2016年12月29日

延長期間の調整による特許権存続期間延長制度の制度目的の達成(Sotoku 通号7号)


Sotoku, 通号7号, 1-24, 2016  (published online on 29-12-2016)

タイトル: 医薬品特許の特許権存続期間延長制度の目的と公平性の観点から見た制度のあり方について

先行医薬品を独占的に実施しながら高い代替性のある後行医薬品の承認を受け、後行医薬品の承認に要した期間と同じだけ特許期間を延長する場合において、その期間の終期が先行医薬品の承認を受けて延長した特許期間の終期と一致しない場合、延長制度により特許権者が回復できる利益は延長制度の目的から乖離したものとなる

著者:  想特 一三 (Sotoku Ichizo)


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ある生理活性化合物を発明して特許を取得した特許権者が、その化合物を含む医薬品を製造・販売したいと思っても、医薬品の製造・販売には厚労省の承認 (製造販売承認) を受けることが必要であり、そのためには医薬品の安全性や治療効果を証明するための臨床試験 (治験) を実施する必要があり、それには数年の期間を要する。 しかしその間も、特許権の存続期間は刻々と短くなってしまうため、特許権者は 「医薬品」 という特許発明を実施することができないまま、特許期間だけが侵食されるという不利益を被る。

特許権の存続期間の延長登録制度は、その不利益を回復させるために導入された制度だと理解した上で、制度をどのように運用すれば制度目的を達成できるのかについて、本稿では考えた。

例えば、特許権者がまず 「第1の医薬品」 について製造販売承認を受け、その承認にかかった期間だけ 「第1の医薬品」 に関して特許を延長する。 そして、特許権者が、「第2の医薬品」 について製造販売承認を受けたら、その承認にかかった期間だけ 「第2の医薬品」 に関して特許を延長する。 そして、「第1の医薬品」 に関して延長した特許権の効力は、「第2の医薬品」 には及ばず、「第2の医薬品」 に関して延長した特許権の効力は、「第1の医薬品」 には及ばない。 この考え方は、とてもシンプルで、侵食された特許権の存続期間を忠実に回復させるという意味では、正しい延長だと言えるだろう。 前回の投稿で述べた通り、同志社大の井関涼子氏は、基本的には、延長制度はそうあるべきだと考えているのだろうと思われるし、私も Sotoku 通号1号 を書いていたころは、そう考えていたと思う。 とりあえず、これを 「井関説」 と呼ぼう。

しかし、「第1の医薬品」 と 「第2の医薬品」 に市場競合性がある場合、そのような「井関説」 に基づく制度にしたのでは、2つの問題が生じる。

1つ目の問題は、「第1の医薬品」 の承認にかかった期間よりも、「第2の医薬品」 の承認にかかった期間の方が短い場合、例えば、「第1の医薬品」 の承認に5年かかって、「第1の医薬品」 について5年延長し、「第2の医薬品」 の承認には2年かかって、「第2の医薬品」 について2年延長した場合に、下図のように、「第1の医薬品」 に関して延長した特許権の効力は、「第2の医薬品」 には及ばず、「第2の医薬品」 に関して延長した特許権の効力は、「第1の医薬品」 には及ばないとすると、延長期間が2年経過すれば、「第2の医薬品」 に関してジェネリック医薬品が販売可能となってしまう。

Sotoku 通号7号, 図5より(一部改変)]
S7_fig5kai2.png

上の図は、有効成分に関する物質特許の存続期間を表していて、左から右に時間が進む。 「第1の医薬品」 と書いてあるところの黒い線は、「第1の医薬品」 の特許権者による販売期間を表していて、黒い線の一番左にある細い白い四角は、「第1の医薬品」 の承認を受けようした期間 (5年) を表している。 「第2の医薬品」 に関しても同様で、「第2の医薬品」 の承認を受けようとした期間は「2年」となっている。

上述の通り、延長期間が2年経過すると、「第2の医薬品」 に関してジェネリック医薬品が販売可能となる。 そして、もし 「第2の医薬品」 に対するジェネリック医薬品が販売されてしまうと、特許権者の 「第2の医薬品」 の販売量が落ち込むだけでなく、市場競合性のある 「第1の医薬品」 の販売量まで落ち込んでしまうので、もはや 「第1の医薬品」 に関してあと3年延長期間が続いていることは、あまり意味がなくなってしまう。 つまり、「第1の医薬品」 の承認にかかった期間よりも、「第2の医薬品」 の承認にかかった期間の方が短い場合、特許権者は不利益を負ってしまうのだ。 これが、1つ目の問題だ。

