2016年01月07日

ウエストロー・ジャパン判例コラム第63号(特許権の存続期間延長登録)


Westlaw japan の判例コラム第63号で、北大教授の田村善之氏が 「特許権の存続期間延長登録の要件について 〜アバスチン事件最高裁判決の意義〜」 (文献番号 2016WLJCC001) というコラムを書いている。

内容的には、昨年田村氏が発表したAIPPIの論説 (田村善之, AIPPI, Vol. 60, 206-236, 2015) と同じように見えるし、脚注6で田村氏自身が、今回の論説はそれに基づいていると書いている。 去年の11月19日の投稿 「最高裁判決平成26年(行ヒ)356号で医薬品特許権延長問題はふりだしに戻る」 でも書いたけれど、もともと田村氏は、延長された特許権の効力範囲を 「市場における代替性」 によって決めるべきだと提唱していた (増井和夫・田村義之, 特許判例ガイド 第4版, 有斐閣, 2012 の270ページ に 「延長に係る特許権の保護は市場において代替可能性のある範囲内まで及ぶことが望ましく…」 と書いてある)。 私もそうだなと思うし、昨年、前田氏の論説 (前田 健, 神戸法学雑誌 65(1) 2015-06, p.1-44) が出るまでは、はっきりとそう主張しているのは田村氏くらいだった(多分)ので、もっとまとまった論説を田村氏が書かないかなと期待していた。 結局、上記の AIPPI の論説が出て、ちょっと期待がはずれたのだけれど、まだ希望は捨てていない (笑)。

田村説の特徴は、延長された特許権の効力は、「市場において競合可能な範囲」 という広い範囲を認める一方で、延長の機会は大合議判決並みで、ほぼ、医薬品承認を受けるごとに延長を認めるというもの。 つまり、いわゆる 「多重延長」、すなわち、先行承認により既に延長された特許権の効力が及んでいる部分が、後行承認によりさらに延長されるようなことを許容している点が特徴だ。 例えば先行医薬品で2年延長して、その後、それと用量や用法が違うけれど、有効成分や適用疾患が同じ後行医薬品の承認を4年かけて受けて、その特許を再び4年延長した場合、先行医薬品と後行医薬品は市場で競合するから、後行医薬品のジェネリック医薬品だけでなく、先行医薬品のジェネリック医薬品も、本来の特許満了から4年経たないと販売できないってことだ。

それで、今回の判例コラムの脚注22で田村氏は、上記の前田氏の論説を批判的に引用しつつ、『・・・、前田/前掲23頁・・・は、先行処分と後行処分の対象が「ほとんど異ならない場合」 には、先行処分に基づく延長登録 (例として、2年間の延長としている) により十分な保護が与えられていたのであるから、後行処分に基づく延長登録 (例として、4年間の延長としている) は二重の利益 (2年間の延長分について) となると主張する。 もっとも、この例でも、後行処分に関しては4年間、実施できない期間があったのであるから、その期間については、・・・保護・・・がかけていることに変わりはなく、後行処分に関しては追加の2年間の延長を不当とする理由はない。』 と指摘している。

確かに、「後行処分に関しては4年間、実施できない期間があったのであるから、・・・ 後行処分に関しては追加の2年間の延長を不当とする理由はない」 っていう気持ちは分かるのだけど、先行処分医薬品まで4年経たなければジェネリック医薬品を販売できなくするのはどうなのよ、っていうことだ。 もし、先行処分で延長した特許権の効力が後行医薬品に及ばず、後行処分で延長した特許権の効力が先行医薬品に及ばないのなら、田村氏の言っていることは正しいだろう。 後行処分に関して追加の2年間の延長を不当とする理由はない。 しかし、田村氏は延長された特許権の効力範囲は、競合する医薬品に及ぶほど広くするべきだと思っているわけだ。 そこは私も同感だ。 そうすると、後行医薬品の承認で延長される範囲には、「すでに実施できた先行医薬品」 が含まれることになる。 その場合は、「後行処分に関しては追加の2年間の延長を不当とする理由はない」 っていうことにはならないだろう。 だって、もし追加延長したら、実施できた部分まで延びてしまうのだから。

