2015年12月11日

食品の用途特許ついに解禁へ (審査基準専門委員会第7回WG)


食品の用途発明に関する審査基準の点検について」 を議題として 12月8日に行われた 産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第7回 審査基準専門委員会ワーキンググループ において特許庁事務局は、ついに食品の用途特許を認める審査基準の改訂を提案し、特許庁事務局案のとおり審査基準の改訂を行うことが了承された。 日本の特許制度では、一般に、ある物がすでに知られていても、その物の新たな用途を見出した場合は、「その用途に用いる物」 に関する特許 (用途特許) が認められる。 しかし食品に関しては、これまで特許庁は用途特許を認めてこなかった。

例えば、平成18年(2006年)に審査基準が改訂された際に特許庁が作成した審査基準改訂案には、以下の事例と説明文が記載されていた。

 [「新規性・進歩性」の改訂審査基準(案)について] より(平成18年4月5日)
例5:「成分Aを添加したアトピー性皮膚炎改善用ヨーグルト」

「成分Aを添加したアトピー性皮膚炎改善用ヨーグルト」が体内免疫応答過剰反応を抑制するという未知の属性の発見に基づく発明であるとしても、「成分Aを添加したヨーグルト」が一般的な食品として広く利用されていた場合には、アトピー性皮膚炎の改善を期待する者には通常は食されていなかったなどの特段の事情がない限り、「成分Aを添加したアトピー性皮膚炎改善用ヨーグルト」は、その適用対象等が従来のものを超えるとはいえず、新たな用途を提供するものとはいえない。したがって、「成分Aを添加したアトピー性皮膚炎改善用ヨーグルト」は、「成分Aを添加したヨーグルト」により新規性が否定される

この審査基準改訂案に対しては、以下のように複数のパブリックコメントが寄せられた。

 〈「新規性・進歩性」の改訂審査基準(案)に寄せられたご意見について〉 より(平成18年6月21日)
食品用途H18改訂回答.png

しかし上記のように特許庁は、既知の食品を用途限定して新規性が認められるような 「具体的な例を想定することができません。」 という態度をつらぬき、事実上、食品の用途特許を認めてこなかった。 これについては、この問題について論説を書いている南条雅裕氏 (弁理士) からも、『「新たな用途を提供したといえるような特段の事情に該当する具体的な例を想定することができません。」とするのは,・・・,門前払いをしているに等しい。』 と評されていた (パテント, Vol.62, No.1, 43-57, 2009 の49ページ)。 

内閣府の総合科学技術会議のある検討プロジェクトチームの会議において、食品の用途特許をなぜ認めないのかについて質問された特許庁は、以下のように回答していた。

 ライフサイエンス分野における知的財産の保護・活用等に関する検討プロジェクトチーム 第5回議事録より(平成19年1月25日)
検討プロジェクトチーム5回議事録.png
検討プロジェクトチーム5回議事録2.png

「特に理由があるわけではないのですが」 っていうところが、言い訳として苦しい(笑)。 食品分野についてだけ用途特許を認めないのは、「新たな用途を提供したか」 を論理的に判断して帰結されたというより、政策的な判断という感じだった。 まあ確かに、食品の用途特許を認めれば、同じ食品について何重にも用途特許が成立する可能性は高く、それぞれの用途が本当に違うのか、重なっているのか、判然としないことも生じるだろう。 また、何気なく書いた宣伝文句が特許侵害だと言われることも起こるかも知れない。 生活に直結するマーケットであり、すそ野も広い食品分野において、本当に健全な社会の発展に貢献するのか、特許の乱立や乱用が起こる懸念はないのか、という不安はある。。

とは言うものの、時代の流れというか、特許庁は、平成27年度産業財産権制度問題調査研究として、「用途発明の特許権の効力範囲を踏まえた機能性食品の保護の在り方に関する調査研究」 を一般財団法人知的財産研究所に発注し、その調査研究の報告を受けて、今回、ついに食品の用途特許を認める審査基準改訂の具体的な作業に入った。

今回公表された資料参考資料3 平成27年度産業財産権制度問題調査研究 企業ヒアリング結果(抄)(PDF:128KB)」 を見ても、ヒアリングを行った食品関連企業のほとんどが、食品の用途特許の解禁を要望しているようだ。

今回の審査基準専門委員会第7回ワーキンググループにおいて特許庁は、食品の用途発明を認める場合に、どのようなクレーム表現として認めるのかということについて3つの案を出した。

 配布資料の参考資料6 請求項の記載形式について(PDF:52KB)より]
食品用途01.png

案1」 は、「〇〇用ヨーグルト。」 でも、「〇〇用食品組成物。」 でも、「〇〇用組成物。」 でも、「〇〇用剤。」 でも用途発明として認めるという案で、「案2」 は、「〇〇用ヨーグルト。」 についてはヨーグルトと区別がつかないとみなすが、残りは用途発明として認めるという案で、「案3」 は、「〇〇用剤。」 のみ用途発明として認めるという案。 それぞれのメリットとデメリットについて特許庁は以下のように説明している。

 [配布資料の参考資料6 請求項の記載形式について(PDF:52KB)より]
案1
メリット
・機能性食品の研究開発のインセンティヴが高まる。
・ヨーグルト等に関する用途発明の保護を求めるユーザーニーズを満たしている。
・「物」でも「方法」でも用途発明が認められない状況が打開され、他国と同様に食品の用途発明の保護が可能となる。
・食品分野においても用途発明としての新規性が認められることになり、他分野と整合する。
デメリット
・現行の運用を変更しなくともよいというユーザーが存在する。
案2
メリット
・医薬品の用途発明に関する運用と整合する(「組成物」と「剤」とで認められる)。
デメリット
・上位概念である「組成物」が認められ、下位概念であるヨーグルト等が認められないとすることは、 理由付けが困難である。
案3
メリット
・現行の運用を変更しなくともよいというユーザーからも受け入れられやすい。
・医薬品の用途発明に関する運用に近く、ユーザー及び審査官がなじみやすい。
デメリット
・ヨーグルト等に関する用途発明の保護を求めるユーザーニーズを満たしていない。
・医薬品は「剤」と「組成物」で認められているが、食品は「剤」でのみ認められるという不整合が残る。

そして配布資料の参考資料3 によれば、特許庁は 「案1」、すなわち、「・・・剤。」や「・・・組成物。」に限らず、「・・・ヨーグルト。」のように食品の名前で終わる表現でも用途限定を認める案を推したようで、実際、会議後に公表された議事要旨においても、「案1」 を採用することが了承された旨が記載されている。

ということで、いよいよ食品の用途特許が成立する時代がやって来る。

それにしても・・・、法改正もなしに、審査基準をいじるだけで、これほどの歴史的変化を起こせるというのがすごい。 特許制度において審査基準の改訂は、法改正に匹敵する威力がある。 とすると、審査基準専門委員会の方々には、国会議員に匹敵する責任がある(笑)。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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