2017年02月08日

田中孝一最高裁判所調査官解説[第三小法廷平成27.11.17判決;平成26(行ヒ)356]


医薬品特許の延長登録に関する2年前の最高裁判決 平成26(行ヒ)356 (2015年11月17日判決) の際に最高裁判所調査官を務めた田中孝一氏による最高裁判所判例解説が出たので読んでみた (法曹時報 68(12) 2016-12 p.3167-3192)。

最高裁判決が出て以降、田中氏は昨年4月に Law & Technology (L&T, 71号, 2016-04, 78-87) に判例解説を投稿しており、今年の1月号のジュリストにも投稿している (ジュリスト, No. 1501, 2017-01, 82-87)。 判例時報 No.2309 (2016-12) 127頁の匿名解説も田中氏かな。 昨年の L&T の解説を読んた際には、あまりぴんと来なかったので特に感想も書かなかったけれど、今回、本命の判例解説が法曹時報に公開されたので、これを材料に、改めて延長制度の問題点を考えてみたいと思う。

(1) 先行医薬品を独占販売しながら、似たような後行医薬品の承認で延長を行う “重畳延長” をどう考えるのか

例えば、延長を認める条件について田中氏は、以下のように論じている。

[田中孝一, 法曹時報 68(12) 2016, 3187ページより]
Tanaka_houji01.png

上に引用した通り、田中氏は、最高裁判決は 『医薬品の成分を対象とする物の発明について,医薬品の実質的同一性に直接関わることになる審査事項は,成分,分量,用法,用量,効能及び効果であるとし,本判決が,原審の知財高裁と同一の考え方であることを明示している。』 と指摘している。 確かに最高裁はそのように判示した。 これは、医薬品の 「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」 のいずれかが先行医薬品の処分とは実質的に異なるとみなせるのなら、基本的には延長は認められるということだろう。

但し田中氏は以下のようにも書いている。

[田中孝一, 法曹時報 68(12) 2016, 3188ページより]
Tanaka_houji03_3188.png

数値がわずかでも異なれば延長が認められるというものではないというのは、まぁ、常識的に考えて当たり前に求められることだろうなとは思うのだけれど、上記の 「(注19)」に書いてあることを読むと、『医薬品としての有用性薬理作用機序適応対象の違い等の様々な事項から実質的な違いの有無(実質的同一性) をみるとともに, 「特許発明の種類対象に照らして」(特許発明の実質的価値がどこにあるかを踏まえて) そうした比較をしていくことも許されるように思われる。』 と書いてある。 しかし、それって、考えられる事項が全部書き出されているわけで、結局何も言わないとの大して変わらないことになる気がするのだけど。。 12月7日の投稿で、今回の最高裁判決に関して 「もっとはっきりした見通しを示すべきで、見通しがないのなら、思わせぶりなことを言うべきではない。」 と書いたが、関係ありそうな事項を列挙するというのは、「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」 だけではうまく行かないということを認めることでもあり、また、確かな見通しがないこと認めることでもあると言えるのではないか。

それはともかく、基本的には医薬品の 「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」 のいずれかが先行医薬品の処分とは実質的に異なるとみなせるのなら、延長は認められると考えて話を進めよう。

さて、それでは 「延長された特許権の効力範囲」 については、田中氏はどう考えているのだろうか? 例えば以下。

[田中孝一, L&T No.71 2016-04 87ページ]
Tanaka_LT71-87__.png

上に引用した通り、「有効成分および効能効果を同一とする範囲に延長後の特許権の効力が及ぶと考えるのとそれほど変わらないこととなる可能性はあるように思う。」 と書いてある。 すなわち、旧々審査基準 (平成23年改訂前の昔ながらの審査基準) と同じように、「有効成分と効能効果」 が同じ範囲にまで拡大することに好意的なのだ。 また、田中氏はこんなことも論じている。

[田中孝一, 法曹時報 68(12) 2016, 3184ページより]
Tanaka_houji02_3184_3.png

延長を認めるか否かに関しては、基本的には医薬品の 「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」 のいずれかが先行医薬品の処分とは実質的に異なるとみなせるのなら何回でも延長を認めることを許容してよいので、延長は “細切れ” になる。 しかし延長された特許権の効力範囲について田中氏は、それに連動させて細切れにする必要はなく、「有効成分および効能効果を同一とする範囲」 にまで拡大させる可能性もあると考えており、そうすれば、延長された特許権の効力範囲については、一気に拡大されることになるから、細切れにならなくてよかったじゃないか、という感じで論じているのだ。

