えないし、拒絶理由は解消していないが、新しい文献をもう1つ引用したい、またはこれまでとは違う拒絶理由をもう1つ通知したい。」 という状況の場合に、拒絶理由を通知する選択肢が今の審査基準にはない。 「拒絶査定する」 という選択肢しかない。 そういう状況の場合に、拒絶査定せずに、もう一度拒絶理由を通知して出願人との意思疎通を図ることが求められるんじゃないか。

ちなみに、今後作られるであろう 「審査ハンドブック」 に関しても、日弁連は以下のように釘を刺してます。
日弁連の意見書

nitibennren2.png

確かに。 ワーキンググループでも検討してほしいですよね。。

〜〜  *      *      *  〜〜

なお、私は別の箇所の “こっそり改訂” が気になった。 それが、現在の審査基準 第IX部 4.3「具体的運用」 で、以下のように記載されている。

審査基準 第IX部 4.3「具体的運用」 

4_3具体的運用.png

ところが改訂案では以下のようになる。

 第I部 第2章 第3節 拒絶理由通知 3. 拒絶理由通知の具体的運用
改訂案原則2回.png

つまり、「一回目の拒絶理由通知時にすべての拒絶理由についての審査を行い」 という部分が削除される。 この変更については、特許庁に送った私のパブコメで指摘しておいたけれど、拒絶理由通知を発行するのを 『原則二回を限度(「最初の拒絶理由通知」及び「最後の拒絶理由通知」各一回)』(上の引用) にしたり、『通知した拒絶理由が解消されていないと判断した場合は、拒絶査定をする』(改訂案 第I部 第1章 2.2(2)) という審査をするというのに、一回目の拒絶理由通知時にすべての拒絶理由についての審査を行わなかったらどうなるか? 十分に審査されていれば一回目の拒絶理由通知で通知されていたはずの拒絶理由が通知されないまま拒絶査定されるという事態が発生するわけで、その場合に通知されなかった拒絶理由を通知してもらって対応するためには、拒絶査定不服審判を請求したり、分割出願を行わなければならない。 これでは、一回目の拒絶理由通知時にすべての拒絶理由についての審査された場合と比較して不公平でしょう?
 まあ、通知しなかった拒絶理由があろうがなかろうが、いずれにしろ拒絶査定だったのだから、別にいいじゃないかと考える人もいるかも知れないけれど、一回目の拒絶理由通知時にすべての拒絶理由が通知されて、それに対して自由な補正や反論を行った上で拒絶査定となった場合であればその時点で得られていたはずの審査結果が得られないわけだから、この先、拒絶査定不服審判や分割出願を行うかどうかを検討するにあたって予測性が下がることになるでしょう? 

一回目の拒絶理由通知時に通知されるべきなのに通知されなかった拒絶理由は、拒絶査定の前に通知され、それに対して自由な補正と反論を行い、それに対する審査官の見解が査定時に得られるところまで行って、初めて公平性が確保される。 したがって現在、特許庁がほとんど慣習のように行っているように、そういった未通知の拒絶理由を拒絶査定の 「なお書き」 で指摘すればいいというものじゃない。 そういう拒絶理由を拒絶査定の 「なお書き」 で指摘するというのは、一回目の拒絶理由通知時にすべての拒絶理由が通知された場合と比較して公平性を欠いた審査が行われたという証拠だ。

もちろん、すべての審査で、一回目の拒絶理由通知時にすべての拒絶理由を通知することを過誤なく行うことなんて不可能でしょう。 だからこそ、「たとえ既に通知した拒絶理由が解消していないとしても、通知すべきだった未通知の拒絶理由がある場合は拒絶査定しないで再度拒絶理由通知を出す」 という運用に変更する必要があるんじゃないかな。 それが公平というものでしょう? ちなみに、これは 「独立特許要件の理由にしなければよい」 という問題じゃないです。 拒絶査定前に通知すべきものは、ちゃんと通知してから拒絶査定にするべきだということです。

〜〜  *      *      *  〜〜

日弁連が指摘した改訂箇所といい、上に私が挙げた改訂箇所といい、少なくとも現在までに公表されている資料を見る限り、審査基準専門委員会のワーキンググループでは何も話し合っていない。

例えば、今回の審査基準改訂の際の審査基準専門委員会 ワーキンググループ 第5回会合の議事録によれば、特許庁の審査基準室長がこんなことを言っている。

ワーキンググループ 第5回会合の議事録

滝口審査基準室長:
・・・手続を丁寧にやるとか、そういう納得感の中で出願人とのコミュニケーションをよくとっていくというのが今回の審査の進め方の改訂ということになりますので、その点は御理解いただければと思います。

滝口審査基準室長:
・・・そういう形でのコミュニケーションについても、きちんとした形で、第三者から見ても、どういう手続を経て最終的にこの特許になったのかというところがわかる形でその出願書類の中にきちんと格納しておく、そういうところはやはり基準の中でも明らかにしていきたいと思います。

そういう精神が大事だからこそ、審査だけじゃなくて、審査基準の改訂作業も、こっそりではなく納得感の高いものにして頂きたいです。

さて、特許庁が公開しているワーキンググループの資料の 「資料2 審査基準全編にわたる改訂の骨子について」 によれば、今月中旬には新しい審査基準が確定し、来月から運用が開始される予定だ (以下に引用)。

 ワーキンググループ第6回 資料2
今後の予定0901.png

PBPクレームの最高裁判決の対応もあるし、特許庁も大変ですね。 なーんて。

そういえば、おととい (8月31日) 付けで特許庁から、『「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査の取扱いに関する調査研究」についての一般競争入札公告』 という一般競争入札の案内が公表された。 4月の投稿で書いた特許延長問題に関する調査・研究もそうだったように、また一般財団法人 知的財産研究所 が落札するのかな?

この入札案内のページにある 「仕様書」 を見たら、「庁担当者と〜」 というフレーズが頻出してます (以下)。

 入札案内の仕様書 (部分を抜粋)(下線追加)
PBP仕様書all02.png

丸投げして中身のない報告書ができても困るから、特許庁が監督するのはしょうがないのかも知れないけれど、これだと、特許庁の意向に沿った報告書しかできなさそうだ。。 実際、以前投稿した通り、医薬品発明等の特許権の存続期間の延長登録問題に関して特許庁が知財研に発注した調査・研究の報告書の内容は、特許庁バイアスがかなりかかっているように見えるからね。

まあ、今回のPBPクレーム問題に関しては、出願人や特許権者の多くは (そして私も)、最高裁判決の 「不可能・非実際的事情がなければ明確性要件違反 (により特許無効)」 という説示を支持していないだろうし、そうかといって、大合議判決の 「不可能・困難事情がなければ製法限定」 という判示も支持していないだろうから、こんな判決ばかりで一体どうするのかについて、調査・研究というか、考える必要はありそう。 判決が出てからじゃ遅いんだけど。。 


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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