なお、脚注22で田村氏はさらに、『前田/前掲・・・は、再度の延長を認めることは、先の延長に関して、その期間が満了することに対する後発医薬品メーカーの期待を奪うことになるという問題を指摘する(・・・)。 しかし、一度も延長されない間は、後発医薬品の予測可能性は保証されていないのだから、一度延長されたとたんに、なぜ急にそれを保護しなければならないと考えるのか、その理由は不明なままである。 ・・・、5年という上限が設定されているのであるから、・・・、一度に一挙に5年間延長されようが、何度かに分かれて細切れに延長されようが、後発者は当初から覚悟しておけというのが、法の判断であるというべきであろう。』 と指摘している。

私は田村説の多重延長には反対だけれど、「その理由として予測可能性を持ち出すのはおかしい」 ということについては、わりと田村氏に同感だ (笑)。 田村氏が言う通り、田村説に基づく延長でも、ある意味、予測可能性はある。 「一番長い延長が終わるまで参入できない」 っていうことがあらかじめ分かっているのだから (笑)。 私は田村説に対して、11月19日の投稿 で 「・・・それじゃあ、ジェネリックメーカーはいつ参入できるの???」 と書いたけれど、それは当業者の期待や予測可能性が奪われることが不適切だと言っているのではなくて、一番長い延長期間が終わるまで何一つ参入できないなんて、特許権者に一方的に有利だからダメじゃんという意味で書いたものだ。

もしそんなことが許されるのなら、私が特許権者だったら、まずいち早く承認を受けて先行医薬品を独占販売しつつ、5年かけてゆっくり追加承認を受けて5年延長するだろうね。 田村説に従えば、それにより、先行医薬品までを含めて5年延長できるのだから、そうしない手はない。

この問題は、10人に訊けば10人とも 「不適切だ」 と答えるような問題だと思うので、田村氏もぜひ周りの人に訊いてみてほしいなぁ。。 まぁ、田村氏は、医薬品特許なんて、全部5年延長すりゃいいんだよと思っているのかも知れないけれど、もしそうなら、制度としてちゃんとそう決めればいいじゃん、と思う。

なお、「当業者の予測可能性」 の問題について田村氏は、上記の通り 「当初から覚悟しておけ」 と突き放すようなことを書いているけれど、私も当業者の予測可能性の議論はピンとこないものが多い気がする。 最近読んでいるプロダクト・バイ・プロセス クレームに関する論説でも、「PBPクレームに製法を記載している以上、それを読んだ当業者は、このクレームは製法に限定されると期待するのだから、権利行使できる範囲も製法に限定すべきだ」 みたいなことを書いている論者がいるのだけど、むしろ私は、「それは勝手に期待しただけでしょ!」 と言いたくなる。 (もちろん、クレームに製法を記載した以上、その製造は構造を特定していると考えるのは当然で、前回投稿した蛇足説の解釈など、そうそうとりえないのではあるが。)

田村氏が批判している前田氏の論説の当該部分 (前田氏の論説の脚注41) では、後行処分を受けても延長を認めるべきではないのは 「予測可能性」 を奪わないようにするために過ぎないのかも知れないという論調で考察されている。 しかし、実際はそういう理由ではない。 後行処分を受けても延長を認めるべきではない理由は、「最初に承認を受けるときは、特許権者は競合する医薬品を実施していないので、その承認期間は利益をまったく上げられない期間だから、その期間の延長を認めていいけれど、競合する後行医薬品について後行承認を受けている期間は、その期間中、特許権者は、後行医薬品と競合する先行承認医薬品を、後行医薬品が販売されていないために多く独占販売して利益を上げているのだから、その期間は、後行医薬品を販売できないことが丸々損失ということではないはずで、後行承認の期間を丸々延長するのはおかしいでしょ。」 ということなのだ。 このように、競合する後行承認でさらに延長を認めるべきではないのは、後発者の 「予測可能性」 を担保するためではない。

ということで、引き続き期待している。 「特許権者が市場で競合する先行医薬品を独占販売している場合は、後行処分によりさらに長い期間延長するのはダメだよね」 (先行処分による延長と同じ終期まで延長するのならいいんですよ) という方向に学界が進んでくれることを。

そして、特許期間延長に関する審査基準の改訂が話し合われる予定である、1月13日に開会予定の 「第8回審査基準専門委員会WG」 にも!


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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