2016年02月19日

理屈ではない?食品用途発明の特許審査基準(審査基準改訂案公表)


2月10日付けで特許庁は、「特許・実用新案審査基準」 の改訂案を発表し、パブリックコメントの募集を開始した (締め切りは3月10日)。 今回の改訂には、食品の用途特許の解禁に関する改訂と、昨年秋の最高裁判決 (平成26年(行ヒ)356号) を受けた医薬品の特許の延長に関する審査基準の改訂が含まれている。

これら2つの改訂内容は比較的シンプルで、改訂案を見ただけではあまり問題を感じないかも知れない。 例えば医薬品の特許延長の問題については、今回の改訂案は、最高裁判決の判示である 「・・・,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売包含すると認められるときは,延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当である。」 ということがそのまま書いてあるだけで、文句をつけようがないように見える。
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審査基準改訂案の資料3より]
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しかし実際には、第8回 審査基準専門委員会ワーキンググループの 「資料3 特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準の点検・改訂について」 を見る限り、前回の投稿 (「動き出すか医薬品特許期間延長の制度改革」) で書いた通り、いわゆる「処分」(医薬品の製造販売承認) の 「包含関係」 の考え方において特許庁は論理的に無理な解釈をしており、「胃癌用」 の医薬品の製造販売承認に 「α遺伝子陽性の胃癌用」 の医薬品の製造販売承認は包含されていないのに、包含されているとみなそうとしている。

前回の投稿でも書いた通り、そういう場合に延長を認めるべきではないのは確か。 だから、拒絶することにするのを反対はしないけれど、“処分の包含関係” という最高裁が判示した理屈からすれば、本当は拒絶できないわけで、それを拒絶するというのは、もはや現在の特許法から理屈で説明するのは困難だ。

それにしても・・・、特許庁は審査基準専門委員会ワーキンググループの会議において既に具体的な事例を提示しているのに、今回のパブリックコメントの募集においてそれらの事例を示さないというのは、ずるいですよねぇ。。
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審査基準改訂案の資料3より]
詳細はhandbook_1.png
詳細はhandbook.png

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審査基準を理屈で説明するのが難しいことは、食品の用途発明の審査基準でも同じだ。 ちなみに昨年(平成27年) 12月8日に開催された 「特許制度小委員会 第7回 審査基準専門委員会ワーキンググループ」 の会議で鈴木將文氏 (名古屋大学大学院法学研究科教授) が、「私も、この問題は余り理屈だけで決められる問題でないように思いますが、・・・」 と発言している。

審査基準改訂案の資料1より]
食品用途例20160210.png

上に示した審査基準改訂案の 「例2」 をちょっと見ただけでは、あまり問題を感じにくいけれど、第7回の審査基準専門委員会ワーキンググループの議事録を見ると、請求項1の 「成分Aを・・・」 となっているところにポイントがあるようだ。 この 「例2」 の場合、請求項3の発明は、「成分Aを有効成分とする二日酔い防止用ヨーグルト。」 という発明になるわけだけれど、「成分A」 を特定しない限り食品の用途特許は取れないのか、という問題が、この 「例2」 には潜んでいるらしい。 理屈から言えば、たとえ成分Aが分かっていなくても、もしヨーグルトが二日酔い防止に効果があることが初めて見出されたのなら、「二日酔い防止用ヨーグルト。」 という特許は取れてよいはずだ。 議事録によれば、竹本一志氏 (日本食品・バイオ知的財産権センター 理事) がそれについて特許庁の審査基準室長に質問している。