2つ目の問題は、「第1の医薬品」 の承認にかかった期間よりも、「第2の医薬品」 の承認にかかった期間の方が長い場合、例えば、「第1の医薬品」 の承認に2年かかって、「第1の医薬品」 について2年延長し、「第2の医薬品」 の承認には5年かかって、「第2の医薬品」 について5年延長した場合は、今度は上とは逆のことが起こるということ。

Sotoku 通号7号, 図8より(一部改変)]
S7_fig8kai2.png

この場合、延長期間が2年経過すれば、「第1の医薬品」 に関してジェネリック医薬品が販売可能となるが、「第2の医薬品」 については、まだ3年の延長期間が残っているので、そのジェネリック医薬品は販売できない。 このとき、「第1の医薬品」 の需要が、競合する 「第2の医薬品」 に奪われてしまっている点が問題なのだ。 特許権者が 「第1の医薬品」 しか販売しておらず、「第2の医薬品」 をまだ販売していないころは、この有効成分を含む医薬品を使いたい患者は、みな 「第1の医薬品」 を使うしかなかった。 だから全員が 「第1の医薬品」 を使っていた。 特許権者が 「第2の医薬品」 の承認を受けようとしていた間も、基本的には、患者はみな 「第1の医薬品」 を使うしかない。 だから特許権者は、「第1の医薬品」 を安定して販売しつつ、「第2の医薬品」 の承認のために手続を受けられる。

ところが特許権者が 「第2の医薬品」 の販売を開始すると、「第1の医薬品」 を使っていた患者は、「第1の医薬品」 を使うのをやめて、「第2の医薬品」 を使うようになるかも知れない。 例えば、「第1の医薬品」 よりも 「第2の医薬品」 の方が、副作用がより抑えられているとか、薬剤の安定性が高いなどの場合、ほとんどの患者が 「第2の医薬品」 の方を使うようになるかも知れない。 そうすると、「第1の医薬品」 の需要は低下してしまうかも知れない。

その状況で、「第1の医薬品」に関してジェネリック医薬品が販売可能となっても、ジェネリック医薬品メーカーとしてはうれしくないし、特許権者は、需要がなくなった 「第1の医薬品」 だけをジェネリック医薬品メーカーに明け渡して、「第1の医薬品」 を使っていた患者から需要を取り込んだ 「第2の医薬品」 については引き続き独占できるわけだから、事実上、この有効成分の医薬品に関する独占状態を5年に引き延ばすことができることになる。

裁判所や学者らは、このことを問題視していないけれど、こういうやり方で独占状態を維持して利益を上げ続けるというのは、本稿 (Sotoku 7号) で説明した通り、延長制度の趣旨を逸脱している。 これが、「井関説」 の2つ目の問題。

今回の Sotoku 7号では、上記の 「1つ目の問題」 と 「2つ目の問題」 を表裏一体の問題として取り上げて、この2つを解決できる制度でなければ、延長制度の趣旨に沿った公平な制度とは言えないということを説明している。

「井関説」 は、一般には、特許権者に一方的に厳しい説だとみなされていると思うが、実はそうではない。 上の 「1つ目の問題」 で説明した通り、「第1の医薬品」 の承認にかかった期間よりも、「第2の医薬品」 の承認にかかった期間の方が短ければ、確かに特許権者に不利になるが、「2つ目の問題」 で説明した通り、「第1の医薬品」 の承認にかかった期間よりも、「第2の医薬品」 の承認にかかった期間の方が長い場合は、たとえ 「井関説」 をもってしても、延長制度の趣旨を超えた過大な利益を特許権者に与えてしまうことになるということを、学者や裁判所の人たちには分かってほしい。

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さて、12月7日の投稿で触れた、神戸大の前田健氏や、北大の田村善之氏の説は、上記の 「1つ目の問題」 に対処するために、延長された特許権の効力範囲を、「市場競合性のある医薬品」 の範囲に拡大するというもので、いわば、下図のような感じにするというものだ。

Sotoku 通号7号, 図6より(一部改変)]
fig6kai2.png

このようにすれば、確かに 「1つ目の問題」 については解決できるかも知れないが、「第1の医薬品」 の承認にかかった期間よりも、「第2の医薬品」 の承認にかかった期間の方が長い場合はどうだろうか?

