2015年11月19日

最高裁判決平成26年(行ヒ)356号で医薬品特許権延長問題はふりだしに戻る


医薬品特許の特許権の存続期間延長制度に関して、11月17日に最高裁判決 平成26年(行ヒ)356号 が出された。 これは、平成26年5月30日に知財高裁大合議が出していた判決 (平成25年(行ケ)第10195〜10198号) に対して、被告である特許庁が上告していたものだった。 平成23年12月より特許庁は、医薬品特許の延長の許否は、医薬品の承認事項のうち、特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項によって判断すべきだとして審査を行ってきたが、これについて最高裁は、「・・・,特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項によって判断すべきものではない。」 と明確に否定した。

特許権の存続期間延長制度の問題に関しては、私は昨年の6月からさんざん投稿してきたし、今年の6月には、それをまとめた論文 「最高裁判決平成21年(行ヒ)324〜326号が掛けた謎」(Sotoku 5号) も書いた。 私の考えでは、特許庁の考え方も、知財高裁大合議の考え方も、どっちも駄目なわけで、そもそも最高裁が平成23年4月28日に下した前回の判決 (平成21年(行ヒ)324〜326号) からして駄目なのだ。 だから、今回の判決で、たとえ最高裁が特許庁を支持しようが、知財高裁を支持しようが、どっちであったとしても不適切だと思うけど、今回の最高裁判決で、もし最高裁が特許庁の考え方を支持してしまったら、現在の審査基準に基づくおかしな延長制度が続くことになってしまうわけで、それを防ぐためにも、とりあえず特許庁を否定する判決を下したのはよかったんじゃないかな。

つまり今回の最高裁判決は、ふりだしに戻ったに過ぎない。 大合議判決が判示した基準を採用すればいいというものではない。 これから議論して適切な制度を作っていくことが必要なんだと思う。 

大合議判決の駄目なところは、延長された特許権の効力が、承認を受けた医薬品とほとんど同じもの (具体的には、成分,用法,用量,効能,効果のすべてが同じもの) にしか及ばず、かつ、特許の延長期間はその承認の期間が適用されること。 これじゃあ、似たような医薬品の承認を受けるたびに、似たような医薬品なのに延長期間がバラバラなものができてしまうわけで、一番早く特許が切れるものについてジェネリック医薬品が販売されてしまうと、延長期間がまだ切れていない他の医薬品までシェアを食われてしまうから、他の延長が意味のないものになってしまいかねない。

Sotoku 5号にも引用したけれど、これについては製薬会社の担当者が、以下のように分かりやすいコメントをしている。

医薬品等の特許権の存続期間の延長登録制度及びその運用の在り方に関する調査研究」(389ページ)(製薬企業の方のコメント)
今回の大合議判決で考えると、初回承認は時間がかかるので臨床試験が5年くらいかかる。 追加効能になると、特に追加の用法用量の適応症の申請になると短い時間になる。一回目の承認と2回目の承認で得た物質特許の延長の期間に差が出る。そうすると短い期間延長しか取れなかった承認の後発医薬品は、長い方の延長登録期間の満了前に上市できるという状況になる。そんな状況であるのに短い期間延長しか取れない追加効能承認をとるのかという話が出てきて追加効能承認取得に対するインセンティブが低下しかねないというのが今の答えになるのではないか。

だから、大合議判決が示した基準では駄目なんだな。

なお、特許の延長問題については、大合議判決後にいくつか論説が出ている。

● 井関 涼子, AIPPI, 60(1), 2015-01 p.20-36
井関氏のこの論説は、基本的に大合議判決に賛成してしまっている点で、大合議判決と同様の批判が当てはまる。 ただし、大合議判決というのは、現在の特許法の条文から導き出せる合理的な解釈の限界を示したものであって、井関氏が論説の最後で言っているように、これ以上の解決策は 「条文の解釈を超えたものであって,解釈ではなく立法的に解決するべきであろう。」(34ページ) というのは確かかも知れない。

ちなみに、大合議判決が 「延長された特許権の効力範囲」 が非常に狭いと傍論で説示したのは、特許権者に二重の利益を与えないために仕方のないことだった理由については、私の以下の投稿で説明した。