[審査基準専門委員会ワーキンググループ第7回議事録より]
食品議事録01.png

それに続くやりとりは以下の通り。
食品議事録02.png

上述の通り、竹本氏は、成分Aを特定しなくても、「二日酔い防止用ヨーグルト。」 という特許は取得しうるのではないかという趣旨で質問しているのだと私は思うのだけど、それに対して審査基準室長は突然、「『有効成分を含む』と、『有効成分とする』 の違いのことでしょうか?」 みたいな感じで訊き直し、竹本氏も意表を突かれたのか (それとも議事録からは見えない背景があるのか?)、「はい」 と言ってしまっている(笑)。 それで審査基準室長の答えがずれてしまったので、淺見節子氏 (東京理科大学大学院教授) がこの問題をもう一度、審査基準室長に訊き直した。

[審査基準専門委員会ワーキンググループ第7回議事録より]
食品議事録03.png

それに対する審査基準室長の答えが以下。
食品議事録04.png

この審査基準室長の発言を読むと、有効成分を特定しない用途食品に対してはかなり否定的に考えているように見える。 しかし淺見氏が 「有効成分まで特定しなければならないとしたら、何を根拠にそうなるのか」 と言っている通り、有効成分まで特定しなければならない根拠がはっきりしない。 もし用途が新しくて容易に予想できないもので、かつ、複数のヨーグルトで同じ効果が発揮されることが証明されれば、「〇〇用ヨーグルト。」 という広い発明は進歩性でも記載要件でも拒絶できないと思われるわけで、それを審査基準室長が、「なかなか認められにくい」、「なかなか現実的には特許を取得するというのは想定し難い」 のように、かなり一般化して否定的に捉えているというのは、何か理屈じゃないものを感じるというか ・・・。

ただ、私も食品の用途発明に広い特許を与えるのは問題が多いという気がするので、気持ちとしては審査基準室長を支持したいところもある。 どういう理屈が付けられるのかについては、今後もう少し考えてみたい。

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化合物、微生物、動物、植物」 については、用途発明を認めないというのも、理屈じゃ説明できない規定の1つ。
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審査基準改訂案の資料1より]
動物or植物.png

「〇〇用化合物Z。」 のように、化合物を用途で限定しようとしても、用途限定として認められないことを判示した判決はある (東京高判平9.7.8(平成7(行ケ)27))。 しかしこの判決は、たまたま化合物の用途が単に 「中間体を作るため」 という程度で大した用途ではなかったことが、用途発明とは認めない理由の1つになっており、化合物一般の用途発明を否定したものではない。 その点は、平成18年6月の審査基準改訂時に寄せられたパブリックコメントでも指摘されている (「『新規性・進歩性』の改訂審査基準(案)に寄せられたご意見の概要及び回答」 の Q6、A6 を参照)。 要するに、化合物、微生物、動物、植物等を用途で限定することが認められない明確な根拠はない。 新規性、進歩性、記載要件などの観点では、なぜ動物や植物の用途特許が認められないのかを論理的に説明するのは困難ではないか。

そして、審査基準専門委員会ワーキンググループの第8回で特許庁が提案した 「資料1」 を見ると、用途特許を与えない物はそれだけに留まらないようだ。

[ワーキンググループ 第8回 「資料1」]
WG8食品01.png

特許庁が提示したこの資料では、「〇〇用バナナ。」、「〇〇用生茶葉。」、「〇〇用サバ。」、「〇〇用牛肉。」 については用途発明を認めず、「〇〇用バナナジュース。」、「〇〇用茶飲料。」、「〇〇用魚肉ソーセージ。」、「〇〇用牛乳。」 については用途発明を認めるという案になっている。 これを見た多くの人が、「なぜ “牛肉” はダメなんだ?」 と思うのではないか。

ワーキンググループの第7回(平成27年12月8日) の議事録を見る限り、動物や植物だけでなく、その 「一部」 についても、用途発明を認めないという議論が行われたようだ。