これは思いっきり “重畳延長” を認めているということだろう。 「細切れにはならない」 とは言っても、延長された特許権の効力範囲を一気に拡大させるというのだから、後発者にとってはまったくありがたい話ではないし、後行医薬品の承認に要した期間の方が長ければ、“延長期間” はその分、長くなるのだから、延長期間は細切れに延びて行くことに変わりはない。 田中氏のこの考え方は、12月7日の投稿で話題にした北大の田村善之氏が論じていたことと近い。 ちなみに田村氏は重畳延長を認めており、延長期間が細切れに延びていくことについて、「一度に一挙に5年間延長されようが、何度かに分かれて細切れに延長されようが、後発者は当初から覚悟しておけというのが、法の判断であるというべきであろう」 と論じていた (Westlaw japan の判例コラム第63号)。

昨年1月7日の投稿でも言った通り、「細切れか否か」 ということは大した問題ではない。 特許権者が、延長制度の趣旨にもとる利益を受けることになるか否かということが問題なのだ。 だから、この問題を 「後発者の予測可能性」 の問題として捉えるのは、問題のもっとも大事なことを無視するものだ。 田中氏や田村氏がこの問題を軽視できるのは、この問題を 「予測可能性」 の問題に限定して考えているからだろう。

田村氏のように、大学にいる比較的自由な立場の人が論じるのはまだ分かる。 でも田中氏は裁判官でしょう? 当事者間のバランスとか、そういうことに気配りする職業の人だと思うのだけれど、そういう人がなんでこういうことを言うのかなぁ。。 でも思っていることを言うのはいいことだ。 それに、こういうことを言っている裁判官は田中氏だけではない。 平成27年(ワ)12414 判決 (嶋末和秀裁判長) でも、有効成分の物質特許に関しては延長された特許権の効力範囲は広いのだと説示されていて、その判決の中で嶋末コートは以下のように説示している。

平成27年(ワ)12414 平成28年3月30日判決 (嶋末和秀裁判長) 23ページより]
H27(wa)12414_23-4.png

このように嶋末コートも、「禁止が解除される範囲」(すなわち、再延長を認めない範囲) よりも、延長された特許権の効力の方が広いことにより、既に延長された特許権の効力が及んでいるところが再び延長され、複数の延長された特許権の効力範囲が重なり合うことを認めている。

ところで、田中氏は上記の L&T の引用の中に記載されている通り、延長された特許権の効力範囲を 「均等論」 を適用して拡大させることを示唆していた。 それに対し、1月20日の大合議判決 (平成28(ネ)10046) は、延長された特許権の効力の判断において均等論を適用することは誤りだと説示した。 しかし大合議自身も、有効成分の物質特許の場合は、延長された特許権の効力範囲を広くすることを示唆しており、たとえ大合議判決は均等論の適用を否定する立場だとしても、それなりに広い範囲に延長された特許権の効力を及ぼすことを想定している。 したがって、その点は田中氏の考えと一致しているとは言えるだろう。

ちなみに、今回の大合議判決は “重畳延長” を認めているのだろうか? これについては、大合議判決は明示的には何も説示していない。 しかし例えば 「医薬系"特許的"判例ブログ」 の tokkyoteki氏は、1月22日の投稿の中で、今回の大合議判決は重畳延長を認めているのだろうという立場で以下のように書いている。

[医薬系"特許的"判例ブログ, 2017年1月22日の記事 より]
tokkyoteki_20170122_3.png

もしそうだとしたら、先発メーカーにとっては、とても “妥当な内容” でしょうね。 私は、知財高裁の判事が、よもやそんなことを認める立場であるはずはないと期待しているから、延長された特許権の効力における “実質同一” の解釈と、延長の許否を判断する場面における “実質同一” の解釈を一致させることによって、“重畳延長” を防ぐということを想定しているのかなぁ、と想像している。 だから前回の投稿でも、「たとえ “実質的同一” の解釈を、法67条の3第1項1号における実質的同一の解釈と連動させるとしても・・・」 と書いた。 しかし、延長の許否に関する最高裁判決 平成26(行ヒ)356 における 「実質同一」 は、そんなに広い範囲に拡大することを想定しているものではないだろう。 上記のように、田中氏が延長された特許権の効力範囲を 「均等論」 で拡大することを論じているのも、「実質同一」 で拡大できる範囲は高が知れていると考えているからだろう。 だから、仮に延長された特許権の効力における “実質同一” の解釈と、延長の許否を判断する場面における “実質同一” の解釈を一致させることにした場合、その範囲を 「有効成分および効能効果が同一の範囲」 にまで拡大させるのはかなり無理がある。 知財高裁の判事らがそこをどう考えているのか、知りたいところだ。

このような “重畳延長” について嶋末コートは、上に引用した通り平成27年(ワ)12414判決の中で、『第三者の利益が不当に害されることはないというべきである。』 と説示している。 しかし本当にそうなのか?