 2015年06月24日
 「平成25年(行ケ)10195〜10198大合議判決傍論の必然性

● 田村 善之, AIPPI, 60(3) 2015-03, p.206-236
田村氏の論説でいいと思うのは、延長した特許権が市場で競合する後発医薬品を抑えられないのでは意味ないという立場にたっていること。 田村氏は昔から、「市場における代替性」 によって範囲を決めることを提唱していた (増井和夫・田村義之, 特許判例ガイド 第4版, 有斐閣, 2012 の270ページ)。 私はその通りだと思うし、下で紹介する前田氏の論説でも、田村氏のこの部分はポジティブに取り上げられている。

但し、田村氏の論説では、延長された特許権の効力は 「市場において競合可能な範囲」 という広い範囲を認める一方で、延長できる機会については大合議判決並みに認めるべきだというもの。 今回のアバスチン事件のようなケースに関しても、FOLFOX/FOLFIRI療法の先行承認で延長させ、かつ、XELOX療法の後行承認でも延長させ、それぞれの延長された特許権の効力は、お互いに他方を含むほど広い範囲となるべきだということが論じられている (230-231ページ)。

うーん。。 でもそれじゃあ、ジェネリックメーカーはいつ参入できるの???  剤型違いや用量違いの新たな承認をいくつも出されたら、最後の延長が切れるまで参入できないじゃん。。 ということで、田村氏の説は採用できない気がする。。 

 ***** 2016/1/7 Westlaw japan 判例コラム第63号(2016.1.5)の田村氏の論説についてはこちら

● 前田 健, 神戸法学雑誌 65(1) 2015-06, p.1-44
前田氏の論説で、なによりいいと思うのは、先行医薬品がある場合に、後行医薬品の承認を受けて新たな期間の延長が認められるか否かは、先行医薬品と後行医薬品が 「高い代替性」 があるのか否かできまるべきだと論じていること。 後行医薬品の承認を受ける間に後行医薬品を売れなかったことで、特許権者に本当に不利益があったのかどうかは、その間に、先行医薬品を独占的に売ることで、後行医薬品を売れないという不利益を補い得たのかどうかで決まるわけだから、前田氏が言う通り、先行医薬品と後行医薬品が、どれくらい 「代替性」 があるのかということがポイントなんだ。

じゃあ 「代替性がある範囲」 って具体的にはどの範囲? 前田氏は、そこは敢えて具体的には提案していない。 私は、1つの候補は 「有効成分と効能・効果が同一の範囲」 だと思っている。 つまり、旧審査基準よこんにちわって感じ。。

前田氏の論説が私の考えと違う部分をさらに挙げると、前田氏は、後行医薬品が、先行医薬品とは別の特許になっている場合に延長を認めていいのかについて、「・・・、それはどちらかというと・・・真に特許権 [“性”の誤記?] を満たしているのか、あるいはその効力の範囲がどこまでなのかが問題なのであって、延長の可否の問題とは切り離して考えた方がよいと考えられる。」 (13ページの脚注22) などと言って考慮していないこと。 いやいや、そこを考えることが重要なんじゃないか。 新たな延長を認めて特許権者に利益を与えるかどうかは、先行医薬品と後行医薬品の「代替性」 で決まるのであって、後行医薬品が別特許か否かは関係がない。 だから、たとえ後行医薬品が、先行医薬品を含まないような別特許になっているとしても、その延長を認めちゃいけない場面はある。 そこを不問にしてしまっては、二重延長の抜け道を作ってしまうことになる。 前田氏は、後行医薬品の特許範囲に先行医薬品が含まれない場合 (すなわち別特許になっている場合) に、後行医薬品の特許の延長を拒絶することの合理性について、「延長の利益を二重に防ぐという趣旨からも合理的に説明することはできないし、最高裁によって明確に誤りとされていることは言うまでもない。」(19ページの脚注35) と言っているけれど、私はそうは思わない。 二重の利益を防ぐためにも、特許権者がすでに販売している先行医薬品と高い代替性のある後行医薬品の場合は、特許が別か否かにかかわらず、さらなる利益を特許権者に与えないことは合理的だし、最高裁判決 (平成21年(行ヒ)324〜326号) の方こそミスリーディングなんだ。 以下の私の投稿は、すべてそれを説明したもの。