具体的には、淺見氏が次のように発言した。

[ワーキンググループ 第7回 議事録]
WG8食品02.png

これに対して審査基準室長は、次のように答えた。

[ワーキンググループ 第7回 議事録]
WG8食品03.png
WG8食品04.png

審査基準室長の発言を見る限り、「加工」 されているか否かをポイントにしようと思っているようだ。 しかし、「搾りたて牛乳」 なんかは加工していないから、もし 「搾りたて牛乳」 の用途特許を認めるのなら、「加工」 という理屈では説明できない。 また、生き物の 「一部」 も認めないというのなら、「キャベツ1/2」 は? 「千切りキャベツ」 は? 「千切りミックス」 は? 「ひき肉」 は?  ・・・。 いったん理屈じゃないことをすると、次々とくだらない疑問が生じ、延々と理屈じゃないことを続けなくてはならなくなるという感じだ。  まあ、どっちにしろ、あまり重要な問題ではないかも知れないけど。

その後開かれたワーキンググループ第8回(平成28年1月13日) の議事録を見ると、淺見氏がこれについて質問をしている。

[ワーキンググループ 第8回 議事録]
2016WG8giji01.png

これに対して審査基準室長は、「加工されているか」 もポイントで・・・、「動植物の部分かどうか」 もポイントで・・・みたいな、かなりぼかした回答をしたので、濱田百合子氏 (特許事務所 弁理士) が訊きなおした。

[ワーキンググループ 第8回 議事録]
2016WG8giji03.png

それに対する審査基準室長の答えが以下。

[ワーキンググループ 第8回 議事録]
2016WG8giji04.png

質問がかわされた感じになった場合に、別の委員が同じ質問で審査基準室長に畳み掛けるのっていいですね(笑)。 しかし、この切り分けは理屈じゃないから、審査基準に論理立てて書くことは難しいのだろう。

なお、ワーキンググループ 第8回で配布された 「資料1」 には、以下のように記載されている。

[ワーキンググループ 第8回 資料1]
発明は限定的に.png

「・・・発明は限定的にされるべきである」 って、今ひとつ意味がよく分からないのだけど、これについては、上記の淺見氏に対する答弁の際に、審査基準室長は次のように説明している。

[ワーキンググループ 第8回 議事録]
2016WG8giji02.png

つまり、用途発明として認めるか否かを迷うようなものについては 「認める」 という方向で審査を行う方針のようだ。

ちなみに、最初に書いた 「〇〇を有効成分とする」 のように成分を特定しない限り用途特許を認めないという規制も、次に書いた 「バナナ」 のような植物(の一部)は用途発明として認めないという規制も、「バナナ果肉を有効成分とする〇〇用食品組成物。」 という表現で書けば、すべてすり抜けてしまう可能性はある。 つまり 「〇〇用バナナ。」 と実質的に同じ発明が、書き方次第で認められてしまうかも知れない。 似たようなことは、審査基準室長自身が、次のように発言している。

 [ワーキンググループ 第7回 議事録 審査基準室長の発言]
ただ、特徴のあるような、植物・動物の小さな部分であれば、恐らくクレームを特徴のある、その「部分」の末尾にしなくても、「組成物」という形にしていただくことが可能になってくるとも考えています。微生物や化合物と同じようにということです。微生物、化合物の分野では、「微生物を含む〇〇用組成物」とすることが可能になっていますので、そういった運用も植物・動物の部分が小さくなってくるとあり得るのではないかと考えています。

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なお政策論的に考えれば、食品の用途発明に安易に特許を与えるべきではないことに関しては、遺伝子や半導体の発明に対して安易に特許を与えるのはよくないと言われていることと同じような理屈を与えることはできそう。 よく知られた動物や植物、食品のような、本来は誰の物でもない共有されるべき物が、用途限定とはいえ特許により専有化されてしまうと、自由な活用が阻害されたり、委縮が起こり、特許制度が本来目指すべき産業の発達とは逆の方向に行ってしまうかも知れない。 だからこれまで特許庁が食品の用途発明を門前払いしてきたこともそれなりの理屈はあったのだろうし、今後は食品の用途発明を認める前提で、新たな理屈を考えて行く必要があるのだろう。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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