例えば今回のようなケースにおいて、特許権者が 「オキサリプラチン」 自体の物質特許を持っていたと仮定しよう。 そして、特許権者は、まず先行医薬品として、オキサリプラチンの 「凍結乾燥製剤」 について4年をかけて承認を受け、特許を4年延長したとしよう。 その場合、上の田中氏や嶋末コートの説示に従えば、延長された特許権の効力は、「有効成分と効能効果が同一の範囲」 という広い範囲に及ぶのだろうね (下図の赤い円)。 例えば、有効成分は 「オキサリプラチン」 であり、効能効果は 「切除不能の大腸癌」 だとすれば、それらが共通する限り、剤型に関わらずに延長した特許権の効力が及ぶことになる。

tyoujouenntyou_ox01.png

その後、特許権者は、後行医薬品としてオキサリプラチンの 「水溶製剤」 を開発し、凍結製剤から水溶製剤に販売を切り替えるべく、水溶製剤の承認を5年をかけて受け、これにより特許を5年延長したとしよう (話をはしょっているが、もちろん、臨床試験は追加する効能などのために実施するのではあるが、当然、凍結製剤のときと同じ効能効果に関しても承認を取るのだ。)。 その場合、田中氏や嶋末コートの説示に従えば、水溶製剤について延長された特許権の効力は、またまた 「有効成分と効能効果が同一の範囲」 という広い範囲に及ぶのかね? (下図の青い円)

tyoujouenntyou_ox02_2.png

もしこれがまかり通るのなら、「オキサリプラチン + 切除不能の大腸癌」 という部分は、4年経てばパブリックドメインに落ちるはずだったのに、5年になってしまう。 嶋末コートは、なぜこれを 「第三者の利益が不当に害されることはないというべきである」 と言えるのだ?

上にも引用したが、延長した特許権の効力範囲の方が、医薬品承認により実施可能となる範囲よりも広くしてよい根拠について嶋末コートは、以下のように説明している。
 ↓
平成27年(ワ)12414 平成28年3月30日判決 (嶋末和秀裁判長) 23ページより]
H27(wa)12414_23-2.png

嶋末コートは、延長制度の趣旨は、研究開発に費やされた費用を回収させるとともに、特許権者のインセンティブを高めることにあると説示し、「インセンティブを高める」 という目的が、あたかも、侵食された特許権の存続期間を回復させるだけでは達成することができず、それとは別途、追加的な保護を特許権者に与えなくてはならないかのように説示し、その流れで、重畳延長を正当化しようとしているのだ。 昨年12月19日の投稿で話題にした田村氏の “二本柱理論” も同じような発想に基づくものだ。 しかしそのような考え方をしては、侵食されたものを回復させるという原則から乖離してしまい、独自判断あるいはどんぶり勘定に陥る危険があるのではないか。 延長制度の趣旨は、承認に時間がかかることによって存続期間が侵食されるので、それよって特許権者が被ることになる不利益を回復させるために、侵食された権利と期間を回復させることにある。 したがって、それを忠実に回復させることが、延長制度の趣旨に沿うことになるのであって、特許権者のインセンティブを高めるために別途おまけを与えて調整するようなことを考える必要はない。 インセンティブを高めるという機能は、特許制度自体に本来備わっているのだから、その本来の制度通りに回復させることを目指すべきなのだ。

実際のところ、医薬品の承認を受けるために時間を要することにより、通常の特許に比べて、許権者はどのような不利益を受けるのか。 承認を受けようとする局面においては、承認を受けるためには臨床試験などを行わなければならず、そのためには時間がかかってしまい、特許権者は医薬品を販売できないという不利益を受ける。 そして後発者により後発医薬品が販売される局面においては、本来であれば医薬品の承認を受けるためには臨床試験を行わなければならないところ、後発医薬品については、特許権者が実施した臨床試験の結果を流用することにより、本来要するはずの臨床試験などにかかる時間が不要となることによって、特許権者の場合よりも早く後発医薬品の販売が開始されてしまうという不利益を受ける。 そう考えれば、延長が認められる条件としては、「承認を受けようとする間、特許権者は医薬品を販売できないという不利益を実質的に受けている」 ことが必要であって、「実は代替性のある先行医薬品を販売しており実質的には不利益を受けていませんでした」 などということがあってはならないことが求められることは自明であろうし、また延長された特許権の効力がおよぶべきは、特許権者が受けた医薬品の承認を流用することにより、臨床試験をまぬがれて時間を節約したとみなせる後発薬であることは自然に理解できるだろう。 そういったことをまったく無視して、いったいどうやって延長制度の趣旨を実現できるというのだろうか。