Sotoku 通号7号, 図21より(一部改変)]
fig19kai2.png

この場合、結局5年間は 「第1の医薬品」 のジェネリック医薬品も、「第2の医薬品」 のジェネリック医薬品も販売することはできないわけで、「井関説」 よりも、もっと過大な利益を特許権者に与えてしまうことになる。 つまり 「2つ目の問題」 に関しては 「井関説」 よりもひどい状態になってしまうわけで、田村説や前田説が「2つ目の問題」 を解決できないのは明らかだ。

「井関説」 は、「1つ目の問題」 については特許権者に不利になるが、「2つ目の問題」 については特許権者に有利になる点で、まだバランスは取れていると言えるが、田村説や前田説は、「1つ目の問題」 については、延長された特許権の効力範囲を広げることにより解決するものの、「2つ目の問題」 については解決するどころか、延長された特許権の効力範囲が広いことにより、さらに特許権者が有利になってしまう点で、一方的に特許権者に有利な不公平な考え方となっている。 その意味では、「井関説」 の方がまだいいというべきだろう。

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ところで、『「医薬系 "特許的" 判例」ブログ』 の 12月24日の投稿 では、延長された特許権の効力をどう及ぼせばよいかという問題について、かなり踏み込んで提案が行われている。 それを読むと、特許権者が代替性のある2つの医薬品 (例えば 「初回承認医薬品」 と 「新剤形医薬品」) について特許を延長していて、後発メーカーが 「新剤形医薬品」 のジェネリック医薬品について承認を受ける場合、その承認が、新剤形医薬品の承認だけでなく、初回承認医薬品の承認にも依拠している場合は、新剤形医薬品の延長された特許権の効力だけでなく、初回承認医薬品の延長された特許権の効力も、重複してそのジェネリック医薬品に対して及ばせるべきだと論じられている。 私も、延長された特許権の効力が及ぶ対象は、特許権者の医薬品の承認手続に対する 「依拠性」 で判断すべきだと思っているので、その点では考え方は近いと思う。 しかし 「依拠する」 といっても程度はいろいろで、1つのジェネリック医薬品の承認を受ける場合に、仮に複数の先行医薬品の承認に依拠することがあるとしても、必ずしも、それぞれの先行医薬品の承認にフルに依拠するわけではないので、それぞれの延長期間が、そのまま重複してジェネリック医薬品に対して適用される合理性はないんじゃないかなという気がする。

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ともかく、上の 「図5」 や 「図8」 に示したように、たとえ延長された2つ特許権の効力が、重複して1つのジェネリック医薬品に及ぶことがないとしても、初回承認で延長した期間よりも、2回目の承認で延長した期間の方が長い場合は、延長制度の趣旨を超えた利益を特許権者に与え得ることになってしまい、その分、後発メーカー (ひいては国家財政や国民) が不利益を受けることになる懸念があるのは今回の Sotoku 7号 で論じた通り。 この問題を、「延長された特許権の効力が及ぶ対象」 を調整することできれいに解決することは難しく、この問題を解決するためには 「延長期間」 を調整すること、すなわち、たとえ 「第2の医薬品」 の承認を受けたとしても、延長期間は 「第1の医薬品」 の延長期間にそろえるというのがもっとも合理的だというのが、今のところの私の考えだ。

但し、例えば特許権者が第2の医薬品を販売することによって、初回承認医薬品に比べて爆発的に売り上げが増加したような場合は、延長期間を初回承認医薬品で延長した期間にそろえてしまうのでは特許権者が可哀そうなのは確かだ。 そこで私も、そういう場合に救済の道はないかと Sotoku 7号 で少し考えてはみたけれど、なかなかやっかいだった (Sotoku 7号 の 20ページ、脚注6 参照)。 市場競合性の範囲を決めるにあたって、この点を考慮した判断基準にすることはあり得るかなと思っているけれど、詰めては考えてない。

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さて、知財高裁大合議が、この問題に関して来年1月20日(?)に判決を出すのなら、もう一ヶ月もないことになる。

果たしてどうなりますかね。


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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