2017年05月31日

プラバスタチンナトリウム事件を引き起こしたのは誰か (Sotoku 通号8号)


Sotoku 通号6号 の脚注29および33で、「いずれ検討したい」 と書いてからずいぶんと日にちが経ってしまったが、それを検討してみたのが本稿 Sotoku 通号8号。

内容は、途中までは推理もの(?)っぽい感じになっていて、最初の方は審査経緯が延々と書いてあって退屈かも知れないけれど、「6.」節まで読めば多少は面白いのではないか。 後半は、一橋大特許庁の岡田吉美氏が論じている考え方にも触れつつ、プラバスタチンナトリウム事件のような発明にはどのような特許を与えればよいのかについて、比較的真面目に考えるものとなっている。 最後まで読めば、論文の 「 〜〜〜事情」 という題名の意味も分かるはず。

本稿の 「9. 」節を読めば分かる通り、私にとって本稿は、実は8年越しの論文なのだ。

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Sotoku, 通号8号, 1-36 (2017)  (published online on 31-05-2017)

タイトル: 実施可能ではない態様を包含する発明に特許を付与してもよい事情

プラバスタチンナトリウム事件におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム (PBPクレーム) の審査・審判経緯や審査ハンドブックの事例の検討を通して浮かび上がる特許庁サイドの問題点

著者:  想特 一三 (Sotoku Ichizo)


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プラバスタチンナトリウム事件の対象特許 (特許3737801) の請求項1は、以下のようなPBPクレームとなっている。

【請求項1】 次の段階:
 a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
 b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
 c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
 d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
 e)プラバスタチンナトリウムを単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。

この特許の無効審判 (無効2008-800055) において、特許庁の審判合議体は、この特許を有効と判断し、無効審判請求人の請求を退ける審決を下した。

この審決におけるPBPクレームの解釈について、特許庁長官は、『 ・・・ 請求項1に記載されたa)〜e)の工程は,結局のところ,・・・ 「プラバスタチンラクトンが0.2重量%未満で且つエピプラバが0.1重量%未満」 のプラバスタチンナトリウムに,さらになんらかの限定を加える事項ではないと理解することができる。』 との見解を示した (平成21年(行ケ)10284 の判決文に引用されている長官意見を参照)。

つまり、PBPクレーム中に書かれている製法の記載は、発明をなんら限定していない “蛇足” であって、請求項1の発明は、『プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム』 と同じだとみなされて特許を維持する審決が下されたのだと明言したのだ。

昨年7月に公開したSotoku 通号6号 において私は、長官のこの発言は誤りだと指摘した。

  [Sotoku 通号6号の脚注29]
29 実際には、審判においてこのPBPクレームがそう解釈されていたわけではなく、特許庁長官の審決の理解は誤りだと考えている。 本件の審決(無効2008-800055)におけるクレーム解釈についてはいずれ別稿かブログで検討したい。

では、本件の審決はこのPBPクレームをどのように解釈していたのか?、特許庁長官の見解はなぜ誤りだと言えるのか?、そして、特許庁長官はなぜそのような意見を述べたのかについて考える材料を提供するのが本稿の前半。 そして本稿の後半では、プラバスタチンナトリウム事件のような発明にはどのような特許を与えるのが適切であるのかについて、一橋大特許庁の岡田氏の論文を参照しつつ検討する。 そして特許庁が公表している 「審査ハンドブック」 に掲載されている事例や上記の特許庁長官の見解からして、この問題に関して特許庁は、考え方がおかしいよね、ということについて説明する。

プラバスタチンナトリウム事件に関しては、特許庁はどちらかというと “被害者”、すなわち、特許庁は出願人のためにPBPクレームを寛容に認めてきたのに、最高裁がいきなり 「不可能・非実際的事情がないPBPクレームは明確性要件違反だ」 と判示したために、特許庁はその対応に追われてお気の毒だと思っている人は多いかも知れない。

しかし実際は違うのであり、特許庁こそがプラバスタチンナトリウム事件を引き起こしたのだという見方もできることが、本稿を読めば分かるだろう。


[2017/6/1 修正!]


posted by Ichizo Sotoku at 08:00 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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