*     *     *

さて、上の話は 「延長された特許権の効力範囲」 が重なり合っていいのかという観点で書いてきたが、すでに Sotoku 7号 で説明した通り、「延長された特許権の効力範囲」 が重なり合わなければいいというものではない。 たとえ延長された特許権の効力範囲が重なり合っていなくても、延長された特許権の効力をかいくぐって後発者がジェネリック医薬品の承認を受けることができない程度に広い限りは、特許権者の2つの医薬品の市場シェアが重なり合っているだけで、特許権者は延長制度の趣旨を超えた利益を得ることができてしまうからだ。 いつも書いているが、「後行医薬品の承認で延長したいというのなら、後行医薬品の承認を受けようとする間に、後行医薬品が市場に出ていないおかげで、その分、先行医薬品を多く販売して得た利益を返しなさいよ。」 ということだ。 延長問題はこれに尽きる。 先行医薬品を多く販売できて得た利益を返しもしないで、後行医薬品の承認を受ける間、後行医薬品を実施できなかったことで被った不利益を回復させろというのは、ずるい要求であって衡平の理念にもとる。

ところで、今回の大合議判決 平成28年(ネ)10046 では、裁判所の説示において “衡平” という言葉が何回が使われており、特に “衡平の理念にもとる” という言葉が2回登場する。 しかしこの2回は、いずれも特許権者の利益を守るために延長された特許権の効力を広げることを正当化するために使われている。 しかし現在の延長制度は、代替性のある医薬品を複数延長することよって、特許権者が延長制度の趣旨を超えた利益を得ることを許してしまうという点で、衡平の理念にもとる制度となり得るということを、学者や裁判官は認識すべきだ。 それを無視したり、見て見ぬふりをするのは、それこそ衡平の理念にもとる。

以上の通り、この問題を、「延長された特許権の効力範囲の重複問題」 と捉えてはいけない。 問題を根本的に解決するためには、「延長された特許権の効力範囲」 が重なり合わないようにするだけでは駄目なのであって、延長期間が異なる特許権者の2つの医薬品の市場シェアが強く競合するような事態が起きないような制度にする必要がある。

そして再三言っている通り、延長された特許権の効力範囲を調整するだけでは問題を解決することは難しいだろう。 最初の承認で延長した特許権の効力範囲は広くして、後の承認の延長では、効力範囲を異常に狭くすれば、多くの場合、問題を低減することはできるだろうが、そういうやり方は、弥縫策でしかない。

***      ***      ***

(2) 延長しようとする特許の技術的範囲に先行医薬品が属しないのなら、延長を認めるのは当たり前なのか?

平成23年の最高裁判決 平成21(行ヒ)326 (パシーフカプセル30mg事件) では、延長しようとする特許の技術的範囲に先行医薬品が属しないのなら、延長を認めるべきだと判示した (以下に引用)。

平成21(行ヒ)326 より]
H21gyouhi326.png

この判決がいかにミスリーディングな判決であるのかということを、このブログでは再三言っているが、私以外に誰もこのことを論じない。

例えは、今回の判例解説で田中氏は、以下のように論じている。

[田中孝一, 法曹時報 68(12) 2016, 3187ページより]
Tanaka_houji04_3187.png

また、今回の判例解説で田中氏は、前回のパシーフカプセル30mg事件の最判 (平成21(行ヒ)326) のときに調査官を務めた裁判官の山田真紀氏の判例解説を引用している。

[田中孝一, 法曹時報 68(12) 2016, 3186ページより]
Tanaka_houji03_3186.png

はずがない」 とか 「余地はない」 とか、本当にそうなのか?