 2015年02月26日
 「H21(行ヒ)324〜326最高裁判決は先発者に過剰な利益を与えうる

 2015年03月19日
 「特許の期間延長の条件は“利益がなかった”ことである

 2015年06月19日
 「審査基準を利用して特許の多重延長を目指す先発メーカーたち

つまり、新たな延長を認めて特許権者に利益を与えるためには、特許権者が代替性のある先行医薬品を独占的に販売し得たという状況がなかったことが必要なのであって、後行医薬品が別特許になっているか否かは関係がないの!  前田氏は、「そもそも不利益が現に存在するか否かは、先行処分に基づく延長で回復された利益と、後行処分に基づいて延長した場合に回復される利益とに重なりがないかを確認しなければ直ちには言えないはずである。」(23ページの脚注42) と言って井関氏の論説を批判しているのに、別特許である場合は利益に重なりがないか (すなわち市場における高い代替性がないか) を確認もせずに延長を認めようとしているのだから、言っていることが矛盾しているじゃない?

それから前田氏は次のように述べて、いわゆる 「請求項単位説」 を支持しているようなんだけど、、

 [前田氏の論説の 30ページ」
本稿は、延長登録に複数の請求項がかかわる場合でも、請求項ごとに個別の発明が存在するとして扱えば足り、1 つの特許権としてそれらの発明が出願されているのか別の出願とされているのかで、取り扱いを違えることは不合理であると考えている。 この点に関し、現行審査基準は、上位概念たる広いクレームがある場合にそれの従属項たる一群の請求項が合わせて必ず一度しか延長を受けられなくなるという運用をしているところ、クレームが広い(一般性の高い)特許ほど延長を受けにくくなるという不合理な帰結をもたらすことが問題点として指摘されている。 これに対し審査基準の立場に対しては、一つの特許に複数の請求項を盛り込む場合には、独自の進歩性を欠く従属項を多数用意して、延長登録の機会を何度でも得ようとする濫用的な運用が可能になり、別出願とされた場合とで扱いを変えないとこれを防ぐことができないという反論もできなくはない。 しかしながら、このような濫用的な運用のためのみに、制度全体をゆがめることまで擁護できるのかについては疑問なしとしないし、・・・

私は 「請求項単位説」 だって不合理だと思う。 クレームが物質クレーム1つしかないか、それとも従属請求項としていろいろな適用疾患や適用用量が列挙されているかで、延長の許否の取り扱いが変わるのは不合理でしょう?  前田氏自身、延長の許否は先行医薬品との 「高い代替性」 の有無で決めるべきだと論じていて、「出願人がどこをクレームアップしたかと市場における代替性が論理的なつながりを有するとは到底言えず、・・・、理論的な正当性は肯定しがたいともいえる。」 (30ページ) と論じているのに、かたや 「請求項単位説」 を主張して、出願人がどこをクレームアップしたのかで差をつけようとするのはおかしいじゃない?

上に引用したように前田氏は、「1 つの特許権としてそれらの発明が出願されているのか別の出願とされているのかで、取り扱いを違えることは不合理であると考えている。」(30ページ) と論じているけれど、もしそう思うのなら、先の最高裁判決 (平成21年(行ヒ)324〜326号) を批判するべきだ。 なぜなら、後行承認医薬品だけを切り分けて、先行医薬品を含まないように別特許にして新たに延長を受けようという発想は、『「別特許」 であれば延長は認められる』 と判示した先の最高裁判決によって生まれたものなのだから (詳しくは Sotoku 5号 の5ページ 「4.対応に迫られた製薬企業」や、上記の投稿を参照)。 そして今の審査基準が 「多重延長」 に関して “ザル” のような基準になってしまったのは、先の最高裁判決に原因がある。

まあ、そんな感じで、特に前田氏の論説についていろいろ書いたけれど、それは前田氏の論説が私の考えに一番に近いからで、私は前田氏の論説が一番評価できると思う。 それでも、上記の通り違うところはある。 私が間違っているのかも知れないけれど。

これからもっといろいろな人が考えて、意見を出して、議論が収束して行けば、妥当な制度の在り方はもっとはっきりしてくるはずなんだけど、現状はまだまだって感じだ。 今回の最高裁判決を受けて特許庁は、来年の春ごろまでに新しい審査基準を公表する予定だとアナウンスしたけれど、こんな状態で一体どんな基準を作るんだろう?  別に特許庁を悪く言いたいわけじゃなくて、私も含め、解決策を方向づけられない知財界全体が駄目なんだな。

 ***** 2015/11/20 ちょっと修正した


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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