2016年03月29日

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの製造方法への訂正が可能に


特許庁は3月28日、『プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「物」の発明から「物を生産する方法」の発明へのカテゴリー変更を含む訂正審判事件の審決について』 というアナウンスを出し、訂正審判事件において、「PBPクレーム」 を 「製造方法」 に訂正することを認めたことを明らかにした (訂正2016-390005)。

最高裁判決 (平成24年(受)1204、2658; 平成27年6月5日) が、PBPクレームに 「不可能・非実際的事情」 がない場合は明確性要件違反だと判示して以来、既に特許になっているPBPクレームに 「不可能・非実際的事情」 がない場合に、もしPBPクレームを 「製造方法」 に訂正することが認められないとすると、明確性要件違反で特許が無効になることを回避する手立てがないことが問題になっていた。 これについては、最高裁判決において判決を行った千葉勝美判事自身が、補足意見において 「製造方法」 クレームへの訂正を行うことを示唆していた他、前田健氏 (AIPPI (2015) Vol.60 No.8, 717-718ページ) や田村善之氏 (Westlaw Japan 判例コラム54号) も訂正を認めることを肯定的に論じており、最高裁判決において担当調査官だった菊池絵里氏も 「製造方法」 への訂正を認めるべきだと論じていた (10月21日の投稿を参照)。

この問題について特許庁はこれまで、「事案に応じて審判合議体としての判断を審決の中で示していきます。」 と発表するに留まっていたが、今回、審判において実際に訂正を認めたことを明らかにした。

今回の公表において特許庁は、「一律に訂正が認められるものではなく、事件ごとに個別に判断されますので、ご注意ください。」 と書いてはいるが、審決 (訂正2016-390005) の 「(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて」 で審判合議体が行っている理由付けは、この事案にだけ当てはまることではなく、PBPクレーム一般に当てはまりそうだ。 つまり PBPクレームを 「製造方法」 に訂正することは、特許庁においては、例外的な場合を除いて一般に認められることになるのではないか (私見です)。 また、それに強く反対する人もいないだろう。

出願段階におけるPBPクレームの 「不可能・非実際的事情」 の審査についても、特許庁はあまり厳しく判断しないようにしているようだし、今回のように、PBPクレームから 「製造方法」 への訂正についても比較的寛容に認めていくとなれば、PBPクレームの最高裁判決でいろいろ言われた問題は、とりあえずいい感じで収まりそうだ。 昨年10月21日の投稿でも言った通り、結局は 「最高裁判決の方が大合議判決よりもいいじゃん」 ってことになりそうな気がする。

最高裁判決の衝撃が冷めやらぬ昨年7月に開かれた審査基準専門委員会ワーキンググループの第6回会合 (平成27年7月3日) で大渕哲也氏は、最高裁が 「不可能・非実際的事情」 がないPBPクレームは明確性要件違反だと判示したことにどう対処するかについて、次のように発言していた。

 [第6回 審査基準専門委員会ワーキンググループ (平成27年7月3日) 議事録より]
・・・、親切な特許庁としては、なるべくリスクを避けるべく、応急措置として必要なものは何であるか考えるということになると思われます。 これはダメージコントロールというべきものと思われます。 我々学者や実務家が予想したものがさまざまありましたが、明確性欠如と予想した人は誰もおりませんでした。 今回この判決が出たあとも、ごくごく例外的な者を除き、賛成する者はおらず、むしろ驚き、困ったけれども「判例立法」だからしようがない・・・、・・・と感じているように見受けられます。 ただ、世の中、誰も予見できないようなこと、例えば・・・震災のようなことも突然起きてくる可能性もあるので、その際には、巧みなダメージコントロールを通じてうまくつき合っていくしかないと思います。 そこは我々の英知がためされていると思われます。 ・・・。

ちょっと大げさな感じがしないでもないけれど、その当時は、PBPクレームの最高裁判決はそれなりの激震だった。 大渕氏のこの発言や、上記の前田氏や田村氏の論説は、学者側からのダメージコントロール的な働きかけと言えるだろうし、今回の審決に至る特許庁のこれまでの対応も、そうした対応の一環と捉えることもできるかも知れない。

おかげでPBPクレーム問題はとりあえず軟着陸できそう。

posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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