例えば、ある医薬品で承認を受けたとする。

sen_kou_gijututekihanni-001.png

その先行医薬品には、いわゆる 「処分の範囲」 というものが存在するわけだ。

sen_kou_gijututekihanni-002.png

ちなみに、私は 「処分の範囲」とか 「処分に包含される」 という言い方は嫌いだ。 例えば現在、イレッサの先行処分の範囲には、EGFR変異陽性患者への適用に限定したイレッサの後行処分が包含されていると解されている。 しかし、イレッサの先行処分によって、EGFR変異陽性患者への適用に限定したイレッサを製造販売できたのかと言えば、できなかった。 それは Sotoku 2号の 3〜5ページに書いた通り、EGFR変異陽性患者群で臨床試験を行って、その有効性を確認しない限りは、本当にEGFR変異陽性患者群で効果があるのかは分からないからであって、その確認が行われていない先行処分の臨床試験の結果だけでは、EGFR変異陽性患者への適用に限定したイレッサの製造販売を認めるわけにはいかないからだ。 したがって、イレッサの後行医薬品は、先行処分に包含などされていない。 イレッサの問題は、代替性のある先行医薬品を特許権者が独占していたのかという観点で解決すべき問題であって、“処分に包含されている” などという知財高裁の判決 (平成25年(行ケ)10326; 平成25年(行ケ)10327) や現在の審査基準は、いわばこじつけに過ぎない。 私も、「代替性があるのか」 ということを、いちいち個別の案件ごとに判断することにこだわっているわけではなく、そうみなせる範囲をあらかじめ条文として規定しておく制度にすることもあり得るとは思うが、少なくとも何が本質的な問題なのかということを意識しながら制度を作るべきだ。 しかしその話はとりあえず置いておいて、「処分の範囲」 というのは、これ以降は延長登録出願を認めない範囲みたいなものだと理解して話を先に進めよう。

そして、特許権者が、先行医薬品を含まないような特許を取ったとする。

sen_kou_gijututekihanni-003.png


上図の通り、“先行医薬品” は、特許発明の技術的範囲には包含されていない。 しかしたとえ “先行医薬品” が特許発明の技術的範囲に包含されていなくても、先行医薬品の処分の範囲は、特許発明の技術的範囲にかぶってしまうことは十分あり得るわけだ。

そして特許権者が、そういう後行医薬品について承認を受けたとする。

sen_kou_gijututekihanni-004_.png

それで?

先行医薬品が特許発明の技術的範囲に属しないのであれば、先行処分の範囲が、後行医薬品を包含するはずがないとまだ思いますか?

今回のオキサリプラチンの例で分かりやすく書けば、こういう感じだ。

sen_kou_gijututekihanni-ox.png


この問題については、私は2年半前の投稿でも書いたし、1年半前に出したSotoku 5号の3ページや7ページでも書いた。 後行医薬品が先行医薬品とわずかに違うだけでも、別特許になってさえいれば延長が認められてしまうのが現在の延長制度なのであって、そのような現状をもたらしたのが、パシーフカプセル30mgの最高裁判決 平成21(行ヒ)326 なのだ。

この問題に触れずに延長問題を語ること自体、分かっていない証拠ではないか?

そして、別特許になってさえいれば延長が認められてしまうというのが現在の特許制度である以上、このような状況のもとで特許権者に衡平の理念にもとる利益を与えないためには、延長された特許権の効力範囲を極限まで狭くすることを考えるのは自然だろう。 だから、平成26年5月30日の飯村裁判長が出した大合議判決(平成25年(行ケ)10195〜10198) において、延長された特許権の効力が異常に狭いことを示唆したのは必然だったのだと解釈したのが、Sotoku 5号の7ページで説明したことだし、2015年06月24日の投稿で書いたことだ。 嶋末コートや今回の大合議判決 (平成28(ネ)10046) が、“本件” の延長された特許権の効力範囲を異常に狭く解釈したのも、言ってみればこの問題があるからであって、先行医薬品である凍結乾燥製剤が本件特許の技術的範囲に含まれない以上、パシーフカプセル30mgの最高裁判決が障害となって延長そのものを否定することはできないため、延長された特許権の効力範囲を異常に狭く解釈することによってバランスを図ったのだと捉えることができるだろう。 しかし先にも言った通り、それは弥縫策に過ぎず、本筋の解決を目指すのなら、先行医薬品で市場を独占していた範囲については延長をそもそも拒絶するか、あるいは Sotoku 7号 で説明したように延長期間をそろえることにより解決を図るべきで、そのためには先の2件の最高裁判決を再評価することを避けて通ることはできないだろう。

*       *       *

今回の田中氏の判例解説では、こういうことについて問題意識を持っていることはうかがわれず、延長の要件の問題と延長した特許権の効力の問題は “別個の問題” と論じ、延長された特許権の効力範囲をだた拡大することを肯定している点については残念。 しかしそれは、上述の通り、「第三者の利益が不当に害されることはない」 と説示して重畳延長を肯定している嶋末コートも同じであるし、せっかく大合議を組んで “衡平の理念” を持ち出しながら、この問題に取り組まず、延長の要件の問題を視野から外して判決を行った今回の大合議判決 (平成28(ネ)10046) も同じなのだ。

[2017/2/9-11 “”とか、ちょっと修正!]


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック