2016年03月24日

平成28年3月改訂審査基準案のパブコメ回答(食品用途&医薬特許延長)


平成28年2月10日に公表された審査基準改訂案については、3月10日までパブリックコメントが募集されていたが、昨日 (3月23日)、パブリックコメントに対する特許庁の回答が公表され、4月1日から改訂審査基準にしたがって審査が開始されることになった。

また同時に特許庁は、「特許・実用新案審査ハンドブック」も改訂し、食品の用途発明の新規性・進歩性に関する事例や、特許権の存続期間の延長に関する事例をハンドブックの 「附属書A」(事例集) に追加した。

昨年9月の改訂において特許庁は、それまで審査基準に掲載されていた大量の事例などを削除し、ハンドブックの方に移行する変更を行っている。 そして、パブリックコメントにかけるのは審査基準の改訂案だけで、ハンドブックの改訂はパブリックコメントにかけない。 「審査基準」 と 「ハンドブック」 という二本立てで審査基準を構成する様式に変更したことにより、審査基準には当たり障りのない総論だけを書いておき、議論を呼びそうな各論はすべてハンドブックの方に掲載して、パブリックコメントをすり抜けることが可能となってしまった。 2月19日の投稿でも書いたけれど、こういうやり方はずるいんだな。

例えば今回の改訂でハンドブックの附属書Aに追加された以下の事項:

[ハンドブックの 附属書A 76-77ページ]
handbook76-77.png

こんなものは、審査基準の方に掲載すべきだし、もしハンドブックに記載するというのなら、審査基準改訂案とともにハンドブックもパブリックコメントにかけるべきだろう。 これは事実上の規制逃れだ。 2月18日の投稿で引用した通り、審査基準専門委員会の審議委員である淺見節子氏 (東京理科大学大学院教授) もこれについて発言していたけれど (以下に再掲)、特許庁のこうしたやり方は、ぜひ止めてほしい。

[ワーキンググループ 第8回 (H28.1.13) 議事録]
2016WG8giji01.png

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以下は、公表されたパブリックコメントで寄せられた質問をみて、「へー」っと思ったことについて。

 Q02.
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 特許庁の答え
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なるほど。 今回の改訂で、動物・植物を用途で限定しても、用途とみなさないことが明記された (審査基準改訂案第III部第2章第4節3.1.3)。 しかし、「〇〇用モデルマウス。」 みたいな特許は、これまでは認められていたのではないか、というコメントだ。

うーん。 「X遺伝子のノックアウトマウス」 自体が既知である場合に用途で限定しても、これまでだって拒絶されてそうな気もするけれど、認められることもあったかも知れない。 これまでの審査基準には、拒絶する根拠は記載されていなかったので。 つまり、これまでは認められ得た (少なくともグレーだった) 「〇〇用モデルマウス」 みたいな特許が、今回の改訂により認められなくなることがはっきりしたってことだな。

なお 「どのように記載すれば特許を受け得るのか。」 という質問に対して特許庁は、 「例えば、方法の発明とする対応が考えられます。」 と答えているけれど、とりあえずお勧めは 「使用クレーム」 にすることかな。 「X遺伝子のノックアウトマウスの〇〇モデルとしての使用。」 みたいな感じ。

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 Q20.
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 特許庁の答え
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これはイレッサの特許延長事件 (平成25年(行ケ)10326; 平成25年(行ケ)10327) の変形バージョンみたいな感じ。 イレッサの場合は、初回承認では、添付文書の注意書きに 「本剤の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない」 と記載されていたのが、2回目の承認の際に、その記載が削除された。 但し、効能・効果や用法・用量における適用対象ついては、初回承認においても 「手術不能又は再発非小細胞肺癌」 と広く規定されており、化学療法既治療例について特に記載されていたわけではなく、2回目の承認についても、効能・効果や用法・用量の欄に 「化学療法未治療例」 に関する記載が追加されたわけではない。 そいういう場合は、特許庁は 「延長は認めない」 という立場なんだろうけど、今回の質問のケースはどうなんだ、ということだ。

特許庁の答えは、、、読んでも結局どっちなのか分からない(笑)。 私もよく分からないけれど、べき論で言えば、実態によるんじゃないの? 実態として、先行医薬品が小児に使われていたのなら、実施できるようになっていたと判断すべきですよね。。

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 Q21.
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 特許庁の答え
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法改正についてどう考えているかということに関する特許庁の発言。

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 Q31.
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 特許庁の答え
H28-3-a31.png

この質問が一番興味深かったのだけど、たとえ承認を受けた医薬品が、厳格に解釈したクレームの文言範囲に含まれていなくても、その医薬品に権利行使できるような特許であるのなら、延長は認められるべきだという質問だ。 特許権は、厳格に解釈したクレームの文言範囲に含まれているものにしか権利行使できないわけじゃなくて、たとえクレームの文言範囲から外れるものであっても、均等な物に対しては権利行使できる。 例えば、承認を受けた医薬品は、クレームされている物質そのものではなくて、その異性体だけど、同じ効果があることは周知になっているような場合は、均等論が適用できる可能性があるわけだ。 確かに、そういう場合は延長できるべきですよね。。

これまで、延長された特許権の効力範囲 (68条の2) に均等論が適用できるか否かという問題については、井関涼子氏や、最近では最高裁判所調査官の田中孝一氏が論文で論じたことはあったけれど、延長を認めるか否かの判断 (67条の3第1項1号) において均等論を考慮すべきだということは、論文で取り上げられたことはないし、審査基準専門委員会のワーキンググループでも話し合われたことはなかった。 でも、確かに質問者の言う通りです。

均等論は権利行使の場面で問題となる事項だから、特許庁は関係ないなどというのは間違いで、延長の許否判断 (67条の3第1項1号) においては、特許庁は均等論を加味して、承認を受けた医薬品が特許の技術的範囲に含まれるか否かを判断すべきなのかも知れないです。

特許庁は、上記の回答において 「審査基準専門員会WGでも・・・審議は行われませんでした」 と言っているけれど、逆に言えば、今後、製薬協はこの問題について、特許庁と話し合う余地はあるんでしょうね。

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それ以外にも、パブコメの質問は興味深いのが多くて、Q01 とか、Q35 なんかも、そうだよねー、と思えるところがあった。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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